イオンモール熊本は建て直すより「片付け」のほうが高い?「がれき撤去・清掃」で50億円もあり得る理由
建物の解体だけで30億円、さらに…
7月28日午後4時27分、熊本県で最大震度7を観測する地震が発生した。
嘉島町のイオンモール熊本では、天井や外壁の一部が落下。来館客らの屋外避難が確認された約50分後、2階後方で爆発が起きた。イオンの発表によると、これまでに7人の死亡が確認されている。施設は営業を休止した。
前編『イオンモール熊本は「地震保険」だけでは再建できない?100億円の補償に「年1.3億円」の保険料を払っても…』では、商業施設や工場、倉庫、事務所など、企業が入る地震保険の現実について、専門家の解説をお届けした。
イオンモール熊本の復旧には、損傷した建物の修理費だけでなく、崩れた外壁や設備を運び出すための費用も必要になる。
前編で話を聞いた、法人向け損害保険に詳しい片山美典氏は、今回のような大型商業施設では、建物の解体だけで30億円近くに達し、館内のがれき処理や清掃まで含めると、50億円程度まで膨らむ可能性があると話す。
建物が壊れれば、保険金で直せばよい--。外から見れば、復旧はそのような話に思えるかもしれない。実際には、修理へ取りかかる前の片付けにも多額の資金がかかる。
さらに、イオンモール熊本の開業は2005年。当時から資材費や人件費は大きく上昇しており、同じ規模の施設を同じ金額で造り直すことは難しいのだ。
解体だけで約30億円、清掃まで含めれば50億円も
資材費や人件費の上昇を受け、建設費は大きく膨らんでいる。片山氏は、コロナ禍の頃と比べても1.5倍以上、イオンモール熊本の開業時と比べれば、倍以上かかる可能性が高いと話す。
「いま同じ規模の建物を造れば、当時よりはるかに高くなります。今回は新しく建てるのではなく、壊れた建物を調べながら直さなければなりません。費用はさらに膨らむと思います」(片山氏、以下「」も)
更地に新築する場合は、設計図に沿って工事を進められる。損傷した建物では、まず被害の範囲を見極めなければならない。
爆発の影響で鉄骨が曲がっていれば、外から見える部分だけを直すわけにはいかない。どの柱を残せるのか、建物全体の強度に問題はないか。検査を重ね、修理する範囲を決める必要がある。
工事中に新たな損傷が見つかる可能性もあり、見積もりには追加工事を見込んだ予備費が織り込まれることもある。新築と違って工事の全体像を描きにくい点が、費用を押し上げる。
そんな修理の前に待っているのが、がれきの撤去である。崩れた内装材や設備を集め、敷地の外へ運び出せば終わりではない。
コンクリート、鉄骨、ガラス、断熱材などを分別し、法律に沿って処分する必要がある。大型施設ほど量が増え、作業に使う重機や人員も多くなる。
「撤去業者はどこでも呼べるわけではありません。処分先も、近隣で許可を得ている施設に限られます。災害で壊れた建物が一斉に増えれば、業者も処分場も足りなくなり、価格が上がっていきます」
平時であれば、複数の業者から見積もりを取り、条件を比較できる。大規模災害の後は、道路が寸断されていることもあり、選択肢は狭まる。営業再開を急ぐ施設には、安くなるまで待つ余裕もない。
作業量に応じた相場が見えにくい点も、費用を押し上げる。住宅なら坪数から再建価格をある程度見積もれるが、爆発で飛散したがれきの範囲や処分量は、現場を詳しく調べなければわからない。
イオンモール熊本の延床面積は約3万6300坪。鉄骨造の解体費用を1坪当たり5万〜8万円として計算すると、建物の解体だけで約18億〜29億円となる。上限に近い条件なら、約30億円に達する計算だ。
さらに、館内に残った商品や什器、設備、内装材などの分別・搬出・処分に加え、粉じんや汚れの除去といった清掃作業も必要になる。被害の広がり方によっては、片付けにかかる費用全体が50億円程度まで膨らむ可能性がある。
ただし、これは延床面積と一般的な解体単価をもとにした概算である。建物のすべてを解体するのか、一部を残して修復するのかによって、実際の費用は大きく変わる。
3億円の工場が、撤去費1億5000万円で再建を断念
がれき撤去費が、再建そのものを難しくした例もある。片山氏が過去に担当した顧客では、火災によって約3億円の工場が焼失した。建物を失っただけでも大きな損害だが、撤去業者から示された金額は1億5000万円。建物価格の半分に相当した。
「15年以上前の事例ですが、撤去費用だけで1億5000万円かかりました。建物を片付けたあとに、もう一度工場を建てる資金も必要です。最終的に、その会社は再建できませんでした」
工場を建て直すには、まず1億5000万円を投じ、何もない状態へ戻さなければならない。その後に土地の整備、設計、資材の調達、建築工事が続く。
保険で建物の損害が補償されても、撤去費まで十分に出なければ、手元の資金は急速に減っていく。事故前と同じ事業を再開できるかどうかは、建物の保険金額だけでは判断できないのである。
火災保険には、損害を受けた建物や設備の残骸を処分するための「残存物取片付け費用」が設けられている商品がある。
見落とされやすいのが、その支払い上限だ。片山氏によると、片付けにかかった実費を広く補償する設計がある一方、損害保険金の10%や30%などに限られる契約もある。
実際、企業向け保険の現行商品にも、残存物取片付け費用を「1事故につき損害保険金の10%」までとする設計がある。商品や契約条件によって補償内容は異なるため、保険金額だけでなく、費用補償の上限まで確認する必要がある。
仮に建物の損害に対して3億円の保険金が支払われ、残存物取片付け費用の上限がその10%に設定されていれば、補償されるのは最大3000万円だ。撤去に1億円かかれば、残る7000万円は企業側が負担する。
「保険を選ぶ際、多くの人は最初に保険料を比べます。建物にいくら出るかは見ても、燃えた後の片付けにいくら出るかまでは、なかなか確認しません。大きな物件ほど、残存物取片付け費用の上限が重要になります」
安い保険を選んだつもりでも、事故後の持ち出しが大きければ、結果として高くつく。
保険証券で目立つのは建物の保険金額だが、再建を左右する数字は、その脇に記された片付け費用の上限かもしれない。
