あるアカウントの「このアカウントについて」

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 8月1日、Xに一通の謝罪文が投稿されました。

 投稿したのは、インフルエンサーであり、あるK-POPグループのファンとしても活動していた日本人女性。推していたメンバーとの交流をめぐる行動がSNS上で批判を浴びたことを受け、自身の行動について謝罪する内容でした。

 投稿の表示回数は、記者が確認した8月6日時点で約6194万件。大きな注目を集める中、返信欄にも多数の批判や意見が寄せられていました。

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■ その後、報道されたこと

 女性はその後、韓国・ソウルで8月5日に死亡したと報じられています。朝鮮日報などによると、「(彼女は)極端な選択を図った」とのこと。報道は匿名ですが、複数の情報が一致していることなどから、同一人物と考えられています。

 この出来事を受けSNS上では、それ以前に起きていた炎上や誹謗中傷との関係を指摘する声が出ています。ただし、炎上や個々の投稿と女性の死との因果関係は、現時点では確認されていません。

■ 謝罪投稿に残っていた「見知らぬ批判」

 記者がこの件で気になったのは、女性の謝罪投稿に残されていた、いくつかの返信でした。

 「謝罪するのに(メンバーと)一緒に撮った画像載せるのは何なん。どこまで承認欲求モンスターなの」

 8月1日朝に投稿されたこの返信は、約20万7000回表示されていました。

 別のアカウントは、女性の謝罪文を「承認欲求と反省の境界線を突く神投稿文」と表現。こちらも約16万3000回表示されています。

 さらに別のアカウントは、写真を掲載したことについて、反省よりも「証明」や「記憶の共有」を優先しているように見えるとして、ファンとアーティストの距離感を改めて考えるよう求めていました。表示回数は約4万3000回。

 少なくともプロフィールや過去の投稿を確認した限りでは、いずれも女性と以前から交流していた形跡や、女性との明確な共通点は見つけられませんでした。

■ 返信したアカウントの「所在地」

 ところが、このアカウント同士には一つ、目につく共通点がありました。

 Xの「このアカウントについて」を確認すると、所在地はいずれも今回の話題の中心となった日本や韓国以外と表示されていました。中でも批判的な返信で目立つのが、先に紹介した3件を含む「Nigeria」表示のアカウントです。

 ほかにも、批判的な返信を投稿していたアカウントには「South Asia」「Saudi Arabia」などの表示がありましたが、記者が確認した範囲では、それぞれ1件程度でした。

 Xは「このアカウントについて」に表示する国や地域について、「集約されたIPアドレス」の情報などをもとに推測していると説明しています。直近の旅行や一時的な転居などの影響を受ける場合もあるため、この表示だけで投稿時点にナイジェリア国内にいた、あるいは運営者がナイジェリア人であると断定することはできません。

 また、Xの返信欄は必ずしも全件が表示される仕様ではありません。このため、今回記者が確認できたのは、あくまで返信全体の一部に限られます。実際には、ほかの国や地域と表示されたアカウントからも、複数の批判的な返信が寄せられていた可能性があります。

 ただ、ナイジェリアをはじめ、南アジアや中東の一部地域では、SNS上で大量のエンゲージメントを獲得し、それを収益につなげようとする活動が副収入の手段として広がっていることが、これまでも指摘されています。

 日本のXユーザーの間では、こうしたアカウントは俗に「インプレゾンビ」と呼ばれています。

■ 主張はバラバラ、それでも同じ投稿に集まっていた

 そこで今度は、見える範囲で「ナイジェリア表示」のアカウントに絞って調べてみることにしました。

 先に紹介した3件のうち1つは、普段サッカー関連の情報を中心に投稿。もう1つのアカウントは、米国の自動車関連企業を思わせるプロフィールを掲げながら、日本の漫画や芸能、アイドルなど、その時々で注目を集めている日本語投稿に次々と返信していました。

