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「介護保険制度」ができてから約30年、日本の平均寿命は着実に伸び続け、世界トップクラスの長寿国を誇ります。これを支えているのが「国民皆保険」をはじめとした日本の公的保険制度ですが、財源不足や制度設計から、こうした制度が“限界”に近づいていて……。本記事では、高島亜沙美氏著、西智弘氏監修の書籍『人生の終わり方を考えよう 現役看護師が伝える老いと死のプロセス』(KADOKAWA)より、日本の医療・介護の現実を紐解きます。

まずは家と地域でがんばれ…国が推奨する「地域包括ケアシステム」の仕組み

地域包括ケアシステムとは、「2025年(令和7年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進する」(*1)というものです。

*1 厚生労働省「地域包括ケアシステム」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html(2025年4月閲覧)

すごくいいように聞こえますが、実際に高齢者の方にこの説明をおこなうと、みなさん眉をひそめます。次の図にもあるように、まずは家と地域でがんばれ、必要になったら医療や介護を頼ってねというもので、いまの高齢者が子供の頃にあったサービスとは、まるっきり違ったものになっているからです。

[図表]地域包括ケアシステムの姿 出典:厚生労働省 地域包括ケアシステム https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html(2025年4月参照)

困ったら国や行政が全部面倒を見てくれるというものではないんですね。まずは、自分のお金と資源を使ってくれ、というもの。そりゃ高齢者はいい顔しません。

このシステムにおいて、介護保険制度は大きな柱になっていますが、これもだんだんと足場が崩れてきています。現役世代の増大する社会保障費への世論、人口減少に伴い十分な財源を確保できず、高齢者の負担を1割から2割へ、ホームヘルパーの生活援助を市町村の総合事業へ移管する話もでています(*2)。

*2 JOINT 介護ニュース「「骨太の方針」に介護改革案 政府 ヘルパーの生活援助の縮小を検討 ケアプラン有料化も」2024年6月24日
https://www.joint-kaigo.com/articles/28105/(2025年4月閲覧)

いずれ「介護保険制度」そのものがなくなる可能性も

30代であるわたしが75歳を迎える頃には、介護保険制度そのものがなくなっているかもしれません。医療費の負担だってそうです。いまは原則3割ですが、これも以前は1割や2割の時代がありました。3割負担となったのは、2003年からです。

自分の健康は自分で守るのが基本、困ったときに国が半分出してくれる、というルールになれば、医療費だって原則自己負担5割の時代がくるかもしれません。

医療現場にいる身からすると、国民皆保険制度に頼り切っている患者さんが大半だなと感じます。みんな、困ったら医療機関にかかればなんとかしてくれると思っているんです。自分のいのちと生活を自分で守ろうという、セルフケア精神が低すぎます

国民皆保険制度、フリーアクセス…世界に類を見ない日本の“特権”

世界を見渡してみると、国民皆保険制度のない国で暮らしている人もいます。医療そのものにアクセスできず、亡くなっている人もいます。日本では救急車を、いつでもどこでも何回でも「無料で」呼ぶことができますよね。これは、そういう人たちから見ると、この上ない贅沢な行動だと思うのです。

それから、日本ではフリーアクセスと言って、自分の意思でかかりたい医療機関にかかれる権利を患者さんは持っています。けれども、住んでいる市区町村の決められた診療所にかかって診断書や紹介状をもらわないと、大きな病院で診てもらえないという国や地域に住んでいる人もいるんです。診察の順番を待っている間に、がんが進行して手遅れになってしまったという事例も聞いたことがあります。

日本の国民皆保険制度は、戦後から高度経済成長にかけては国の発展を大いに助けてくれたと思いますが、現在の日本社会においては何を助けているのか、わたしにはよくわからなくなるときがあります。誰かのいのちを救うために、他の誰かのしあわせや権利を奪っている場面も多々見かけるからです

日本は長寿であることを誇りにしていますが、長く生きるためなら寝たきりでもいいという文化は、発展して欲しくないなというのが個人的な意見です。

きっと、欧米の医療従事者が日本の特別養護老人ホームを見たら、人間の尊厳や人権の点からびっくりすると思います。この人たち、みんな自ら望んでいないのに、こういう状態になってしまったの? これは虐待じゃないの?って。

若くして「介護保険」を必要とする人も少なくない

介護保険制度に縁がない、という方もいるかもしれませんが、現行では40歳になったら介護保険料が徴収される仕組みになっています。そのあたりの年代から要介護状態になる人が増えてくるので、世代間で連帯するためにもその年齢からにしようと、40歳に決まったようです。

実際、40代で老いが進み生活がままならないという人は少ないと思いますが、40代で大病を患い生活に何らかの支障をきたしている人はそこそこいます。老いはじわじわ進みますが、大病は一気にやってきますからね。

実際、介護保険制度は65歳からが対象になりますが、下記のような病気の人は、65歳以下でも介護保険制度を利用してサービスを受けることが可能です(*3)。

*3 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
http://mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/gaiyo3.html(2025年4月閲覧)

●がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る。)

●関節リウマチ

●筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)

●後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)

●骨折を伴う骨粗鬆症(こつそしょうしょう)

●初老期における認知症

●進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病【パーキンソン病関連疾患】

●脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)

●脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)

●早老症

●多系統萎縮症

●糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症

●脳血管疾患

●閉塞性動脈硬化症

●慢性閉塞性肺疾患

●両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

人によってはこんなに?と思うかもしれませんが、これらの病気はそれだけ生活への支障が大きく、介護サポートがなければ自立した生活を送ることがままならないという表れでもあります。

若年性アルツハイマー症やALS(筋萎縮性側索硬化症)、脳卒中で半身麻痺など、ドキュメンタリーで症例として取り上げられている病気も多いので、気になる人はご自身で探してみてください。

実際見てみると、こういう病気になった人たちが自宅でひとり暮らしすることの困難さ、大変さは筆舌に尽くしがたいです。使いきれないほどの資産がある人は別でしょうが、これらの病気の診断を受けた人のほとんどが、介護保険制度などの社会資源を使って暮らしています。

高島 亜沙美

看護師/保健師