「10年後を見ていてください」。加藤超也の人生を変えた1通のDM
クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。第84回目・85回目のゲストは、長友佑都専属シェフ・加藤超也さんです。

大企業を21歳で退職し、料理の世界へ。長友佑都選手にDMを送ったことをきっかけに、専属シェフとして10年連れ添うことになった加藤超也さん。決断の裏側と、専属シェフという仕事の本質を、クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」で語ってくれました。
「僕の10年後を見ていてください」加藤さんがサラリーマンを辞めた理由

青森県出身の加藤さんは、高校卒業後に上京し、一部上場企業に就職しました。真面目な学校生活を送り、推薦枠で入社を決めたものの、仕事への高揚感がないまま、3年10ヶ月を過ごしたといいます。
転機になったのは、このまま働き続けた将来が思い描けないと気づいたときでした。
「60歳を迎える時まで働いてるイメージが全くつかなかった」
動くなら早い方がいい。そう逆算したとき、建築士として実際に形あるものを残してきた父の存在が頭にありました。「後世に残せるもの」を自分の手で作りたい、そんな漠然とした思いの中で選んだ選択肢が、料理でした。
味覚への自信は、幼少期の環境が育んだといいます。実家では建築士業のかたわら町議会議員も務めていた父のもとに来客が絶えず、母がふるまう手料理を横で見て育ったこと。そして食材の宝庫である青森で、近所の人から新鮮な魚介やイカを気軽にお裾分けしてもらう暮らし。「日々イカ刺しがある」ような環境で、味覚には自然と自信がついたそうです。
退職を止める上司には、こう言い切って会社を去りました。
「僕の10年後を見ていてくださいって、ちょっと偉そうなことを言って辞めたんです」
ところが、啖呵を切った1週間後には早くも心が折れかけていたと振り返ります。
「なんで俺やめたんだろうって、ほんとに明確に覚えてますね」
それでも「自分の言葉には責任を持ちたい」という思いが、そこから踏みとどまる支えになったといいます。
長友選手を射止めた、1通のDMと3種のポタージュ

料理人に転身し、複数の店で4年間の修行を重ねた後、イタリア料理店のシェフに就任。シェフとして4年目を迎えた29歳の加藤さんは、自身の料理人人生を見つめ直していました。基準にしたのは「将来、自分の息子に仕事をかっこいいと思ってもらえるか」ということ。今のままレストランで独立しても、業界で一番にはなれない。そんな自覚があったといいます。
きっかけとなったのは、元日本代表・中澤佑二さんの来店でした。サラダは塩とオリーブオイルだけ、肉の脂身はカットしてほしいという厳格なオーダーを受けたそうです。
「料理っていうものは、見た目だったり美味しさだったり、自分が考える創造性があって1皿になってる、その提供までしか考えられてなかったんですよね」
そこから一歩踏み込んで、料理が体に入って血肉になるところまで意識させられたといいます。「食とスポーツを掛け算する」ことで料理の付加価値が上がっていく感覚を、加藤さんはこのとき初めて体験しました。
アスリートの専属シェフという仕事が存在するのか、自分でネットを調べても見つからない。ならば自分がなろうと、加藤さんはツイッターで長友選手に長文のDMを送ります。
「専属シェフになりたいという思いの丈と、そこまで準備してきたということ、それがなぜ必要だと思うのかを書きました」
送信から6時間後にはマネジメントから返信があり、3日後に面談、2週間後には長友選手本人との電話へと、話は驚くほどのスピードで進んでいきました。
そして約1ヶ月後、帰国した長友選手との「料理面接」で加藤さんが出したのが、3種類のポタージュスープ。とうもろこし、白玉ねぎ、枝豆。それぞれ塩とオリーブオイルだけで仕立てたシンプルな一皿です。
「自分はこのシンプルな調味料で、食材の可能性をここまで引き出せますという、自分の中では名刺代わりでした。刺さらなかったら落ちるだろうなと思っていて、メインディッシュを1発目にぶつけたみたいな感覚でしたね」
3種類を食べ終えた長友選手が発した言葉は、シンプルなものでした。
「決まりやろって言ってくれたのは覚えてますね」
専属シェフの仕事は「提案力」より「適応力」

レストランのシェフは、自分の考えた料理を「どうですか」と提案する仕事です。しかし専属シェフに求められるのは、それとは違う力だと加藤さんはいいます。
「提案力っていうよりは適応力。旬の食材と旨味の組み合わせに加えて、栄養素、その人の顔まで想像しながら提供する。情報としての要素が増えたっていう感じです」
その根底にあるのが、コミュニケーションです。日々の会話や様子から本人の状態を汲み取っているからこそ、細かな味付けの加減は、あえて本人に聞かずに自分の判断で決めているのだそう。
その日の天気で発汗量を予測し、練習が1部練か2部練かで疲労度を読み、酸味を効かせてさっぱりさせたり、必要なタンパク質やミネラルを補える食材を選んだり。本人に逐一確認せずとも、観察と対話の積み重ねから最適な一皿を組み立てていくのです。
筋肉系の怪我と食事の関係についても、加藤さんは明確な持論を持っています。
「重要なのは油ですね。良質な油をどれだけ摂取できてるかが、かなりキーになってきます」
特に青魚に含まれるオメガ3系脂肪酸を日々の食事で摂れているかどうかが、怪我の予防に大きく関わってくるといいます。
「今日もありがとう」に支えられた10年
10年間そばで見てきた長友選手について、加藤さんが最も驚かされるのは「時間の使い方」だといいます。
「タイムイズマネーってビジネスでは言いますけど、時間って唯一お金で買えないもの。その時間をどう有効活用するかを、もうほんとに徹底されている」
そして、サポートのたびに必ず玄関まで見送りに来て、欠かさずかけてくれる言葉があります。
「今日もありがとうございましたって、10年間欠かさずやってきてくださった。それが僕自身、続けてこれた要因ですね」
理論派なシェフの顔とは裏腹に、素顔の加藤さんはどこか人間味にあふれています。海外から一時帰国するたび必ず食べたくなるのは、豚汁と納豆ごはん。腸活にかなった理にかなう組み合わせだと語る一方、体に悪いとわかっていても好きなものを聞かれると、こう答えました。
「担々麺が好きですね。ただ僕、必ずお腹下すんです。それでもご褒美的に、定期的に食べたくなりますね」
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【ゲスト】
第84回・第85回(7月3日・10日配信) 加藤超也さん

1984年生まれ。株式会社Cuore所属。2016年からサッカー日本代表・長友佑都選手の専属シェフに就任。医学的エビデンス×機能性のある料理を追求し、多ジャンルのアスリートのサポート、食についての情報発信をしている。2020年から無添加・化学調味料・保存料不使用のプレミアム・ポタージュ「THE POTAGE」をプロデュース。書籍監修に『長友佑都のファットアダプト食事法』(幻冬舎)著書に『食べて脂肪が燃える魔法のレシピ』(幻冬舎)『今日もお疲れさま!超回復めし』(主婦の友社)『鶏が主役!超たんぱくめし』(主婦の友社)。
Instagram:@cuore_kato
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【パーソナリティ】
クックパッド株式会社 小竹 貴子

料理愛好家・ 料理の楽しみ共創室 部長/創業期から参画し、初代編集長としてメディアづくりに携わる。現在は、料理家や生産者といった食のつくり手の声を届ける活動を行っている。「日経ウーマンオブザイヤー2010」受賞。プロの技術や食材の背景にある物語を、暮らしに馴染む言葉で伝えることをライフワークに、生活者の目線で食の楽しさを探求している。
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