記事のポイント
マリオットは、ホテルで実際に使われている家具や装飾品、リネンなどを購入できる「デザインショップ」を立ち上げた。
客室を「購入できるショールーム」として活用し、QRコードや会員向けメール、ポイント利用などを通じて旅行中の購買意欲を取り込んでいる。
デザインショップの商品はサイト平均の4倍の注文単価を記録しており、マリオットは旅行体験と小売を融合させて顧客との関係強化を図っている。


ホテル大手のマリオット(Marriott)は、旅行体験にもとづく衝動買いを続ける顧客に向けて、宿泊先ごとに異なる商品を投入する新たなeコマース戦略を展開している。販売するのは、自社ホテルで使われているのと同じ装飾品や家具だ。

マリオットは5月、デザインショップ(Design Shop)を発表した。同社のリテール事業ボンヴォイ・ブティック(Bonvoy Boutiques)の新たなeコマース部門と位置づけられ、マリオットのデザイナーがホテルで使っているのと同じ装飾品、リネン、テーブルウエアを顧客が購入できる。

最初のコレクションのひとつが、新たに改装されたWニューヨーク・ユニオンスクエアから着想を得たWホテルズ・リビング(W Hotels Living)だ。ラインアップには、カスタムメイドのヘッドボード、プラットフォームベッド、張り地のベンチのほか、照明、アート、ガラスの花瓶、トレー、ブックエンドといったアクセントが含まれる。

さらにフレンチリビエラ・コレクション(French Riviera Collection)も投入した。これはカンヌとニースにあるマリオットのホテルから着想を得たもので、海を思わせる青の色合いを強く打ち出したサービングボード、リネン、装飾品をそろえる。

「買う前に試す」を購買につなげる



マリオットでエグゼクティブバイスプレジデント兼チーフカスタマーオフィサーを務めるペギー・ロー氏は、デザインショップ戦略について、人々がホテルを訪れた際に得られる「買う前に試す」体験と、自宅向けに厳選されたパーソナルなアイテムを買いたいという全般的な関心をうまく活用していると語った。

「ふだんは行かない場所で見つけたからこそ、人はそれを買って大切にする傾向が強くなる」と彼女は言う。

「だからこそ我々は、人々をエコシステムに引き込むさまざまな方法を試している。彼らが関心を持ちそうなコア商品が数多くあるとわかっているからだ」。

マリオットは、Wユニオンスクエアのインスタグラム、購入できるQRコード付きの客室内テレビ広告、客室内のポストカード、請求書に記載したURLなど、ホテルごとのデジタルチャネルで宿泊客にこのショップを売り込んでいる。

さらに、リワード会員向けのメールマーケティングでも宣伝しており、会員はポイントをデザインショップでの購入に使える。これまでのところ、デザインショップ商品の売上は、サイト平均と比べて注文1件あたりの平均金額で4倍、1注文あたりの点数で2倍を記録している。

旅行と小売の融合、競合も動く



マリオットの戦略は、旅行とリテールが融合していく大きな流れの一部でもある。旅行者は消費に前向きな状態で訪れる傾向があり、免税店やクルーズ船内の店舗はここ数年、業績を伸ばしている。

コンサルティング大手のPwCによる夏の旅行支出に関する最新調査では、人々は休暇中の買い物や土産に平均で198ドル(約2万9700円)ほどを使うことが示された。

同時に、ホスピタリティ企業は、体験を提供することと自ら小売業者になることの境界をますますあいまいにしている

。サンフランシスコのJWマリオットをはじめとする一部のホテルは、卸売マーケットプレイスのフェア(Faire)を使い、地元産の商品を販売用や贈答用に厳選している。

エースホテル(Ace Hotel)は長年、各拠点で厳選した書籍やレコード、ビューティー商品など、ホテルごとの商品で知られてきた。マリオットは新たなブランド提携も試している。

