遠藤憲一「満足できた役なんてほとんどない」セリフと格闘…脚本に込めた“純な”情熱

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【役者魂VOL.5 後編】

現在放送中のドラマ9「元科捜研の主婦」(毎週金曜夜9時)で、俳優・遠藤憲一が演じるのは、元刑事で科捜研所長の小沢晋作。かつて“科捜研のエース”と謳われた専業主婦、吉岡詩織(松本まりか)のことを「師匠」と慕い、部外者である彼女への協力を惜しまない、「明るいおじさん」(本人談)の役が好評だ。


【動画】遠藤憲一が存在感発揮!「元科捜研の主婦」

前編では、そんな遠藤が作り上げた小沢所長のキャラクター、共演者との関係、日々の役作りの様子を聞いたが、後編では、俳優としての転機、今後の夢を聞く。

悪役から“普通のお父さん”へ 還暦を過ぎても苦しみもがき続ける理由



デビュー43年目を迎えた遠藤憲一。広告で目にした芝居の養成所に入ったとき、その養成所を辞めて自主公演を立ち上げたとき、三池崇史監督との出会い、マネージャーを務める妻との出会い――。役者としての転機はいくつかあるそうだが、近年「大きく方向性が変わった」のは、2009年のことだった。

「テレ東さんの『湯けむりスナイパー』で初めて主演をやらせてもらって、『白い春』(2009年フジテレビ)では、初めて悪役じゃない、お父さん役を演じて。翌年の連続テレビ小説『てっぱん』でもお父さん役が来て……。それまでは強面の役が多かったから、“普通の人間を演じるってこんなに面白いんだ”と思いました。そこから、いろんな役をもらえるようになったのが、ここ最近の転機かな」

最近……といえば、一昨年、放送30周年を記念して「忍者戦隊カクレンジャー 第三部・中年奮闘編」が配信された。遠藤は、かつて演じた敵役・貴公子ジュニアとして出演を果たし、「超大御所俳優なのに嬉しすぎる」、「有名な俳優なんだから断りなはれ!(笑) でもホント、感謝しています」など、往年のファンを歓喜させたことも記憶に新しい。

「初めてもらえたレギュラーだったから嬉しかったし、転機にもなったし、思い入れがあるよね。(あまりのヒールぶりに)近所を歩いていると子どもたちから罵声を浴びせられたけど(笑)、それも悪役としてはしてやったりというか、いい思い出です」

「忍者戦隊カクレンジャー」は30代前半、2009年の転機は40代前半。

「若かったからね。まだいっぱいいっぱいじゃなかった。ただでさえ台本を覚えるのに時間がかかる方なんだけど、若いうちは朝までお酒を飲んでいてもまだできた。最近は、記憶力も集中力も落ちてきているから、もう大変(笑)。でも、大変だからこそ充実感があると思うから、何とか覚えていますよ」

充実感はある、やり遂げたという達成感もある。ただ、芝居をしていて「楽しいと思ったことも満足感もない」という。

「今でも、毎回試行錯誤の連続だし、満足できた役なんてほとんどないの。台本を覚えるときも手が抜けない……“こんなもんでいっかな?”という気持ちは持たないように意識しているから、結構しんどいんだよね。正直に言えば、苦しいことばっかり。
だから『俳優をやっていて楽しかったり嬉しかったりするのはいつですか?』と聞かれたとするなら、『遠藤さん、オールアップです』と言われたときかな。“ようやく終わった〜”っていう安堵感や達成感はあるけど、満足感を得たことはないかな」



「60代は一番いい」亡き先輩の言葉を胸に――「もっと成長したい」



断酒して8年――。「机とベッドとソファーが置いてあるだけ」の殺風景な部屋で、黙々と役と向き合う。

「実は、台本を覚える以外に連ドラの脚本を書き始めたの、誰からも求められていないのに(笑)。なんでそんなことをやりだしたかというと、お酒をやめて、妻に『趣味でも持てば?』と言われて。だったら“脚本を書いてみよう”と思い立ちました。絵を描くでも何でもよかったんだけど、やっぱり俺は、映像の世界で何かを作り上げることが一番好きなんだと思ったんだよね」

「突き詰めると、モノを作ることが好き」。そんな純粋な動機のもと、執筆をスタート。
8年が経過した。

「俳優とは違った形で人に感動してほしいと思ったんですよね。頭の中でどんどんイメージが膨らんで、“これは連続ドラマにした方が面白い!”となって。自分が観たい、作ってみたいものがそれでした。平均すると年に1話くらいかな? コツコツと書き溜めて、今に至ります」

