「一村貸し」で話題を集めている新潟県糸魚川市の山間地にある市野々集落にある「宿屋堂道」 写真提供/株式会社伝燈

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 地方の過疎化や限界集落化が社会問題になる中、通年住民が1世帯2人の小さな限界集落を丸ごと貸し切れる「一村貸し」の宿泊サービスが、TikTokを中心に話題を集めている。

【写真】この景色を守りたい…「日本の原風景」市野々の美しい景色

 今年1月、新潟県糸魚川市の山間地にある市野々という集落に誕生した「宿屋 堂道」。築200年以上の古民家を活用し、1日1組限定で地域の伝承人(ガイド)が先導しながら、季節ごとに変わる集落の暮らしや風景を体感するというものだ。

決して失ってはいけない暮らしがここにある

 日本で唯一のサービスを行うのは、株式会社伝燈。建築家の顔も持つ代表取締役の永田伊吹さんは、2023年に地域おこし協力隊として糸魚川市に移住。活動のなかで市野々集落と出会い、貴重な建物や集落を守りたいという想いから「一村貸し」のアイディアを思いついたという。

 そんな永田さんに市野々を含めた糸魚川の魅力や、「一村貸し」サービスへの想いを聞いた。

「市野々は糸魚川の市街地から車で30分ほど、標高400メートルほどの山あいにある集落です。かつては多くの方が暮らしていましたが、今では通年で暮らすのはわずか2人となりました。それでも、この集落には、酒蔵の仕込み水にもなるほど澄んだ湧き水、囲炉裏を囲む暮らし、味噌づくりや祭りといった、受け継がれてきた文化が今も息づいています。

 私自身、この土地に流れる時間の豊かさと、そこで暮らす方々のあたたかさに強く惹かれました。“失われようとしているけれど、決して失ってはいけない暮らしがここにある”ーーそう感じたことが、市野々でこの取り組みを始めた一番の理由です」

 斬新なサービスを始める上で、苦労した点をこう語る。

「集落の方々との関係づくりです。“一村貸し”は、集落の暮らしの中にお客さまに入っていただく取り組みですので、そこで暮らす方々のご理解とご協力が欠かせません。丁寧に思いをお伝えし、少しずつ一緒に取り組める形をつくってまいりました。また糸魚川市は観光地ではないため、本物の体験を作ることが大事だと考え、集落で行えることをひとつひとつ丁寧に拾い上げながら、サービスを作っていきました」

 1月のサービス開始から、これまで45組(8月5日現在)が利用したという。

「割合としては国内のお客様が9割ほどで、ご家族連れや友人同士、二世帯でのご旅行など、さまざまな形でお越しいただいております。海外からのお客様も少しずつ増えてまいりました。

 利用者のみなさまからは、“静けさの中で、日頃の喧騒を忘れて心からくつろげた”“集落の方々とのあたたかい交流が忘れられない”“子どもたちが川遊びや生き物観察に夢中になり、家族の特別な時間になった”といったお声を多くいただいております。囲炉裏を囲んだ食事や、伝承人(スタッフ)との語らいを喜んでくださる方も多く、私どもの励みになっております」

 集落まるごとを感じられる体験のひとつひとつが、利用者に好評だと続ける。

「澄んだ湧き水の採取、味噌づくりや笹寿司づくり、囲炉裏を囲む郷土料理、夏の川遊びや満天の星空観賞など、市野々の暮らしそのものを味わっていただく時間が好評でございます。伝承人が一緒に過ごし、集落の文化をお伝えする点も、他にはない魅力だと感じていただけているようです」

何もないようでいて、“豊かさ”に満ちた場所

 今後は2棟目などを増やしながら、さらなる改善に取り組んでいく。

「会社の研修や仲間同士でも泊まっていただけるような形を整えていきたいと考えております。より多くの方に、市野々での時間を過ごしていただける場をつくってまいります」

 糸魚川には市野々集落以外もとても魅力的な場所だと語る。

「糸魚川は日本海と北アルプスに抱かれた、自然の恵み豊かな街です。世界的にも貴重な地質が評価され、ユネスコ世界ジオパークにも認定されております。ヒスイの産地としても知られ、海岸ではヒスイ探しも楽しめます。海の幸も山の幸も豊かで、四季折々の味覚が楽しめるのも魅力です。市野々での滞在とあわせて、糸魚川の海・山・食をゆっくりと味わっていただけましたら幸いです」

 そしてTikTokなどで興味を持った人にこうメッセージを寄せた。

「市野々は何もないようでいて、実は“豊かさ”に満ちた場所です。スマートフォンを置いて、湧き水の音や虫の声に耳を澄ませ、囲炉裏を囲んで語らうーーそんな、便利さとは違う時間の流れを、ぜひ体感していただきたいと思います。

 “一村貸し”は宿に泊まるのではなく、集落の暮らしそのものに入っていただく体験です。訪れてくださった方が、市野々を“もう一つのふるさと”のように感じていただけたら、これほど嬉しいことはありません。みなさまのお越しを、心よりお待ちしております」

 2020年に総務省の地域力創造グループ過疎対策室が発表した「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査報告書」によると、2015年から2019年までに消滅したとされる集落は96市町村の164集落。10年以内に消滅する可能性がある集落は、全国で454カ所に上るという。

 日本の美しい原風景を守るためにも、限界集落を消滅させない「一村貸し」のようなサービスや新たな試みが増えることを期待したい。

週刊女性PRIME