「相手兵を負傷させたら8ポイント、殺害したら12ポイント」…ウクライナ侵攻から4年半、戦争が「ゲーム化」している
共同記者会見での一コマ
「私たちヨーロッパ人は、あなたがたがより多くのロシア人――より多くのロシア兵を殺すのを助けるために、具体的に何ができるでしょうか?」
こう、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に記者会見で質問した記者がいる。尋ねたのは、ドイツの有力紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」(FAZ)の記者、バルカン担当特派員ミヒャエル・マルテンスだ(下の写真)。8月8日、セルビアを訪問中のゼレンスキー大統領とアレクサンダル・ヴチッチ大統領との共同記者会見での一コマである。
(出所)https://t.me/stranaua/244493
ドイツの特派員に違和感
この質問に強烈な違和感をいだかないとすれば、それは、「戦争の勝敗がしょせん、敵を何人殺すかにかかっている」と割り切っているからだろうか。4年半もつづくウクライナ戦争で、ドイツの特派員までもが、戦争を殺害者の数で考えるようになっていることに驚愕(きょうがく)する。
しかし、戦争の目的は、決して殺戮(さつりく)した人間の数を争うことではないだろう。殺害以外の理由をつけて、それなりに説得力のある理由を見出して、やむをえず、手段として暴力を使うということではないのか。
たとえば、あらゆる国の主権や領土一体性を、武力による威嚇(いかく)または武力の行使で否定することは国際法上、許されないから、そうした行為を停止させるために交戦は避けられないといった理屈である。
だが、政治学者ハンナ・アーレントが『暴力について』で明らかにしたように、(1)暴力は本質的に手段的であり、目的を達成するための手段である、(2)目的が消失すると、暴力はその正当性を失い、自己増殖的なものとなる、(3)そうなると、暴力は政治的論理ではなく、「敵意の論理」に従うようになる――という変容が生じてしまう。この変化は、侵略者側だけでなく非侵略者側にも生じる。
新聞社が記者の発言に弁明
先の質問に対して、ゼレンスキーは、ウクライナには兵器生産のためのさらなる資金が必要だと答えた。どうやら、彼はこの殺害を目的化しているかのような質問に違和感をもたなかったようだ。
これに対して、ゼレンスキー大統領の答弁の後に、ヴチッチ大統領は、この発言についてとくに次のように反応したという。
「殺害に関しては、すべての殺害が終息することを願っている。」
どうだろうか。ヴチッチの答えは至極まっとうのように思われる。普通の感覚をもっていれば、マルテンス特派員の質問は常軌を逸している。
だからこそ、FAZ紙は声明を発表する事態になった。その主な論点は二つだ。
「この質問は、ロシア軍が人員面でどれほどの圧力にさらされれば、ロシアが和平交渉に応じざるを得なくなるかについて、防衛専門家たちの間で現在議論されている点に関するものであった」
「しかし、その質問の表現が曖昧(あいまい)であったことは、遺憾に思う。できるだけ多くのロシア兵を殺すべきだという考えは、『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』紙の編集方針ではない」
民間人も兵士も関係ない
もう一つ、マルテンス特派員は興味深い「言い直し」をしている。最初、「より多くのロシア人」と言っておきながら、すぐに「より多くのロシア兵」と言い直したのだ。つまり、民間人であるか兵士であるかを抜きに、できるだけロシア人を殺すための支援の話を、ロシア兵の殺戮の助けと訂正したことになる。
実は、被侵略国ウクライナはこれまで、民間人を標的にしていないと主張することで、国際的な支持を保とうとしてきた。西側のマスメディアも、ロシア軍が容赦のない民間人攻撃とおぼしき学校、病院、アパートへの攻撃を大々的に報道し、ロシア軍の非道を厳しく非難してきた。
ところが、イスラエル軍がガザ地区で学校や病院、高層住宅を攻撃する様子が報道されても、イスラエルへの批判はロシア批判ほど盛り上がらなかった。あるいは、2月28日の米国とイスラエルによるイランへの大規模攻撃で、イラン南部の女子校にミサイルが着弾し、170人以上が死亡した(「アルジャジーラ」を参照)。その大半は女子生徒だった。
たとえ誤爆であったとしても、これが戦争の実態である以上、戦争において軍人と民間人を区別することがむなしくなってくる。だからと言って、民間人と軍人を区別しない、マルテンス特派員の最初の言葉遣いは「最低最悪」である。