書いては直し、書いては直しの繰り返し。そうこうするうちに、大家族の母親が失踪する「ホームドラマ・サスペンス」は、全9話の連続ドラマになっていた。

「締め切りや制約があるんだろうけど、仕事で台本を読んでいると“仕方なく文字でページを埋めているな”と思うことがあるんですよ。今の俺は、そういう決まり事がないからすごく楽しくて。まず書きたいシーンから始めて、“次のシーンがより面白くなるにはどうすればいいだろう”と考えて。それを積み重ねていくうちに、いつの間にかその分量になっていました」

昨年、遠藤が出演した「劇場版 孤独のグルメ」では、盟友・松重豊が監督・脚本・主演の3役を務めたが、そういう欲求はないのか。

「監督や脚本家になりたいというより、自分の中にある作品を生み出してみたいんですよ。でも“こういうイメージで……”ってプロットを作っても、細かいところまでは伝わらない。それで自分で書き始めたというところがあります」

最初は気分転換に始めたはずの脚本執筆は、いつしか“人を感動させたい”というモチベーションが背中を押し、今では「映像化が一つの夢」に。

「早くしないと70代になっちゃうからね。幸い読んでくれた人たちがみんな『面白い』と言ってくれるから、いつか日の目を見たらいいなって」

最後に「気が早いですが、70代の自分をイメージしていますか?」と問うと、「先のことは全く考えていない」と即答。「ただね……」と、6年前「竜の道 二つの顔の復讐者」(フジテレビ)で共演した大先輩・西郷輝彦とのエピソードを教えてくれた。

「西郷さんに『君、いくつなの?』と聞かれて、『もうすぐ60歳になります』と答えたら、『若いな〜。60代は一番いいぞ!』とおっしゃったんですよね。それで『どういうところがいいんですか?』と尋ねたんだけど、当時はコロナ禍でフェイスシールドをしていて、しかも座る場所も距離を取っていたものだから、その答えが全く聞こえなくて(笑)。
その後、バラエティー番組でご一緒したときに改めて聞いたら、『それまで培ったものを全部吐き出せるのが60代だぞ』と教えてくださったんですよ。その言葉が、今でも俺の心の中に残っています」

ドラマの2年後、残念ながら西郷はこの世を去ったが、このエピソードが、今の遠藤にとって、大きな指針になっている。

「今年で65歳になるんだけど、60代はあと半分残っているからね。これからの5年間をどう生きるか――。経験値と自分のやりたいことが上手く合致するときだと思うから、悔いなくやって70代で笑っていたい。西郷さんがおっしゃったように、まだまだ余力はあるな、伸びしろはあるなと思うから、これまでと変わらず精一杯やっていきたいです」

新年早々行われた「元科捜研の主婦」の記者会見では、用意された絵馬に「伸びしろができますように」としたためた。「もっと成長したい」その思いがある限り、俳優・遠藤憲一の歩みは止まらない。

【遠藤憲一 プロフィール】
1961年6月28日生まれ、東京都出身。1983年に俳優デビュー。映画・ドラマに欠かせない、日本を代表とする“名バイプレーヤー”として確固たる地位を築く。
2009年「湯けむりスナイパー」(テレ東)で連ドラ初主演。近年は、大ヒットシリーズ「ドクターX 〜外科医・大門未知子〜」(テレビ朝日)、「ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜」(フジテレビ)、「民王」(主演・テレビ朝日)、大河ドラマ「西郷どん」(NHK)など、話題作に相次いで出演。
1月クールはドラマ9「元科捜研の主婦」(テレ東)のほか、「テミスの不確かな法廷」(NHK)にも出演している。

(取材・文/橋本達典)

【第6話】


詩織(松本まりか)の親友が殺人犯!?詩織は、美容系メーカーに勤める大学時代の同級生・由利(黒川智花)再会する。由利の娘・真紀(前田花)と亮介(佐藤大空)もすっかり仲良しに。そんな時、由利は社長の西条(田中幸太朗)に呼び出され、急ぎ会社へ。しかし、西条は社員たちの前で毒殺される。捜査する道彦(横山裕)は、容疑者の由利が詩織の友人だと気づき…。“小さな葉”と“見えない時間差”…科学の力が導く真実とは!