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親の過度な経済的依存や束縛に悩み、自身の老後不安を抱える子世代が増えています。親への罪悪感から共依存に陥り、共倒れするリスクも少なくありません。ある男性が突きつけた決断の事例を通し、過干渉な親との関係をいかに断ち切り、共倒れを防ぐべきか、現代家族が抱える構造的リスクと解決への処方箋を探っていきます。

「母が大嫌いだった」45歳男性の実家脱出

都内のIT企業に勤務する佐藤健太さん(45歳・仮名)は、今年4月、45年間過ごした実家を後にしました。健太さんの月収は48万円で、手取り額は約37万円です。同世代と比較しても恵まれた収入を得ていましたが、長年にわたり実家から出られずにいました。その理由は、同居する母・佐藤悦子さん(72歳・仮名)による強烈な精神的、経済的な束縛でした。

父親は10年前に他界しています。以来、健太さんは実家の食費、光熱費、固定資産税など毎月約23万円を負担していました。公共料金や通信費の契約名義も健太さんであり、毎月彼の口座から自動で引き落とされていたのです。しかし、悦子さんの要求はそれだけに留まりません。自分の服や趣味の通信販売代として、毎月5万〜8万円の「お小遣い」を追加で要求してきました。難色を示すたび、悦子さんは激しい感情を露わにしました。

「子どもが親の面倒を見るのは当たり前でしょ」

過干渉と催促に苦しめられ、健太さんは「母のことが嫌いでした」と振り返ります。毎月30万円近くを実家に吸い上げられ、45歳時点での貯金残高はわずか320万円にとどまっていました。将来、老後破産に強い危機感を抱いた健太さんは、母に内緒で都内に家賃8万5,000円の1Kマンションを契約。さらに、実家の水道光熱費や通信費の引き落とし口座を強制的に悦子さんの年金口座へ変更する手続きを済ませ、強行突破の形で実家を出ました。

国立社会保障・人口問題研究所『第9回世帯動態調査』によると、生まれてからずっと親と同居している割合は16.7%に上る一方、親と離れたきっかけに「親からの自立・独立」を挙げたのは5.4%にとどまります。

また、同研究所『2022年社会保障人口問題基本調査』では、親との最初の別居時に生活費の担い手を「自分」とする割合が60.2%(15歳時の7.1%から急増)に達しており、別居こそが経済的自立を促す契機といえます。


実家を出た当初、健太さんは精神的な解放感を噛み締めていました。自分だけの一人暮らしであれば、生活費は月約18万円で収まります。毎月15万円以上を貯蓄に回せる計算となり、老後資金をつくる準備が整ったはずでした。

名義変更で破綻…浮き彫りになった母の浪費

しかし、一人暮らしを始めて3ヵ月が過ぎた7月、悦子さんから取り乱した様子で電話がかかってきました。スマホ越しに、悦子さんは金切り声で責め立てました。

「あんたが勝手に出て行って支払いを押し付けたせいで、電気もガスも止められそうなのよ。親を殺すつもりか」

胸騒ぎを覚えた健太さんが実家を訪れると、ポストには電力会社やガス会社からの催促状が溢れていました。
悦子さんの収入は、自身の老齢年金と遺族年金を合わせた月12万円です。実家の基本生活費は毎月14万円ほどかかっていました。本来であれば年金12万円の範囲内で暮らせるはずですが、問題は悦子さんの「浪費癖」でした。

これまでは健太さんに生活費全額を支払わせたうえで、自身の年金12万円とお小遣いをすべて通信販売などに使い込んでいたのです。公共料金の請求が自身の口座に切り替わったにもかかわらず、生活態度を一切改めませんでした。その結果、引き落とし日に口座は残高不足となり、わずか数ヵ月で破綻しました。通帳を確認すると、残されていたのはわずか5万円でした。

厚生労働省『2024年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の約6割が生活意識について「苦しい」と回答しています。公的年金だけで生活を維持できない高齢者が増えるなか、健太さんのケースのように、親の浪費や経済的依存が子の生活まで脅かすケースも。

「あんたを育ててやったんだから、死ぬまで面倒を見るのが当たり前でしょ。金を出さないなら戻ってきなさい」

そう言い放つ悦子さんに対し、健太さんは一瞬、電気代の肩代わりが頭をよぎりました。しかし、ここで一度でもお金を出せば元の共依存関係へ逆戻りすると悟りました。健太さんは感情を押し殺し、冷静に伝えました。

「私はもう1円もお金を出せません。生活が苦しいなら、自分で役所に行って相談してください」

健太さんは現金の提供や肩代わりを一切拒否し、地域の公的相談窓口を提示した上で実家を後にしました。
その後、社会福祉協議会や「地域包括支援センター」が介入することになりました。生活困窮者自立支援法に基づく「家計改善支援事業」の専門員がつき、年金12万円の範囲内で生活するための予算管理や、滞納した公共料金の分割払い交渉を悦子さん自身に行わせる指導が始まっています。また、浪費の背景に初期の認知機能低下がないかの確認も進められています。

築40年の実家には亡父のリフォームローン残高が180万円残っており、売却しても手元に残る資金はごくわずかです。健太さん自身も、45歳で貯蓄320万円という遅れを取り戻すため、毎月12万円の積立投資を始めたといいます。