 残る1つは、自身を「詩人」「クリエイティブライター」「コンテンツクリエイター」などと紹介するアカウント。普段は英語圏の投稿を中心に、人物の写真から暗号資産、企業関連の投稿まで、ジャンルを問わず返信している様子が確認できます。

 3つとも普段の投稿内容はバラバラです。詳しく見ても、やはり女性との明確な接点は見つかりません。それでも共通していたのは、8月1日という同じ日に、この女性の投稿欄に現れ、辛辣な言葉を投げかけていたことです。

 また、2026年4月に作成され、同年7月から認証済みとなっている別のナイジェリア表示のアカウントも8月1日、この女性の投稿に返信。しかし、その内容は批判ではありませんでした。

 「コメント欄で彼女を責めている人たちは落ち着くべきだ。彼女はすでに謝罪している。当事者同士が納得しているなら、それでいい」

 大意はそうした内容で、むしろ女性を擁護する投稿。この返信は約30万1000回表示されています。

 また、ほかの「ナイジェリア表示」のアカウントでも、女性を擁護するものや、批判する人々をなだめるような返信を複数確認しています。いずれも投稿日は8月1日でした。

 つまり、同じ女性の投稿に現れたナイジェリア表示のアカウントが、同じ主張をしていたわけではないということ。

 嘲笑する者がいる。説教をする者がいる。そして、擁護する者もいる。

 共通していたのは「意見」ではなく、約6000万回表示された「同じ投稿に、8月1日という同じ日に相次いでたどり着いていた」ことでした。

 ここに、記者は妙な気味悪さを覚えました。

■ インプレゾンビは「批判」で稼ぐようになったのか

 もしこれらのアカウントが、いわゆる「インプレゾンビ」であり、さらに誰かの指示や情報共有によって、この投稿に集まっていたのだとしたら……。

 これまで「インプレゾンビ」といえば、「Amazing」「Beautiful」といった当たり障りのない言葉をぶら下げたり、元投稿とは無関係な画像や動画を貼り付けたりする、いわば「目障りな迷惑アカウント」という印象が強くありました。

 しかし、生成AIや自動翻訳の進歩に伴い、元投稿の文脈をある程度読み取り、それらしい返信を書けるアカウントも増えています。一見しただけでは、普通の利用者による返信なのか、インプレッション獲得を目的とした投稿なのか、判別しづらくなっています。

 そして、ここでもう一つ、記者には引っかかっていることがあります。

 過去に記者が観察していた、インプレゾンビの運用を指南しているとみられるアカウントがありました。現在は凍結されていますが、そのアカウントは近ごろ、「普通に投稿しているだけではインプレッションは稼げない」「批判的な意見の方が反応を得やすい」といった趣旨の投稿を繰り返し、炎上している話題に入っていくことを促していました。

 今回の投稿でも、同じような考え方で動いていたアカウントがあった可能性はあります。

 この女性の謝罪投稿には、もともと女性に批判的だった一般ユーザーからの返信も散見されていました。現在では削除されているものも少なくありません。

 一方で、女性を擁護する投稿も数多くありました。決して「全員から攻撃されていた」わけではありません。

 そんな最中に、インプレッションを稼ぐ好機としてこの投稿に入り込み、その一部がより強い言葉を選んでいたとしたら。

 たとえ数としては少数だったとしても、追い詰められている人にとっては、擁護の言葉より一つの強烈な批判が深く残ることはあり得ます。

 人間への怒りですらなく、ただ数字を得るためだけに投げられた言葉が、すでに傷ついている人間にさらに突き刺さる……。

 記者として使うべき表現ではないのかもしれませんが、「胸くそが悪い」では到底足りません。

■ 取材申し込みの前後、アカウントに見られた動き

 とはいえ、推測だけで話を進めるわけにはいきません。

 そこで記者は8月6日16時ごろ、このうち一つのアカウントに対し、女性を以前から知っていたのか、どのように返信する投稿を選んでいるのか、第三者から指示や助言を受けているのか……といった質問を添え、取材をDMで申し込みました。

