上場時の78倍にまで株価が一時高騰したメモリ半導体大手・キオクシアは、その出自を辿ると“借金のかた”として売却された東芝の事業だ。東芝元CFOの久保誠氏が、キオクシア売却の内幕を明かした。

【画像】東芝元CFOの久保誠氏

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 2017年にキオクシアが設立された時、こんな未来が待っているとは、誰も予想していなかった。東芝のメモリ半導体事業が切り離されて生まれたキオクシアは、自らの手で「独立を勝ち取った」のではなく「借金のかたに売られた」からだ。


キオクシアHDの太田裕雄社長 Ⓒ共同通信社

 2年前の2015年に東芝の粉飾決算が発覚した。さらに海外原発事業の失敗で1兆4000億円の損失が発生し、負債が資産を上回る債務超過の状態にあることが明らかになった。2年連続でこの状態が続けば、東芝は自動的に上場廃止になる。

 上場維持にこだわった当時の東芝経営陣は優良事業を次々に売却する。2016年には医療機器事業をキヤノン、白物家電事業を中国の美的集団に、2017年にはテレビ事業を中国のハイセンス・グループに売却した。

 それでも債務超過解消の目処が立たなかったため、2017年11月、東芝経営陣は6000億円の第三者割当増資を決定する。当時の東芝は「不適切会計問題」で株式市場から厳しい目で見られていたため、増資の幹事を引き受ける日本の証券会社は現れなかった。当時の綱川智社長とCFO(最高財務責任者)の平田政善専務はゴールドマン・サックス証券を頼る。

頼るべきでなかった証券会社

 今回、キオクシアを論ずるにあたり、本誌は2011年から14年まで東芝CFOだった久保誠氏に取材を要請し、久保氏はこれに応じた。久保氏は2015年7月、取締役監査委員会委員長を最後に東芝を辞め、同年11月、西田厚聰氏、佐々木則夫氏、田中久雄氏の歴代3社長と前任CFOの村岡富美雄氏とともに東芝から不適切会計の責任を問う形で提訴された。久保氏は不適切会計への関与を否定しており、現在も係争中である。

 久保氏はゴールドマンを幹事にして増資したことについてこう指摘する。

「絶対に頼ってはいけない証券会社に任せてしまった」

 ゴールドマンは200億円超とも言われる巨額の手数料を得た上で、60社の海外投資ファンドに6000億円を出資させた。シンガポールのエフィッシモ・キャピタル・マネージメント、米国のエリオット、サーベラス、サード・ポイント、香港のオアシス。60社の中には名うての「アクティビスト」が何社も含まれていた。

「あの証券会社に任せれば、そうなることは目に見えていた」と久保氏は言う。

 アクティビストと呼ばれる投資家にとって大切なのは優良な事業や資産を売却させて今期、来期の配当を増やしたり、株価を釣り上げて売り抜けることであり、「10年後の東芝の姿には全く興味がない」(久保氏)。ここから「東芝解体」が加速していく。

何のために売ったのか

 アクティビストに押し切られる形で東芝は2018年、ついに虎の子のメモリ半導体(NANDフラッシュ)事業の売却を決断した。

東芝の未来は半導体と原発が担うはずだったのに、どちらも失ってしまった。(残った唯一の成長事業である)NANDを売って、どうやって東芝を再建するのか」

 発表を聞いた時、久保氏はそう思ったという。

※この続きでは、東芝元CFOの久保誠氏がキオクシアの今後について懸念を語っています。約7300字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年9月号に掲載されています(大西康之「キオクシア敗戦 東芝元CFOの告白」)。

(大西 康之/文藝春秋 2026年9月号)