暑いから玄関先に「打ち水」、もし自転車やバイクが転倒したら責任は誰に?夏の風物詩に思わぬ法的リスク
厳しい暑さが続く日本の夏。少しでも涼をとろうと、玄関先に水をまく「打ち水」は、古くから親しまれてきた夏の風物詩だ。
自宅の敷地だけでなく、家の前の道路まで水をまく光景も珍しくない。
しかし、ここで少し気になることがある。
もし、打ち水で濡れた道路を通った人が足を滑らせたり、自転車やバイクが転倒したりしたら、誰が責任を負うのだろうか。
●打ち水そのものが「違法」なわけではない
まず、家の前の道路に打ち水をしたからといって、それだけで直ちに違法になるとは考えにくい。
道路交通法は、道路に物を置くなどして交通を妨げる行為を禁止している。また、道路を工事やイベントなど、本来の通行とは異なる目的で使用し、一般交通に著しい影響を及ぼす場合などには、警察署長の道路使用許可が必要になる。
とはいえ、一般家庭が玄関先の道路に少量の水をまくような通常の打ち水まで、一律に禁止する規定があるわけではない。
問題になるのは、その「やり方」だ。
たとえば、大量の水をまいて路面に水たまりをつくったり、気温の低い時期に水をまいて凍結させたりするなど、通行する人や車両に危険を生じさせるようなケースでは話が変わってくる。
●バイクが転倒してケガ、治療費を請求されることも
たとえば、自宅前の公道に大量の水をまいたところ、そこを通りかかったバイクがスリップして転倒し、運転していた人が骨折したとする。
この場合、不法行為(民法709条)が成立し、水をまいた人が損害賠償責任を負う可能性がある。
ポイントになるのは、「水をまけば、通行人が滑ったり、バイクや自転車が転倒したりする危険を予測できたか」「事故を防ぐために必要な注意をしていたか」といった事情だ。
実際に、冬に自宅前の私道に水をまき、それが凍結して通行人が転倒した事案で、水をまいた側の損害賠償責任を認めた裁判例もある(東京地裁昭和45年10月23日判決)。
責任が認められれば、物損だけでなく、治療費や休業損害、慰謝料についても賠償を求められる可能性がある。
●水の量や路面の状態などから判断される
一方、道路が少し濡れていたというだけで、事故の責任がすべて打ち水をした人にあるとは限らない。
被害を受けた側にも不注意があった場合には、その程度に応じて賠償額を減らす「過失相殺」(民法722条2項)が認められることもある。
水の量や路面の状態、事故が起きた場所、時間帯、バイクや自転車の速度、運転方法など、さまざまな事情から判断されることになる。
●大きな事故になれば「刑事責任」の可能性も
さらに、事故によって人がケガをした場合には、刑事責任が問題になる可能性もある。
危険が生じることを予測できたにもかかわらず、不注意で大量の水をまき、その結果として通行人を転倒させて負傷させたようなケースでは、過失傷害罪(刑法209条)の成否が検討されることになる。
過失傷害罪は、被害者などからの告訴がなければ起訴できない「親告罪」とされている(同条2項)。
また危険性が明らかな状況で大量に水をまくなど、注意義務違反の程度が著しいケースでは、重過失致死傷罪(刑法211条)が問題になる可能性もある。
●公道は自分だけが使う場所ではない
もちろん、打ち水をして事故が起きたからといって、自動的に犯罪になるわけではない。
刑事責任を問うには、事故を予見して回避できたのかに加え、水をまいた行為とケガとの因果関係など、具体的な事情が重要になる。
昔ながらの夏の風物詩である「打ち水」。
ほんの少し涼を呼び込む程度なら、必要以上に身構えることはないだろう。ただ、公道は自分だけが使う場所ではない。
歩行者はもちろん、自転車やバイクも通る。「涼しくなれば」と何げなくまいた水が、思わぬ事故につながらないよう、水の量やまく場所には注意したい。
