高校からのプロ入りを避ける傾向が顕著になっているという(左から高部陸、織田翔希、末吉良丞)

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 夏の甲子園で活躍してプロへの道を切り拓く──高校球児にとって憧れのルートだったはずだが、いま大きな異変が起きている。ドラフト1位確実の有望選手までもが、日本プロ野球入りを"回避"する動きが出始めた。一体、なぜなのか──ノンフィクションライターの柳川悠二氏が裏側に迫った。(文中敬称略)

【写真】沖縄尚学の150キロ左腕・末吉良丞。横浜高校の157キロ右腕・織田翔希なども

「アメリカに行く可能性は十分にある」

 酷暑のなかで開催されている108回目の全国高等学校野球選手権大会は、6日目に昨年の春夏王者が激突。平日の午後に超満員の観衆が見守るなか、横浜の157キロ右腕・織田翔希が夏連覇を目指した沖縄尚学の150キロ左腕・末吉良丞との直接対決を制した。

 両者は共に今秋のドラフト1位候補だが、ここにきて織田の周辺が騒がしい。NPB球団のスカウトがこう証言する。

「横浜の村田浩明監督はわれわれ日本のスカウトに対してNPB一本と言っていますが、メジャーのスカウトとも接触しているという噂が駆け巡っています。アメリカに行く可能性は十分にあると考えられています」

 メジャーから高い関心を寄せられ、織田もその気になっているのか、横浜からプロに進んだ先輩にメジャー挑戦を相談しているという情報もある。

 昨年には桐朋高校(東京)の森井翔太郎がアスレチックスと契約したが、織田のようにドラ1が確実視されるような逸材がドラフトを回避して海を渡ったケースはない。日本プロ野球界にとっては人材の流出だ。

 一方、末吉の進路に関しては、青山学院大学の熱心な勧誘を断ったうえで、今春の段階では「プロ一本」と口にしていた。ところが、春以降は左ヒジのコンディション不良で投げられない時期も長く、敗れた10日の試合後も進路に関しては「未定です」と話すのみ。大学を経由してヒジの不安がなくなってからプロを目指す道を模索してもおかしくなかったが、結局は同校の比嘉公也監督がプロ志望届の提出を明かした模様だ。

 今秋のドラフト候補は、投手も野手も大学生が豊作とされる。一方、高校生は末吉こそプロ志望届を提出するものの、世代を代表する逸材たちが高校からのプロ入りを避ける傾向が顕著となっているのだ。

「プロ入りはゴールではない」

 大会2日目に登場した聖隷クリストファー(静岡)の高部陸は、昨夏に同校を甲子園初出場に導いた時点で既に大学進学を決めていた。その理由をこう話す。

「自分は大学で体を作ってから、プロを目指しても遅くないと思っています。4年後、ドラフト1位でプロになりたい」

 高知高校から阪神に入団しながら、わずか3年で育成契約となり、4年目を終えた昨秋に戦力外となった森木大智や、ノースアジア大明桜(秋田)から福岡ソフトバンクに入団した風間球打など、高卒のドラ1といえども数年で見限られるのが現在のプロ野球界である。それゆえ令和の球児がプロ志望届の提出に慎重になるのも無理はない。

 高部の進学先は首都圏のある強豪大学が有力視されている。

 また、岩手・花巻東の有望株トリオも、プロ志望届を出す者はいない。1年春から4番として活躍してきた古城大翔とエース左腕の萬谷堅心は東京六大学の名門に、二刀流の赤間史弥は高部の進路先と目される大学に内定している。花巻東の佐々木洋監督は、大学経由でプロを目指す球児が増えていることについて次のように話した。

「プロで活躍している野球選手の寿命が延びていることで、大学に進学することが決して遠回りではなくなってきている。プロ野球選手になることがゴールではなく、活躍してこそ意味があると思っています」

 佐々木監督も若かりし日には、輩出したプロ野球選手の数を追い求め、高校からダイレクトでプロになることを推奨していた時期があったと振り返る。

「広島に(2015年に3位で)入団した高橋樹也は、左ヒジをケガしたことでわずか7年で戦力外になった。それが私はショックだったんです。すぐにプロになって結果を求めるのではなく、大学を経て体作りに専念していたらもう少し長い野球人生を送れたのではないか、と。プロに送り出した数にこだわっていた私のエゴを反省しました」

 監督の長男である麟太郎はスタンフォード大に進学し、日米のドラフトで指名を受けた。そして21歳になった今夏、マーリンズと契約した。

「やはり野球人生を終えたあとのことを考えて、アメリカを経由することを選択した。野球選手としての評価ひとつでも、"守れない""走れない"というマイナス面よりも、まずは"長打力"というプラスの面に注目してもらえる。そんなアメリカで英語を勉強させて、静かな環境で野球をやらせたほうが、野球人生を終えたあとの麟太郎の人生に生きると考えました」

青学の寡占状態

 横浜の一塁手・小野舜友と、智弁和歌山の捕手・山田凜虎は共に中学時代は愛知の東海中央ボーイズに所属した。それぞれ主将を務める彼らは大学で再び共闘する可能性が高まっている。進路は高部や赤間と同じ大学が有力視され、他に報徳学園の俊足強肩の外野手・中尾勇貴も進学予定だ。

 2018年のドラフトでは、春夏連覇を達成した大阪桐蔭の根尾昂(現中日)と藤原恭大(現千葉ロッテ)、報徳学園の小園海斗(現広島)という高校生の3人に合計11球団の指名が集中した。しかし、コロナ禍で春夏の甲子園が中止(2020年)となって以降、大学進学を選択する上位候補が増え、近年のドラフトでは大学生に指名が集中する傾向が色濃い。2025年のドラフト1巡目において高校生を指名したのは石垣元気を指名した千葉ロッテとオリックスの2球団だけだった。

 そして、近年のドラフトにおいて売り手筋となっているのが東都大学野球リーグで昨秋まで6連覇を遂げ、近年の大学野球をリードする青山学院大だ。少数精鋭の集団で、一学年8人しかスポーツ推薦の入部者を許可していない。それでも、近年は錚々たるメンバーが集まり、複数のドラ1を輩出することも珍しくない。昨年は投手の中西聖輝が中日に、野手の小田康一郎が横浜DeNAに指名された。今秋も捕手の渡部海やエースの鈴木泰成が上位候補となり、強豪校の後輩が先輩の後を追って入学するなど好循環も生まれ、有望球児の寡占状態が続いているのだ。

 もちろん、他の大学も黙ってはいられない。早稲田大学など六大学の名門も有望選手の獲得に奔走。春の段階ではプロ志望届の提出が有力視されていた大阪桐蔭のエース・吉岡貫介が大学に進路変更し、来年は神宮球場での登板が濃厚だ。

 夏の甲子園は智弁和歌山の優勝で幕を閉じた。甲子園のヒーローたちの多くは既に進学先が決定していて、甲子園で名を売ってプロの道を切り拓こうとする球児は実は少ないのが現実である。

【プロフィール】
柳川悠二(やながわ・ゆうじ)/1976年、宮崎県生まれ。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、主にスポーツ総合誌、週刊誌に寄稿。2016年に『永遠のPL学園』で第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞。他の著書に『甲子園と令和の怪物』がある。

※週刊ポスト2026年8月28日・9月4日号