実は、ウクライナもいま、そうした最悪な状況に陥っている。もはや民間人であろうとなかろうと、ロシア人を殺すことに重点が置かれているようにみえるのだ(念のために書いておくと、ロシア側も民間施設への攻撃を否定しているが、2022年2月24日以降、民間施設への攻撃姿勢が継続されてきたように映る)。それを明示しているのが8月11日付の「ニューヨークタイムズ」(NYT)だ。ロシアの報道機関がウクライナ軍によって民間人が殺戮されていると騒ぎ立てているのではない。むしろ、親ウクライナ的報道に傾いているNYTが報じていることに注意を喚起してほしい。
NYTの「ウクライナが空爆を拡大するにつれて、ロシアの民間人死者が急速に増加している」というタイトルの記事は、「Conflict Intelligence Team(CIT)がまとめたデータによると、今年に入ってからの最初の7カ月間で、ロシアの占領地域以外において、砲撃、ドローン攻撃、空爆により327人が死亡した」と報じている。この死者数は、同団体が昨年の同時期に記録した民間人死者145人をはるかに上回っている。
同団体によると、今年の同期間にこうした攻撃で負傷した人は2366人に上り、昨年の2倍以上となった。他方で、同じCITのデータによると、今年の最初の7カ月間で、ロシアの支配下ではないウクライナの一部地域において、1695人の民間人が死亡し、これは昨年の同時期に比べて25%の増加となったほか、さらに1万2515人が負傷した。
民間施設を標的にするウクライナ
ロシアの民間人死傷者が増加しているのは、ゼレンスキーが「長距離制裁」と名づけた、ロシアの戦争機械の経済的・兵站的基盤を破壊することを目的とした措置の結果と言える。
ただ、このNYTの記事は、「ウクライナ軍による攻撃のなかには、純粋に民間施設を標的としたものもある」と断言している点に留意すべきだろう。たとえば、当局によると、6月、モスクワの南東100キロメートルほどに位置するエゴリエフスクで、ドローンが爆発して住宅に火災が発生し、生後6か月の乳児が死亡した。8月、ロシア南部の混雑したビーチにドローンが墜落して爆発し、子供3人を含む7人が死亡した。
ほかにも、2024年から2025年にかけてウクライナがロシア西部のクルスク州の一帯に侵攻し、約7カ月間にわたり占領した際、長距離攻撃によるものではないにせよ、ロシアの民間人の死亡率がより高かった可能性もある、ともNYTは記している。ロシア当局は8月、発表したところによると、この侵攻および占領期間中にクルスク州で640人の民間人が死亡したという。
他方で、最近、ウクライナでも民間人の死亡が増加している。国連のウクライナにおける人権監視ミッションが発表したところによると、今年7月、ウクライナでは少なくとも437人の民間人が死亡し、2610人が負傷した。これは6月(死者298人、負傷者2041人)と比べて30%の増加であり、昨年7月(死者312人、負傷者1482人)と比べて70%の増加である。民間人の死者数は2022年5月以来の最高値となった。子どもの死傷者数(死者17人、負傷者166人)は2022年4月以来の最高値となった。なお、確認された数値には、ロシアが占領するウクライナ領内での民間人死者25名、負傷者50名が含まれている。
もはやロシアもウクライナも、民間人と軍人の区別を放棄しているかのようにみえる。
殺戮を目的化する戦争
いずれにしても、戦争が長引くにつれて、戦争の政治目的が見失われて、暴力、すなわち殺害数だけが重視されるようになってしまっているのではないか。そんな実態がロシアだけでなく、ウクライナにもはっきりと現れているのではないか。
念のために書いておくと、要塞と塹壕(ざんごう)で守られたウクライナ攻撃のような場合、攻める側に防衛する側よりも多数の死傷者が出るのは一般に当然と言える。ゆえに、死傷者数で戦争の帰趨(きすう)を判断すること自体、大きな誤りである。
ここで指摘しなければならないのは、人間が人間を殺す難しさである。そのために、兵士は訓練を受ける。そこで、思い起こされるのは、米陸軍の退役中佐であり、ウェストポイントの米国陸軍士官学校の元心理学教授デイブ・グロスマンが1995年に刊行した『On Killing: The Psychological Cost of Learning to Kill in War and Society』(『殺すことについて:戦争と社会において殺すことを学ぶことの心理的代償』)である。殺害の心理的・生理的影響を研究する学問分野「キルロジー」を創設した人物の著作だ。
グロスマン教授はまず、「人を殺すことへの嫌悪感」こそ、射撃を行わない主な原因であると認識し、射撃技術に加え心理的な準備を重視するようになった事情を説明している。その根拠となったのが米軍の歴史家S.L.A. マーシャルは1947年に著した『Men Against Fire: The Problem of Battle Command』(『射撃を前にした人:戦闘指揮の問題』)だ。
