(※写真はイメージです/PIXTA)

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独身で親と同居し、自立した基盤を持たない「中年未婚者」にとって、親の金融資産は事実上のセーフティネットとなっている現実があります。しかし、そのネットは想像以上に脆いものです。本記事では、田村真由美さん(仮名)の事例をとおして、「高齢親の資産」の落とし穴について、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。※本記事は実話をベースに構成していますが、プライバシー保護のため、個人名や団体名、具体的な状況の一部を変更しています。

79歳父の世話を拒否した48歳娘

田村真由美さん(仮名/48歳)は、地方都市にある実家で父と二人暮らしをしています。

若いころは異性に不自由しなかった真由美さんですが、30代で始めた婚活はなかなか実を結ばず、いつの間にかおざなりに。現在は昼と夜のアルバイトを掛け持ちし、自由な生活を優先しています。家にはほとんどお金を入れず、収入は交際費や趣味に消えていました。

一人娘として裕福な家庭に育ち、生活に困った経験のない真由美さんですが、唯一目ざわりな存在がいます。それは、父・正一さん(仮名/79歳)です。

母の死後、いつまでも身を固めることもなく、昼間から飲み歩く娘をたびたび注意してきた正一さん。しかし、真由美さんは聞く耳を持たず、父娘の関係はいっそうギクシャクしていきました。

そんなある日のこと。

前の晩にめずらしく雪が積もった翌朝、いつものように近所のスーパーへ買い物に行こうと家を出た正一さんは、凍結した路面に足を取られ転倒してしまいます。大腿骨を骨折しました。

入院後はリハビリを経てなんとか歩ける状態になったものの、筋力が衰えて歩行がおぼつかず、要支援状態に。基本的には自身で生活できるものの、買い物や入浴、食事の際の立ち座りなど、部分的に介助が必要になりました。

しかし、真由美さんは介助を拒否。

「自分のことは自分でやれとか散々いってたよね? なんでこの期におよんであたしが手伝わなきゃいけないの? 老人ホームにでも入れば?」

弱った父を支えながら生活することを拒み、高齢者住宅への入居を勧めました。

真由美さんのあまりのいいように腹が立った正一さんですが、かといって頼み込んで世話をしてもらうのも癪です。幸い、正一さんには3,000万円以上の金融資産があったことから、自宅から30分ほどのところにある「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」へ入居することにしました。

居住費は月額13万円で、自由に外出でき、必要なときはスタッフがサポートしてくれます。資産に頼らずとも、正一さんの年金月16万円で十分賄える環境です。

「やっと解放される」そんな娘の無慈悲なつぶやきを尻目に、家を出た正一さん。真由美さんは父の許可もとらず、実家に交際相手を住まわせ、同棲生活をスタートさせました。生活費は交際相手に出してもらい、まるで新婚生活のようです。もちろん、入居後に父の様子をみにいくこともありませんでした。

娘があてにしていた父の3,000万円

しかし、入居から1年後、正一さんから真由美さんのもとに連絡が入りました。聞けば、「家に戻りたい」といいます。

理由を聞き、真由美さんは青ざめました。

実は正一さん、元銀行員の友人から紹介された投資案件に3,000万円を預けていたようです。内容は、新規事業を立ち上げる法人への「金銭消費貸借契約」。1年後に元本返済、月利1.5%。3,000万円なら毎月45万円の利息が入るという触れ込みでした。

つまり、通常の融資では開業資金を確保しにくい事業者が、個人から資金を借り入れる形をとったということです。

年利換算で18%という高利回りで、年金を上回る収入が毎月入る計算。事業にはすでに実績があり、友人も「設備投資さえできれば売上は十分確保できる」と説明していたため、安全性は高いと信じ込んでしまったようです。

ところが、その法人は1年を待たずして破産。会社に残る資産はわずかで、債権者への分配もどうなるかはわからず期待できない状況です。受け取った利息こそ手元に残っているものの、元本の大半は回収不能となり、預金残高は約400万円にまで目減りしてしまいました。

資産を失い不安に駆られた正一さんは、「もうここでは暮らせない」と自宅へ戻ることを希望します。

父から衝撃の事実を聞き、真由美さんは開いた口が塞がりません。父が年金で賄えるサ高住に入居したことで、3,000万円の金融資産は「いずれ自分のものになる」と思っていたからです。

大金を元手にした甘い生活の夢が立ち消えたいま、交際相手からも別れを告げられたタイミングでした。真由美さんは再び父との気まずい二人暮らしを始めました――。

“高利回り”の理由

金融庁や消費者庁は、高齢者を狙った「高利回り投資トラブル」への注意喚起を繰り返しています。今回の事例は詐欺ではないものの、私募債や未公開株、ファクタリング、事業融資などの「高利回り」を謳う案件は、常に倒産リスクと隣り合わせです。

「月利1.5%」という数字は一見魅力的ですが、「なぜそんな高金利を払えるのか」を冷静に考える必要があります。銀行融資よりはるかに高い金利で資金調達せざるを得ない企業は、それだけ信用力が低い可能性が高いのです。

高齢期の資産運用は、「増やす」より「守る」が基本。失って困るお金で高リスク投資を行うのは避けるべきでしょう。どんな親であっても、高齢になればその判断能力は徐々に低下します。信用している人物からの誘いであれば、今回のように誤った判断をしてしまうことも。老後の資金計画や介護資金の準備、相続対策など、生命保険や成年後見制度や家族信託などの活用も視野に入れ、早い段階からどうやって管理するのか、家族で話し合うことが重要です。

親の資産管理は、子どもにとっても“自分事”

働き盛りの年齢であっても、独身で親と同居している人は珍しくありません。しかし同居にあたっては、親の財産をあてにする前に、自立した生活基盤を持つことが最低条件です。

内閣府「令和5年版高齢社会白書」によれば、日本の65歳以上人口は約3,600万人、高齢化率は29%超となり、今後高齢の親のお金の問題は増えてくることでしょう。親の老後はある日突然「自分の問題」になり、切り離せる問題ではありません。まだ元気なうちに、お金のことはしっかり話し合って戦略を立てておくことが重要です。

また、家族間だけで考えると感情的になったり話が進まなかったりすることも。その場合には、FPや第三者の専門家を交えることで冷静に戦略を立てることができます。今回のケースのように親子間での話し合いが難しい場合や、話がまとまりそうにないときには、必要に応じて活用するといいでしょう。

小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー