「まんじゅうや」票が認められず⇒現職が“1票差”で当選無効…裁判所が示した“理由”とは【神栖市長選挙】
3日、昨年の茨城県神栖市長選挙における当選の効力をめぐり、東京高裁(佐藤哲治裁判長)は、現市長である木内敏之氏(65)の請求を棄却する判決を言い渡した。これにより、木内氏の得票のうち「まんじゅうや」「だんごさん」と書かれた2票を「無効」とし、木内氏の当選を無効とした茨城県選挙管理委員会の裁決が適法と認められた。
なぜ「まんじゅうや」は認められなかったのか木内氏側の主張は、「実家が120年以上続く老舗和菓子店(木内製菓)であり、自分自身も長年勤めていたことから、市内において『まんじゅうや』は自身の呼称として定着している」というもの。投票者の投票意思は明白であると訴えた。
しかし、佐藤哲治裁判長は、「神栖市内にまんじゅうやだんごを扱う和菓子店は少なくとも9軒ある」と言及。そのうえで、神栖市(人口約9万3000人)という一定規模の自治体において、「だんごさん」や「まんじゅう」という呼称が、本名に代わるものとして市内のいずれの地域でも使用されているとは言えないと指摘。これらは特定の候補者を指すものではなく、単に「飲食店の種類や食品を指す普通名詞」にとどまると結論づけた。
この判決を、「やや意外だ」と受け止めたのは、東京都国分寺市議会議員を3期10年務めた経歴があり、公職選挙法など選挙に関するルールに精通する三葛敦志弁護士だ。
「『この票はこの候補者のものだ』と投票の記載や諸般の事情から、特定の候補者に投票する意思が認められる場合、有権者の意思をできる限り有効なものとして解釈するのが本来の方法です。『まんじゅうや』や『だんごさん』といった通称が地元で定着しており、取り扱い商品から候補者を特定できると主張されていたわけですが、市選管が認めたように、有効票という判断が出やすいと考えていました。
判決の詳細を見ないと確実なことは言えませんが、『まんじゅうや』などの呼び名が定着していたという主張や証拠が採用されなかったのかもしれません。現時点ではこれ以上の判断は難しいですね」
公職選挙法67条では、「投票した選挙人の意思が明白であれば、その投票を有効とするようにしなければならない」という「有効解釈の原則」が定められている。
しかし、今回の高裁は候補者を特定できるかという点について、市内には少なくとも9軒のまんじゅうやだんごを扱う和菓子店があることなどを理由に、木内氏側の主張を退けた。
なぜ「小さな丸囲み」だけで無効になるのか?一方で、石田氏側の票で無効とされた「欄外の丸囲み」については、有権者からすれば「名前は正しく書いたのになぜ」と疑問に思うかもしれない。
これは公職選挙法が定める「他事記載の禁止(秘密投票の保護)」に基づく重要なルールで、 もし「特定の記号や傷、丸囲み」を有効票として認めてしまうと、「買収や仕事の主従関係を利用して、特定候補に投票したことを外部(立会人など)に証明する目印(サイン)」として悪用される危険が生じる。
もっとも、単なる書き損じや筆勢まで直ちに他事記載となるわけではない。候補者の氏名とは別に、独立した意味を持つ記号等が記載されたと認められる場合には、他事記載として無効となることがある。
問われる日本の「記名式(自書式)」の限界東京高裁の判決を受け、木内氏の代理人弁護士は「主張が認められず残念。今後については相談して決める」としている。今後、どのようなシナリオが想定されるのか。
公職選挙法の規定に基づき、木内氏側は最高裁判所へ上告(または上告受理申立て)を行うことは可能だ。しかし、最高裁は法律審であり「事実認定」をやり直す場ではない。三葛弁護士が補足する。
「『まんじゅうや』という呼称が市内で通称として定着していたか否かという事実認定そのものを最高裁で一からやり直してもらうことは原則としてできません。最高裁でひっくり返すには単なる事実認定の誤りではなく、『憲法違反』として上告理由を構成するか、『判例違反』や『法令の解釈に関する重要な事項』として上告受理申立てを行う必要があります。
判決全文を精査する必要がありますが、争点の中心が『まんじゅうや』という呼称が木内氏を指すものとして定着していたかという事実認定にあるのであれば、最高裁で逆転するハードルは相当に高いでしょう」
なお、当選無効の判断が最終的に確定するまでは、木内氏が市長の職にとどまることになる。しかし、身分が不安定な状態のままでは、市政の大きな方針転換や意思決定は政治的に極めて困難といえ、行政の混乱や停滞は避けられない。
木内氏側が上告を断念するか、最高裁で敗訴が確定した場合、木内氏は失職。神栖市で当選人の更正決定のための選挙会が開かれ、石田進氏が新たな市長として確定することになる。
どうすれば投票時のトラブルを減らせるのか三葛弁護士は最後に、今回のような投票時のトラブルを防止する施策について次のように見解を述べた。
「自筆による投票である以上、こうした問題が起きるのは避けられない部分があります。防止策としてはたとえば、過去に一部の自治体で取り入れられた電子投票や、海外のように顔写真にチェックを付ける方式、マークシート方式など、直感的に識別できる仕組みを取り入れるのも一つの方法です。
いまのように候補者名を自書する投票方式というのは、人類の歴史から見て普遍的なものではありません。現在わが国で採用しているというだけの話です。その意味では『投票=名前を書くこと』とこだわる必要はないでしょう。
技術的な課題や費用対効果等の要素もありますが、手続きのあり方を変更することで誤りが介在するおそれを防止でき、かつ、それが民主主義の公正性に資するというのであれば、改善し、進化させるべきです。
国や時代の状況によって、投票における最善は変わってきますが、大事なことは、選挙の公正性をとことん追求していくべきということです」