同著では、第二次世界大戦における歩兵の戦績が分析され、戦後に行われたとされるインタビューに基づいて、人間を殺すことに対する生来の心理的抵抗感のため、戦闘中に武器を発砲した米兵はわずか15〜25%にすぎなかった、と主張されている。
これを根拠に、兵士たちは、極めて暴力的な映画を観ることで、暴力に対する感覚を鈍らせるという「古典的条件付け」、すなわち「パブロフ的条件付け」ないし「レスポンデント条件付け」だけでなく、「オペラント条件付け」という訓練を受けるようになる。
このオペラント条件付けは、行動分析学を体系化したB・F・スキナーが提唱したものである。いわば、特定の状況下で自発的または道具を使って行った行動に対して、報酬または罰を与えることにより、その行動を起こす頻度を強化する学習反応のことを指す。兵士たちは人間のような標的を撃つ訓練を受け、成功すればバッジや週末の外出許可が与えられた。これらの手法が導入された結果、ベトナム戦争における射撃率は90〜95%にまで向上したという。
ドローンによる殺害の心理学
人を殺す側の心理的負担を軽減するには、(1)ライフルのような遠距離武器の使用で、近接武器である銃剣やナイフと比較して、被害者に対する知覚的な同一視を弱める、(2)隊形での集団射撃によって個人の責任が希薄化し、たとえ孤立した道徳的良心の呵責が残っていても、権威への服従や社会的同調を可能にする――といった方法がある。逆に言えば、白兵戦や至近距離での交戦は、遠距離からの殺害よりも「心的外傷後ストレス障害」(PTSD)の発症率が高いから、こうした方法はPTSDを防ぐ方法でもある。
すでに、米陸軍は、ドローン作戦などの遠隔戦争の分析において、紹介したグロスマンの『On Killing』の概念を参照し、そのテーマを、直接的な心理的障壁を軽減しうる現代の殺害方法たるドローン攻撃にまで適用している。2021年には、『On Killing Remotely: The Psychology of Killing with Drones』(『遠隔殺害について:ドローンによる殺害の心理学』)が刊行された。退役した海兵隊飛行隊長であるウェイン・フェルプス中佐が自身の経験と研究に基づき、遠隔操縦航空機(RPA)による殺害について論じている。
フェルプスは、標的への距離、任務の性質、およびオペレーターが効果的に事後報告を行う能力によって、関与する生理学的・心理学的要因が変化すると指摘している。あらゆる種類のドローンの操縦員たちは、対面での射撃に伴うものと同等の生理的影響(アドレナリンの急増、手の冷えや震え、嘔吐、発汗、記憶の変容)を受けているという。しかも、そうした殺害や破壊活動という任務と、任務後の家庭生活が近接している。
だからこそ、フェルプスは、いわゆるドローンの操縦任務が決してビデオゲームをプレイするようなものではないことを強調している。
ウクライナ軍のポイント付け
ただ、ウクライナ軍においては、恐るべきオペラント条件付けが実践されている。昨年10月31日付のNYTによると、2024年8月、ウクライナ政府は各ドローン部隊に、「ロシア兵を負傷させたら8ポイント、殺害したら12ポイント」、「ロシアのドローン操縦者を負傷させれば15ポイント、殺害すれば25ポイント」、「ドローンの助けを借りてロシア兵を生け捕りにすれば、最高得点の120ポイント」のような「Eポイント」が与えられる「ドローン軍ボーナス」(ADB)プログラムをスタートした。
獲得されたEポイントは「Brave1 Market」と呼ばれる、オンラインショップのアマゾン風の内部武器ストアを通じて、基本的な監視用ドローンや強力な爆発物を搭載した大型ドローンなど、ウクライナ製の装備の入手に使用できる。このストアは昨年4月に初めてオンライン化され、8月に拡充された。
今年3月に公表された別の情報では、昨年8月末までに、ADB e-ポイントを使用してBrave1マーケットで5000万ドル相当の注文が行われた。95のドローン部隊がこのシステムを活用し、3万機以上のFPVドローンを発注した(なお、この発注によってドローンメーカーの競争が促されている面がある)。
ロシアもゲーマーを募る
ロシアではどうか。ロシア軍には「敵兵を何人殺したら報奨金」という制度は公式には存在しない。ただ、敵のヘリコプターや戦闘機を破壊したり、軍備を獲得したりすると、報奨金が支払われるシステムは存在する。
2023年6月16日付の「モスコー・タイムズ」というロシアの英字紙は、2022年にロシアがウクライナへの侵攻を開始して以来、ウクライナの軍事装備を破壊または捕獲したとして、「1万人以上のロシア軍兵士が現金給付を受け取ったとロシア国防省が発表した」、と報じた。
軍当局者によると、この報奨金は装備の種類に応じて5万〜30万ルーブル(約9・4万円〜約57万円)の範囲で、ロシア兵の個人の銀行口座に振り込まれているという。たとえば、敵のヘリコプターや戦闘機を破壊した場合、兵士には30万ルーブルが支給されることになっている。国防省は、15カ月にわたる攻勢の間にロシア軍が1万6000点以上の敵の武器や装備を破壊または捕獲したとのべた。
