国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長(時事通信フォト)

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 アメリカ政府はこのほど、ICC(国際刑事裁判所)の赤根智子所長(70)を制裁対象に指定した。資産は凍結され、クレジットカードや銀行取引も制限される。赤根氏は2025年11月にロシアから指名手配されている。現在は2大国から、1人の日本人が標的にされている格好だ。

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 だがその人物像は、意外なほど知られていない。赤根さんの著書『戦争犯罪と戦う』(文春新書)を手がけ、いまも本人と連絡を取り合う担当編集者の鳥嶋七実さんに、その素顔を聞いた。【前後編の前編】

「当たり前のことを言っただけ」

 鳥嶋さんがまず口にしたのは、報道から浮かぶイメージとのギャップだ。

「ものすごく素朴で、分け隔てのない、サバサバとした気持ちのいい方です」

 赤根さんの発言としてとりわけ有名なのが、「私が死んでも裁判官の代わりはいる」という言葉だろう。プーチン露大統領への逮捕状に関わり、報復措置として自身もロシアから逮捕状を出された後の発言で、その「強い覚悟」が大きな話題を呼んだ。だが鳥嶋さんによれば、本人にヒロイズムは微塵もないという。

「赤根さんとしては、『法曹にいる人間はみんなそういう意識でやっている』『職業倫理を突き詰めれば当然の発言だ』という感覚なんです。キャッチーなことを言おうとか、正義を気取ろうとかではない。当たり前のことを言ったまでだ、と」

 鳥嶋さんは実際にオランダ・ハーグの裁判所を訪れ、職員と密にやりとりする赤根さんの働きぶりも目にしている。制裁の脅威にさらされる中で、メンタルを崩す職員も少なくないというが──。

「それでも『みんなを鼓舞して元気づけるのが私の仕事だから』と。一緒に働く人たちのことを、とても大切に思っていらっしゃいます」

警戒しっぱなしの生活でも、週末はジムへ

 現在の赤根さんの生活は、平穏とはほど遠い。オランダではロシアとの緊張関係から警戒が厳しく、基本的に自宅と職場の往復しかできないという。東京へ一時帰国したときでさえ、SPが付き添っていた。

 そんな状況下で、赤根さんには意外な息抜きがあるという。

「週末に通っているジムがあるそうです。毎週末のように運動して、トレーナーさんとやりとりしていると。ジムには顔なじみの人たちもいるみたいですね」

 多忙を極める中で汗を流す、そのバイタリティは相当のものだ。

「アフリカへの出張も多く、各国を回りながら協力を取り付ける、外交官のような働きもされている。体力があって粘り強くて、根負けしない人なんです」

「私は普通すぎるんだけど、かえってそれが珍しいみたい」

 鳥嶋さんの印象に強く残る、赤根さんの言葉がある。

「『私はとにかく普通の人間で、普通すぎるんだけど、かえってそれが珍しいみたい』と。政治的な思惑や自分のメリット抜きに、フラットに『これはおかしい』と考えて動ける人が、今となっては稀有だ、ということなのかなと思います」

 著書『戦争犯罪と闘う』の上梓にあたって話を聞く中でも、赤根さんの「普通さ」は記憶に残っていると鳥嶋さんは語る。

「赤根さんの片腕のような方といつも冗談を言って笑い合っていました。『豪快』と言うとちょっと違うかもしれないですけど、とにかく飾らない方です」

 赤根さんは検察官時代から仕事が好きだったが、当時は法曹界に女性があまりに少なく『途中で辞める』と周囲から思われていた。それでも楽しくて続けてきたという。その果てに、赤根さんという「普通の人」はいま、超大国を相手にした平和の攻防の最前線に立っている。

 後編では、赤根さんが制裁を危惧していたことや、赤根さんが漏らした日本政府への思いについて取材した。

(後編につづく)