【宮本 建一】「売れば売るほど苦しくなる」客もオーダー数も増えたのに、赤字幅は拡大…「お店価格で出前館」がまさかの裏目に
出前館は2019年8月期以降、7期連続の赤字が続いている。
売上高はコロナ禍で急拡大したものの、広告宣伝費や配送網整備の負担が重く、黒字化には至っていない。それでも資金繰りが行き詰まらないのは、銀行融資に頼らず、LINEやZホールディングスなどからの増資によって財務基盤を支えてきたためだ。LINEヤフーが出資してきた狙いは、出前館をLINE・Yahoo!経済圏における「総合フードマーケティングのプラットフォーム」へと育てることにあると見られる。
後編では、Woltの撤退、ロケットナウ参入や最大のライバルUber Eatsなど競合の動向を踏まえ、出前館が直面する課題をさらに掘り下げる。
前編記事『出前館はなぜ「7期連続赤字」でも生き残れるのか?LINEヤフーが300億円超を注ぎ込むも見えない「黒字化への道」』より続く。
株価はピーク時の1/20以下まで下落
株価もまた、厳しい推移をたどっています。
出前館の株価は、2020年3月のコロナショック時に524円まで下落しました。その後、LINEグループとの資本業務提携や、コロナ禍によるフードデリバリー需要の拡大期待を背景に、2021年8月期には一時4200円まで上昇します。
ただ、大型増資は財務基盤を厚くする一方、発行済株式数が増えるため、1株あたり価値の希薄化要因にもなります。さらに、その後も黒字化への道筋が見えにくい状況が続いたことで、株価は下落基調をたどり、2025年8月期の終値は168円まで低下しました。
株式市場は、同社の成長期待よりも、黒字化の遅れと採算性の不透明さを重く見てきたといえます。
【出前館直近10年の株価チャート(月足)】
出前館の株価下落は、出資元であるLINEヤフー側にも影響を及ぼしています。
LINEヤフーは出前館への投資について2度の減損損失を計上しています。これは出資時点で見込んでいた投資価値を、現在の業績や株価水準では十分に回収しにくいと判断したことを意味します。
つまり、出前館は大型増資によって赤字に耐える財務基盤を確保した一方で、株式市場と出資元の双方から、黒字化の遅れを厳しく見られているといえます。
競合環境はさらに厳しさを増す
出前館が資本を強化してきた背景には、競合の存在があります。
「Wolt」は、フィンランド・ヘルシンキに本社を置くフードデリバリー企業です。2014年に創業し、2022年6月には米国DoorDashの完全子会社となりました。日本では2020年3月、広島市でサービスを開始し、その後、札幌、仙台、東京などへと展開していきます。
Woltが注目された取り組みの一つが、2025年4月に札幌・広島で始めた「デリバリーなのに店頭価格」です。日本のフードデリバリーでは、商品価格が店頭価格より高く設定されるケースが一般的です。一方、海外ではデリバリーでも店頭価格と同じ価格で提供されることが多く、Woltはそうした商習慣を日本市場に持ち込もうとしました。
しかし、こうした価格面の訴求は、次第に差別化要因ではなくなっていきます。出前館など他社も同様の施策を打ち出し、さらに後発のロケットナウが「送料・サービス料0円」「店頭と同じ価格」を掲げて参入したためです。そして親会社のDoorDashは、2026年3月4日をもってWoltの日本でのサービスを終了すると発表しました。
Woltの撤退は、店頭価格や値引きによって利用者を集めても、それだけでは利益を残しにくい市場環境を示しているといえます。
Wolt以上に手強い新興勢
Woltの撤退により、出前館にはシェア拡大の余地が生まれたようにも見えます。しかしその一方で、新たな競合も現れています。「ロケットナウ」です。
ロケットナウは、韓国発祥の米上場企業Coupang傘下のCP One Japan合同会社が運営するフードデリバリーサービスです。2025年4月に日本で本格展開を開始し、短期間で対応エリアを広げています。
同社の特徴は、「送料・サービス料0円」と「店頭と同じ価格」を前面に打ち出している点にあります。利用者にとっては、フードデリバリーを利用する際の追加負担が小さく、価格面で非常に分かりやすいしくみです。
ロケットナウは、ユーザーから送料やサービス料を取るのではなく、主に加盟店からの手数料で収益を得るモデルを採用しているとみられます。