 送信から半日以上が経過した記事執筆時点(8月7日12時)でも回答は得られていません。ただ、取材を申し込んだ前後、このアカウントにはいくつか気になる動きがありました。

 まず確認できたのは、取材を申し込む約1時間前の8月6日15時近く、女性に送った自身の返信について謝罪していたことです。

 「無神経な発言をしてしまい、申し訳ありません。本当にそんなつもりはありませんでした」

 そう謝罪した上で、「彼女がどのような方なのか、そして私のコメントがどれほど不快なものだったのか、全く知りませんでした」と説明。さらに、問題となった投稿を読んだことで「このようなことを言ってしまったことに本当に罪悪感を感じています」としています。

 そして、もう一つ気になる説明がありました。

 「私は日本人ではなく、Grokが私のコメントをあのような形で翻訳するとは知りませんでした」

 少なくとも本人の説明をそのまま受け取るなら、このアカウントは、女性がどのような人物で、どのような状況に置かれていたのかを十分に理解しないまま、その投稿に返信していたことになります。

 ここで、記者が最初に抱いた違和感が、少し違った形で浮かび上がってきました。

・彼女を以前から嫌っていたわけでもない。

・個人的な恨みがあったわけでもない。

・本人の説明によれば、彼女が「どのような方なのか」さえ知らなかった。

 それでも、批判の言葉は投げられていました。

 そしてその約3時間後……記者が取材を申し込んでから約2時間後の18時ごろには、新たな投稿がプロフィール上部に固定されました。

 英語で書かれた固定投稿には、「banger post(バズる投稿)」について、「たくさんのエンゲージメントとインプレッションを得る投稿のことだよね?」との記述がありました。

 続けて、「だったらタイムラインで目にするすべての投稿をみんなで応援すればいい。そうすれば誰もが頻繁にバズる投稿を持てる」といった趣旨の持論を展開しています。

 少なくとも、このアカウントがX上で「インプレッション」や「エンゲージメント」を得ることを明確に意識していることは分かります。

 取材申し込みの後に固定されたこともあり、記者には、自身の行動原理について何らかの説明を試みているようにも映りました。もちろん、それが取材と関係して投稿されたのかどうかは分かりません。

■ 相手を知らなくても、言葉は届く

 誹謗中傷という言葉から、私たちはしばしば「その相手を嫌っている人」が行うものを想像します。

 しかし今回目にしたものは、それとは少し違っていました。

 相手を知らない。背景も十分に知らない。場合によっては、使っている言語のニュアンスすら完全には理解していない。それでも、翻訳やAIを使えば、その場の「議論」に参加することができる現実。

 一方、言葉を受け取る側には、書き手がどこの国に住んでいるのかも、事情をどこまで理解しているのかも関係ありません。

 嘲笑は嘲笑として、批判は批判として届くだけ。

■ もう「邪魔なアカウント」では済まされない

 記者はTwitter時代から約18年、このSNSを見続けています。インプレゾンビの問題についても、長く観察してきました。

 これまで彼らは、確かに目障りでした。大量の無関係な返信で会話を埋め、必要な情報を探しにくくする迷惑な存在。ただ、少なくとも記者が見てきた限りでは、誰か個人を積極的に傷つけるような存在という印象はありませんでした。

 しかし、もし今、「誰かを傷つける言葉を選ぶことで、より大きな反応を得ようとする存在」へ変わりつつあるのだとしたら。あるいは、そこまでの明確な悪意すらなく、ただ「伸びている投稿」に参加した結果として、誰かを傷つける言葉が次々と投げ込まれるようになっているのだとしたら……。

 それはもう、これまで私たちが知っていた「インプレゾンビ」とは異なります。

 人の痛みを燃料にして数字を稼ぐ……。そんなものは、もはや「迷惑」どころではありません。人を傷つける「加害」です。

(宮崎美和子)

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 宮崎美和子 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2026080703.html