ミスをする部下とはどう付き合うべきなのか。臨床心理士の中島美鈴さんは「『どうしてできないのか』と注意するのでは問題は解決しない。つまずいている現状を詳しく把握することが大事だ」という――。(第4回)

※本稿は、中島美鈴『なぜあの人は時間を守れないのか』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■書類の遅れ、契約間違いが多発する社員

ここである保険会社の社員ワタルさんの例をご紹介しましょう。ワタルさんは、「1つずつ順にこなしていく」という情報処理スタイルを持っていて、Aの仕事が終わってからでないとBの仕事が考えられないという、いわゆるマルチタスクに向かないタイプの人でした。

しかし業務上、同時に複数の顧客を管理して、それぞれのプロセスをこなしていかなければならないため、アポイントメントの取り忘れ、ダブルブッキング、契約の間違い、書類の遅れなどが多発していました。

写真=iStock.com/VioletaStoimenova
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上司は顧客リストを指差して、「ここでいつも“今月は誰の処理をすればいいかな”とチェックしていればいいだけなのに、どうしてできないの?」と理解できない様子です。

ワタルさんとしては顧客リストをチェックしているつもりですが、日々更新されるリストをいつも気にしていなければならない状況では落ち着きませんし、リストを見ておよそ何件分をこなさなければならないことはわかるような気もするのですが、具体的に何をどの順でやっていくのかもピンときていませんし、それが複数あると、どこから手をつけていいのか混乱してしまうのです。

「今日は結局、何をするのかわからない」とスケジュールを立てられずにいます。

■部下の「できない」の裏側にあったもの

そんなワタルさんに対して、上司は実行機能モデルを示してこう言いました。「どこでつまずいているの?」。ワタルさんは顧客リストは見ていて仕事の内容もぼんやりとなら把握しているものの、計画立てができずに困っていることがわかりました。

マルチタスクに慣れないワタルさんには、顧客リストという一覧が与えられるだけでは、どの仕事を何日何時からどの順番でこなしていけばそれぞれの締め切りに間に合うかがわからなかったのです。

上司はそこでハッとしました。「君が言う計画立てができないって、もしかしてこういうこと?」。上司は、顧客リストから3名分のtodoリストを作り、ワタルさんの週間スケジュールに当てはめてあげたのです(図表1参照)。

出所=『なぜあの人は時間を守れないのか』

「こんなふうにいつするかまで決めると、あとはその日が来たら上から順にこなすだけでいいんだ」

「ありがとうございます。そういうことなんですね。この通りにすればいいって思うと安心できます。計画ってこうやって立てるんですね」

■「つまずく」場所を正確に把握してあげる

ワタルさんはやっと腑に落ちた感じでした。まさにこのスケジュール表が自分のシングルタスクの性質に合致したからでしょう。上司としてもこれは衝撃的な体験でした。まさかここまで手取り足取りの援助が必要とは夢にも思っていなかったからです。

このプロセスで大切なのは、ワタルさんと上司がつまずいている現状を詳しく把握していったことです。そして「なるほど、ここでつまずいているんだ!」と共に探し当て、納得しながらスケジュール表を導入できた点が成功のポイントでした。

こうして本人が納得して獲得したスキルは、それ以降も使われ続けます。また、これで1週間をうまく乗り切ることができれば、今度は手応えが生まれ、ますます時間管理を主体的にやってくれることでしょう。

次に「スケジュールをメモしない」社員に対して、対処法以前に部下自身に自己理解を促すことで解決する例を見ましょう。

会議中、会社員のマエダさんはいつもどこか上の空です。議事には関心を示さず、手元の資料に小さなイラストを描いていることもしばしば。発言を求めても、「あ、すみません。今のところ、もう一度お願いできますか」と聞き返す場面が目立ちます。

写真=iStock.com/mapo
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■頑なに言う事を聞かない社員の対処法

上司は、最初のうちはこう注意していました。「マエダさん、仕事は大事なんだから、ちゃんとメモをとりなさい」。

しかし、マエダさんはきっぱりとこう言いました。「大丈夫です。覚えてますから」。

その口調は穏やかでしたが、どこか頑なでもありました。ところが実際には、会議で決まった内容をよく忘れてしまい、後で確認が必要になることが多かったのです。上司はあるとき、気づきました。これは単なる怠慢ではなく、「自分の記憶力に向き合うのが怖い」からではないか、と。

人は、自分の弱点を指摘されると防衛的になり、「そんなことはない」と反発したくなるものです。マエダさんもきっと、注意されるたびに「できない自分」を認めたくなかったのでしょう。

そこで上司は、指導の方針を変えることにしました。直接「メモをとれ」と命じるのではなく、まず自己理解を促すことにしたのです。ある日の会議後、上司はこう声をかけました。「マエダさん、最近、覚えておきたいことをうっかり忘れてしまったことってなかった?」。

■メモの必要性に気づかせる技術

「ああ、あります。取引先との打ち合わせを日程違いで記録していて……。あと、課長から言われた修正点も、メモしなかったせいで抜けてしまいました」
「なるほどね。他にも何か思い出す?」
「そういえば出張の交通手段の予約を忘れて、前日に焦りました」

その表情には、どこか照れながらも、「本当に自分は忘れっぽいのかもしれない」という実感が浮かんでいました。

中島美鈴『なぜあの人は時間を守れないのか』(PHP新書)

「マエダさん、記憶に脳のメモリを使うのはもったいないよ。人間の脳って、考えるための力はすごいけど、保存する力はそんなに強くない。だったら、覚えておくことは紙やツールに任せて、脳のリソースは“考える”ことに使ったほうがいい。目の前のタスクに集中できれば、もっと実力が出るはずだよ」
「なるほど……。メモをとるのって、忘れないためじゃなくて、考えるためなんですね」
「そう、その通り。だから、メモを“補助脳”だと思えばいい。頼っていいんだよ」

それから数日後の会議。マエダさんはこれまでのように資料に落書きをする代わりに、要点を書き留めていました。

■怒らずに人を動かす「共感型マネジメント」

箇条書きのメモはまだ少しぎこちないものの、彼は自分の手で記録を残すことに意味を見出し始めたようでした。

会議後、上司が「今日のメモ、役立ちそう?」と尋ねると、マエダさんは照れくさそうに笑って言いました。「はい。見返したら思い出しやすくて、自分でもびっくりしました」。

人は、他者に「変わりなさい」と言われても簡単には動けません。けれども、「自分はこういう傾向がある」と気づいた瞬間、行動の意味が変わります。マエダさんにとって、メモをとることは注意の結果ではなく、自分を理解し、より良く働くための選択に変わったのです。

上司の役割とは、指示を出すことではなく、本人の現在地に一緒に立ち、自己理解できるように導くことなのかもしれません。そのとき初めて、人は本当の意味で行動を変え始めるのです。いかがでしたか? この例のように、決して怒らないで、まずは現在地を上司と部下で一緒になって眺めてみましょう。きっとこれまでとは全く違う景色が見えるはずです。

写真=iStock.com/Igor Suka
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中島 美鈴(なかしま・みすず)
臨床心理士
福岡県生まれ、臨床心理士。専門は認知行動療法。2020年、九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などでの勤務を経て、現在は九州大学大学院人間環境学府で学術協力研究員、肥前精神医療センター臨床研究部非常勤研究員。主な著書に『マンガで成功 自分の時間をとりもどす 時間管理大全』(主婦の友社)、『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』(光文社新書)、『会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動』(日経BP)など。
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(臨床心理士 中島 美鈴)