さらに、親会社であるCoupangは、自国市場で加盟店の露出枠を有料で販売する広告事業にも取り組んでおり、ロケットナウでも同様の収益モデルを広げていく可能性があります。2026年7月時点では、すでに福井県を除く46都道府県で「送料・サービス料0円」のサービスを展開しています。
つまり、出前館にとって、ロケットナウはWolt以上に手ごわい競合になる可能性があるのです。
最大のライバル「Uber Eats」の動向
そして、出前館が避けて通れない競合がUber Eatsです。Uber Eatsを展開する米Uber Technologiesは、配車サービス、フードデリバリー、貨物輸送などを世界規模で手がけるプラットフォーム企業です。
Uber Eatsは、日本では2016年9月に東京都渋谷区・港区からサービスを開始しました。その後、横浜、大阪、京都、神戸、名古屋、福岡などへと展開エリアを広げ、2021年9月には全国47都道府県でサービスを提供する体制となりました。
Uber Eatsの強みは、単なる料理宅配サービスにとどまらない点にあります。利用者、飲食店、配達パートナーをアプリ上で結びつけるだけでなく、世界各国で蓄積した配送網、アプリ運営、需要予測、広告商品のノウハウを活用しています。
つまりUber Eatsは、配達手数料だけで稼ぐサービスではなく、アプリ上の広告など付随収益も取り込む総合プラットフォームなのです。この構造の差こそが、出前館にとって厳しい部分といえるでしょう。
「お店価格で出前館」では赤字しか生まれない
出前館の今後の最大の課題は、再成長に向けた投資を黒字化につなげられるかどうかです。
2026年8月期第3四半期決算説明資料では、出前館は「オーダー成長へ回帰」を掲げています。「お店価格で出前館」の参加店舗は全国2万3000店舗超へ拡大し、マーケティング投資の再開によって、4月・5月のオーダー数は前年同月比110%となりました。第3四半期のオーダー数やアクティブユーザー数も前年を上回り、売上高も前年同期比111%と成長しています。
しかし、問題は利益です。同資料では、第3四半期の営業損失が32億円となり、前四半期の15億円から赤字幅が拡大しています。さらに2026年8月期通期の営業利益予想も、期初の40億円の赤字から79億円の赤字へ下方修正されました。売上高についても期初予想441億円から392億円へ引き下げられています。
なぜ、注文数や売上高が伸びているにもかかわらず、赤字幅が広がるのでしょうか。背景には、フードデリバリー特有の収益構造があります。注文数が増えれば売上高は増えますが、同時に配達体制の維持、配達員報酬、システム運営、カスタマーサポート、利用者獲得のための広告宣伝費やキャンペーン費用も発生します。
さらに、出前館が進める「お店価格」や送料無料などの施策は、利用者を呼び戻す効果がある一方で、出前館および加盟店側の負担を伴います。
出前館は1注文あたりの損益を開示していないため、1件ごとにいくら赤字が出ているかを正確に算出することはできません。ただ、注文数と売上高が伸びる一方で営業損失が拡大していることから、現時点では、増えた注文から十分な利益を残しきれていない可能性があります。
出前館は注文数の回復に向けて再び投資を強めていますが、その投資が利益につながるかはまだ見えていません。今後問われるのは、単に注文数を増やすことではなく、値引きや広告宣伝、配達関連コストを差し引いた後も、継続的に利益が残る事業構造を作れるかどうかです。
LINEヤフーに存在価値を示せるか
出前館は、2018年8月期には黒字を確保していたものの、競争激化とコロナ禍の需要拡大を背景に、利用者獲得や配送網整備への投資を強めた結果、売上高を伸ばす一方で赤字を大きく膨らませました。その後、赤字幅は縮小したものの、黒字化にはなお距離があります。
一方で、LINEヤフー系からの大規模な資本注入により、直ちに財務危機に陥っているわけではありません。ただし、その出資元であるLINEヤフー側では、出前館への投資について減損損失も計上されています。これは、出前館がグループ内で保有され続ける価値を今後示す必要があることを意味します。
Woltは撤退しましたが、Uber Eatsは強く、ロケットナウも低価格を武器に攻勢をかけています。出前館に問われているのは、価格競争に追随することではなく、いかにして利益が残る構造を作れるかです。いかに採算の伴う成長を実現できるかに注目しましょう。
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