「トランプ氏」の面子丸つぶれ…経済対応への評価は野党に軍配 生活難でお先真っ暗の若年層は急進左派を支持、右派にも「MAGAは既得権益」の声
42%が民主党候補に投票と回答
11月の中間選挙まで3カ月を切った中、トランプ米大統領にとって望ましくない世論調査結果が出ている。
ロイター/イプソスが7月29日〜8月3日に実施した世論調査で、米国経済への対応について有権者が10年ぶりに、野党・民主党の方が共和党よりも「優れた計画、政策、または取り組みを持っている」と評価されていることがわかった。37%が民主党を選択し、共和党の36%を上回った。また、今選挙が行われた場合、42%が民主党候補に、37%が共和党候補に投票すると回答した。
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経済運営の手腕を誇ってきたトランプ氏としては面子丸つぶれの結果だ。

ガソリン価格の上昇を引き起こしたイラン戦争についての評価も低い。前述の世論調査結果で、米国によるイランでの軍事行動が「今後1年間に中東を不安定化させる」は50%に達した。「一段と安定する」(17%)の約3倍だった。ガソリン価格の見通しについても悲観的で、58%が悪化を予想し、改善を見込んだのは15%にとどまった。
トランプ氏は3日、米石油業界はもうけ過ぎていると主張し、ガソリン価格の値下げを要求したが、原油価格が高止まっている限り、打つ手はない。中間選挙で議会の過半数を目指すトランプ氏と共和党にとって、イラン戦争が政治的リスクであることが改めて浮き彫りになった形だ。
イスラム系初の上院議員誕生か
これに対し、トランプ氏は民主党で勢いを伸ばす民主社会主義者(急進左派)を標的にして劣勢を挽回する構えだ。
トランプ氏は5日、民主社会主義者は共産主義の忍び寄る脅威を体現しており、米国の生活様式を破壊しかねないと警告を発した。前日(4日)に実施されたミシガン州の民主党の上院予備選で、イスラム系の急進左派のエルサイード(エルサイド)氏が、党主流派が支援したスティーブンス氏を僅差で勝利したことを受けての発言だ。
アラブ系住民が多いミシガン州で育ったエルサイード氏の父はエジプトからの移民で、11月の選挙で勝利すれば、同氏はイスラム系初の上院議員となる。
医学博士号を持ち、公衆衛生行政に従事した経験があるエルサイード氏は富の再配分を重視する急進的な候補の一人に数えられ、富裕層への増税や国民皆保険の実現などを強く求めている。
無党派層も急進左派を一部支持
民主党内では主に高所得層が支持する既存勢力と、若年層を中心に期待を集める急進左派勢力との亀裂が生じているが、このところ後者の方が優勢になりつつある。
民主党支持者でリベラルを自認する層が多数派になっている。先に挙げたロイター/イプソスの世論調査で、自らをリベラルと位置付ける(傾向がある/適度に/とても)民主党支持者の割合は、2012年の計55%から計71%へ上昇する一方、保守と回答した比率は計33%から計16%に低下した。
このリベラル派の民主党支持者のうち76%は、富裕層への増税がリベラルを名乗る上で必須の政策だと答え、71%が国民皆保険は欠かせない目標だと考えている。
急進左派の主張では無党派層の支持を得られないと言われてきたが、その「常識」にも変化が生じている。
同じ世論調査では、急進左派の主張の一部を無党派層が支持していることも判明した。無党派層の64%が富裕層への増税を支持し、60%が全国民を対象とする医療保険の提供を支持すると回答した。
「お先真っ暗」な若者たち
米国民の意識が変化した背景に生活苦があることは言うまでもない。
ニューヨーク市長のマムダニ氏を筆頭に急進左派を支援しているのは、米国民主社会主義者(DSA)だ。政策綱領に大企業の国家管理といった社会主義そのものの主張が並んでいるのにもかかわらず、会員数は全米で10万人を超える。
DSAを強く支持するのは、就職難と住宅価格の高騰にあえぐ若者だ。学生ローンのデフォルト(債務不履行)も950万人と過去最高水準にあり、お先真っ暗だと言っても過言ではない。
生活難は若者の恋愛活動にも暗い影を投げかけている。
米紙ニューヨーク・タイムズは3日、全米のZ世代は初デートの費用を負担できないとした上で、深刻な経済苦と物価高が若者たちの恋愛や結婚を阻む最大の障害と報じた。バブル崩壊後の日本のように、米国でも生活難のせいで少子化が加速する可能性が出ているのだ。
結婚を推進する米シンクタンク「家庭研究所」も気になる調査結果を5日に公表している。それによれば、対象の18〜29歳の男性2000人のうち、4人に1人が毎日株式を売買しており、64%が自分は人生の敗者だと感じていると回答した。これはギャンブル癖と同様の傾向を示しており、自暴自棄に陥る若年男性が増えていることの証左だ。
急進的な思想は右派にも
絶望した若者が急進的な主張に引き付けられるのは世の常だが、注目すべきは、トランプ氏にも怒りの矛先が向かっていることだ。
日本経済新聞は5日、右派にも急進的な思想が広がっており、トランプ氏を支持するMAGA運動でさえ既得権益側だと訴える若者が増えていると報じた。
このように、米国政治は急速に流動化しており、中間選挙に向けて社会の分断がさらに進むのは必至だろう。悩める超大国の動向は日本の行く末を大きく左右する。引き続き高い関心を持って注視すべきだ。
藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。2026年3月末日で経産省を退職。
デイリー新潮編集部