マリオット傘下のザ・リッツ・カールトン(Ritz-Carlton)は7月中旬、コラボ企画、客室内でのビューティーサービス、限定トラベルキットを展開する初のビューティー提携として、メリット(Merit)と手を組むと発表した。

デザインショップの魅力のひとつは、ほかでは手に入らない、旅行を思い出させる品を宿泊客が注文できる点にあるとロー氏は言う。こうした購入は、旅行中の衝動買いとして行われることもある。

マリオットのマーケティング調査によれば、旅行者の約85%が計画外の購入をし、そのうち約55%がリテールや買い物にかかわるものだという。あるいは、旅行後にユニークなものを探しているときに購入されることもある。

「これはブランドを強化すると我々は信じている。旅行から厳選した何かを持ち帰ることもできるし、我々のエコシステムの一員だからこそ見つけられた、誰かに贈れるものを見つけることもできる」とロー氏は言う。

コロナ禍で強化したeコマース



マリオットは、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック以降、eコマース事業を強化してきた。かつて宿泊客は、マットレスやリネンのおすすめを尋ねるためにフロントデスクへ電話をかけていたし、ザ・リッツ・カールトンのようなホテルはシグネチャーの香りも販売してきた。

しかし、パンデミック中に人々が旅行をやめると、マリオットの商品売上は2020年に2019年比で26%伸びた。人々が自宅を改装したり旅行を思い出させる品を探したりしたためだ。これを受けて同社は、ボンヴォイ・ブティックのリテール事業を、オペレーションや調達の部門から、より顧客志向のチームへと再配置した。

「我々はいつもこうした定番品を売ることに注力してきたが、あるとき調査をして、『これは今よりもっと大きくなり得る』と考えた」とロー氏は言う。

ロー氏によれば、デザインショップの次の一手には、よりトレンドにもとづいた商品の厳選が含まれる。たとえばウェスティン(Westin)のデザインショップのコレクションは、同ブランドのウェルネスな美意識を前面に出しており、さまざまなバリエーションのスリープマスクの販売につながる可能性がある。

2026年の秋、デザインショップはJWマリオット・ホテル東京から着想を得たラインを発売する予定だ。ただし彼女は、実験的な要素もあると語った。夏にカンヌで開かれたブランドイベントで人気を集めたサンハットが、その後Webサイトに登場したのだ。

「すべてはトレンド次第であり、我々は何が意味を持つのかを学んでいる最中だ」と彼女は言う。

「我々は、新たな発見となるもの、体験の一部となり得るもの、そして持ち帰りたくなるものを人々の前に届けることをめざしている」。

客室が「ショールーム」になる



調査会社のカンター(Kantar)でシニアグローバルソートリーダーを務めるバリー・トーマス氏は、宿泊施設に滞在中に商品を試せることを踏まえれば、ホテルが小売業者として振る舞う大きな機会があると語った。

飲食料品ブランドがホテルや航空会社との提携を求めてきたのが人気を集めてきたのも、ひとつにはそのためだという。しかし今や、それはホテル自身が自らのブランドを披露する機会になりつつあると、トーマス氏は言う。

「ホテルは、単に泊まる場所から、ともに暮らすブランドへと進化しつつある」と彼は言う。

「商品に関する宿泊客のインサイトや全体的な関係は何年、何十年と続く。これは大きな意味を持つ」

さらに、旅行につきものの衝動買いという要素も取り込める、とトーマス氏は言う。そこではホテルの客室が、購入できるショールームになる。

たとえば宿泊客が客室からQRコードを読み取って注文できるようにするといった具合だ。それは、ほかの対面型サービスと同様に、ホテルが「自分たちが持つあらゆる物理的、デジタル、データ資産を収益化できるエコシステムブランドになろうとする」ための手段だという。

[原文:Why Marriott is turning hotel rooms into showrooms]

Melissa Daniels(翻訳、編集:藏西隆介)