一方、ロシアもドローンを重視するようになっている。昨年12月21日付のロシア紙「モスコーフスキー・コムソモーレッツ」に、「ゲーマーたち、戦え!」(Геймеры, в бой!)という勇ましい言葉が躍る記事が公表された。
12月19日に開催された年末の記者会見で、ウラジーミル・プーチン大統領が「契約により、2024年は40万人以上、40万6000人ないし41万人が入隊したが、新たに創設された無人航空部隊に志願する者の数が非常に多いため、国防省は競争試験の実施を余儀なくされている」と発言したことが同記事の背景となっている(下の写真)。プーチンは、「ごく若い若者たち、大学生たちが、契約に署名して前線に行くために、学業を中断している」とも語った。
(出所)http://kremlin.ru/events/president/news/78815/photos/84612
さらに、12月25日には、セルゲイ・ソビャニンモスクワ市長がロシアのゲーマーにロシア軍のドローン操縦士として登録するよう呼びかけた(下の写真)。
(出所)https://repoct.org/news/109267-cobjanin_predlohil_gejmeram_rassmotretj_vozmohnostj_sluhby_operatorami_bespilotnikov_v_armii
進む戦争の「ゲーム化」
こうして、ウクライナでも、ロシアでも、「戦争のゲーミフィケーション」(gamification of war)と呼ばれる現象が現実に起きている。すでに、大多数の人々が戦争に動員されたがらなくなっているなかで、この戦争の「ゲーム化」によって、兵士になることへのハードルを少しでも低くしようとしているようにみえる。
ウクライナのプログラムでは、ビデオゲームと同じように、「eポイント」を獲得することで、各部隊は他部隊と競い合うことができる。獲得ポイントが多ければ多いほど、ランキングは上がり、ひいては部隊の威信も高まる。部隊間の競争が激化し、順位向上を目指すにつれて、この威信は軍内部での尊敬や「自慢の種」へとつながり得る。まさに、ゲームで上位をめざすのと同じ感覚だろう。
さらに、eポイントを交換できる「Brave1マーケット」へのアクセスを得ることで、各部隊は装備の「アップグレード」や在庫の補充を目指すこともできる。
このプログラムから得られるもっとも根本的なメリットは、「プログラムへの参加を通じて実現される調達プロセスの効率化である」と考えられる。先に紹介した論文では、「発注から5日で前線の部隊に装備が届くようになり、Brave1 Marketを通じてNATO規格の装備へのアクセスも容易になった」という。
世界に広がる戦争の「ゲーム化」
私は2021年2月、雑誌『論座』において、「現実世界の変化を、ゲームを使って促す 『ゲーミフィケーション』とは何か」を公表したことがある。その出だしの部分はつぎのような内容だ。
「コンピューターのネットワークを中心に形成されるコミュニティのなかで、コーダー(ホームページやプログラムのファイルを制作する人)次第で向社会的な行動の促進を試みることが可能だとの認識が広がっていると、オリバー・ラケットとマイケル・ケーシーの共著『ソーシャルメディアの生態系』(原題はThe Social Organism)に指摘されている。これを利用して、ビデオゲームのメカニックやデザインを利用して、人々の行動を何らかの行動に動機づけたり目標に向かわせたりする「ゲーミフィケーション」(gamification)と呼ばれる試みがもう10年以上前から世界中で広がっている」
この論考で示したように、「ゲーム化」自体は何の問題もない。違和感をもつのは、現実の戦争をゲーム仕立てにする行為である。ウクライナ軍はロシア兵の殺害をポイント化することで、人間の殺戮に伴う感情を排し、その心理的負担を軽減しようとしている。今後、自律型の殺人ロボットが戦線に大量投入されるようになれば、もはやこうした感情抜きの「殺人ゲーム」が展開可能となる。それは、戦争を文字通り「ゲーム化」し、戦争勃発への高いハードルをかぎりなく下げることにもつながりかねない。
そう考えると、戦争そのものについて、もう一度、人間らしい道徳観や倫理観のレベルから考え直す必要性に気づく。その意味で、人間を殺すことをポイント化したり、戦争を殺害数で判断したりすることに批判的でなければならない。こんなやり方は止めるべきだ。
【こちらも読む】『アメリカが「日本に最強の戦闘機F22を売ればよかった」と大後悔…防衛力が揺らぐ「取り返しのつかない大失敗」とは』
【こちらも読む】アメリカが「日本に最強の戦闘機F22を売ればよかった」と大後悔…防衛力が揺らぐ「取り返しのつかない大失敗」とは
