「美人だから選ばれたに違いない」「イケメンだから優遇されたんだ」などという邪推をしたくなることはよくある。中野信子さんは「人が物事を美醜で判断してしまうのは、脳の性質を知れば納得せざるをえない。それには科学的な根拠がある」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、中野信子『脳科学で解き明かすあの人の頭のなか』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

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■悪口を聞いただけでも脳を傷める

あなたの近くに、人の悪口ばかり言っている人がいたら、どうしますか?

・「そんなことを言うのはやめなよ」と注意する
・本意ではないけれど、適当に相づちをうっておく

どちらも、あまり得策ではありません。

できれば、その場を離れましょう。

私たちの脳は、交わされた言葉をしっかりと覚えており、それを後から繰り返す性質を持っています。そのときに、主語や目的語を正しく判断しません。

Aさんが言ったのかBさんが言ったのか、Cさんに向けられたのかDさんに向けられたのかという点を整理することなく、その言葉が脳内で繰り返されます。

つまり、人の悪口を言えば、それはそのまま自分に対して繰り返されるし、そばで聞いていただけでも同様の結果となります。

しょっちゅう人の悪口を言っている人は、そうした負のスパイラルにどっぷりはまり込んでいるのです。

人の悪口ばかり言っている人は、自分の脳を傷めていることに気づかない哀れな人です。

関わらないで放っておきましょう。

■人は正しさより美しさで物事を判断する

5歳の男の子に、いわゆる美人の女性とそうではない女性の意見を聞かせ、「どちらのお姉さんの言っていることが正しいと思う?」と聞くと、8割が美人の言っていることのほうを正しいと答えることがわかっています。

彼らは、意見の内容を吟味しているわけではなく、単純に美醜で判断しているのです。

大人になれば、「そんなことではいけない」「自分はそうではない」と口では言うものの、人の意見に賛同するか否定するかの判断をするときに、美醜は一定の基準になっています。

男女をひっくり返しても同じで、ハンサムの言うことは正しいと考えられがちなのです。

写真=iStock.com/Wavebreakmedia
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これは仕方のないことで、じつは、脳のなかの「美しさ」を扱う領域と「正しさ」を扱う領域は、とても近くにあるために混同しやすいのです。

つまり、この世のほとんどの人たちが、正しいかどうかの判断に「美醜」を持ち込んでいるのです。

■敵意を持つ人は敵意をむしろ感じている人

あなたに敵意を持って接してくる人は、たいてい「自分への敵意」を勝手に感じています。

アメリカの精神医学者アーロン・ベック(ペンシルベニア大学教授)が、興味深いことを指摘しています。

ベック氏によれば、サイコパシー傾向の強い人のなかには、「周囲の人間が自分に敵意を持っている」という思い込みに近い認識を持っているケースがあるそうです。だからこそ彼らは「自己を守るために」敵意を持って対抗してくるのです。

彼らは、「奪う側になることで奪われる側になることを避けているのであり、そのために、自分には社会のルールを破る権利が与えられている」とすら思っている節があります。

周囲はなにも奪おうとはしていないのに、そういう思考が働いてしまうのです。

写真=iStock.com/Atstock Productions
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■きつい目つきの人はむしろ衝突を避けたい人

怖いと感じるほどきつい目つきの人は、あなたに敵意を向けているわけではなく、むしろ「衝突を避けよう」としている可能性が高いです。

アドレナリン濃度の高い個体は攻撃性が高く、同様の性質を持つ個体とは衝突しがちになります。

そこで、衝突を回避しようと思ったら、自分と同様の個体を見抜き、鉢合わせしないようにする必要があります。

つまり目つきが鋭い人は、他者に爐ん瓩鬚弔韻燭蠹┛佞鮓けたりしているというよりも、衝突を避けるために無意識にそうなっているかもしれないのです。

ただ、どちらにしても、きつい目つきの人が攻撃性を秘めているのは事実で、怖いと感じること自体が間違っているわけではありません。

■身内びいきをしたがるのは人間の性

心理学における有名な実験に、「青シャツと黄シャツの実験」というものがあります。

6歳から9歳の子どもを、青いシャツと黄色いシャツを着た2つのグループに分け、試験の平均点を競わせたり、なにかにつけて「青シャツを着ている○○君」と呼びかけたりと、それぞれがどちらのグループに属しているかをつねに意識させるようにした実験です。

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そうした日々を過ごして1カ月後、「2つのグループが競争したらどちらが勝つと思う?」と聞くと、67%が「自分たちのグループ」と答えました。

また、「グループ替えをするとしたら次はどっちのグループに入りたい?」と聞くと、8割以上が「今のグループがいい」と答えたのです。

こうした身内びいきを、専門用語で「内集団バイアス」と言います。

もともと人間は集団を形成し、ほかの集団と戦ってきたわけですが、そのときに根拠のない優越感を感じられるほうがモチベーションが上がり有利だったために、進化の過程で内集団バイアスがかかりやすくなったのでしょう。

ですから、なにかにつけてつるみたがる人間は、種としての本能に忠実だとも言えるのです。

人間は本能的に群れたがり、身内びいきをしたがる生きものなのです。

■心拍数が少ない人は反社会的行動をとりやすい

心臓の鼓動の回数である心拍数と、その人が持つ反社会性には相関関係があることが複数の実験結果からわかっています。

中野信子『あの人の頭のなか』(プレジデント社)

普段から心拍数が少ない人ほど、反社会性が強い傾向にあるのです。

そして、その傾向は幼い頃から見受けられます。

エイドリアン・レインという研究者の調査によると、3歳のときに心拍数が少なかった子どもがのちに暴力行為や非行に走る割合は、そうでない子どもの2倍に上るという結果が出ています。

おそらく、危険な状況や緊張する状況に置かれても心臓がバクバクしにくければ、本来越えてはいけない一線を簡単に越えやすいからだと思われます。

ちょっと頼りなく感じても、「すぐにドキドキしちゃう」くらいの人のほうが安心なのかもしれません。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
東京都生まれ。脳科学者、医学博士。東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授、森美術館理事。2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。著書に『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『毒親』(ポプラ社)、『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)、『エレガントな毒の吐き方』(日経BP)、『脳科学で解き明かすあの人の頭のなか』(プレジデント社)など。
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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)