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初任給を30万円に引き上げるなど、新卒をはじめとする若手の人材獲得競争が激化しています。その一方で後を絶たないのは上場企業の早期・希望退職募集、いわゆる「黒字リストラ」です。渦中にいる60代の社員は、働くこととどのように向き合っていけばよいのでしょうか。今回は、パーソル総合研究所シンクタンク本部 上席主任研究員・藤井薫さんの著書『定年前後のキャリア戦略-データで読み解く60代社員のリアル』から一部を抜粋し、シニアの働き方の「今」をお届けします。

【図表】60代以上社員に占めるライン管理職比率

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60代の管理職はほとんどいない

60代社員に管理職経験者は多いのですが、今も管理職ポストに就いている人が多いのかというと、状況はまったく異なります。ここでは、管理職とは担当組織と部下を持ち、人事評価を行うライン管理職を指しています。ライン管理職ではなく、管理職相当の処遇を受けているだけの人は含みません。

結論から言うと、役員を除くと、60歳以上のライン管理職はほとんどいません。60歳以上の社員におけるライン管理職比率を見ると、「1人もいない」企業が4分の1、「1%程度」の企業が4分の1ですから、約半数の企業において、60歳以上の管理職は100人中0.5人程度だということです(下図表)。

最も多い回答は「2〜5%程度」が3割です。これを合わせても、60歳以上の管理職が100人中2人未満の企業が約8割を占めます。管理職相当の処遇を受ける人はいても、仕事としてライン管理職に就く人はほとんどいないというのが実態です。つまり、管理職は、60歳以降はほぼ例外なく管理職を外れて「元・管理職」になるのです。

管理職を外れるというと、役職定年をイメージする人が多いかもしれません。

役職定年制度がある企業は、およそ6割です。役職定年とは、決められた年齢で管理職から外れる制度です。役職定年の年齢は、60歳が最も多く36.6%、次いで55歳が20.7%です(下図表)。役職定年ではない実際の定年が60歳の企業でも、65歳の企業でも、役職定年はいずれも60歳が最多です。


<『定年前後のキャリア戦略-データで読み解く60代社員のリアル』より>

過去の調査では、役職定年57歳という回答が多く見られました。今回の調査では60歳が最多なので、管理職を務められる年限が延びたように見えますが、おそらく実態はそうではありません。60歳定年の企業で役職定年が60歳とはどういうことかというと、管理職が60歳で定年になると再雇用になって管理職から外れるということです。

おそらく、役職定年がなかった企業が、65歳までの継続雇用の義務化で再雇用制度を導入した際、これまで通り60歳で管理職から降りてもらおうと考えた結果、新たに60歳を役職定年に定めたということでしょう。65歳に定年延長した企業でも同様のパターンがかなり多いと思われます。実質的に役職定年が延びたわけではなさそうです。

「役職定年」と「定年」

役職定年と定年は、言葉は似ていても意味合いはかなり異なります。定年は雇用の話ですが、役職定年は人事配置の話です。このポストに誰を登用するか、外すかは、事業推進上の判断に応じて、最もふさわしい人にそのポストを担当してもらう「適所適材」の話であり、企業の人事権の範疇です。

「だったら役職定年なんていわずに、必要な時に適宜、解任すればいいじゃないか」と言われそうです。


『定年前後のキャリア戦略-データで読み解く60代社員のリアル』(著:藤井薫/中央公論新社)

まったくもって、その通り! 本来、役職登用や解任は、企業がその時々の必要性に応じて人事権を行使すればよいだけなのです。あなたの会社でも年度初めの4月や株主総会後の7月に定期人事異動があって、多くの管理職が入れ替わっていませんか? あなたの上司も昨期とは別の人かもしれません。

管理職は、たいてい、あるサイクルで異動対象になります。その理由は、たとえ本人や組織の業績に特に問題がなくても、同じ人が長い間、同じ組織の長であることは、イノベーションを阻害し、組織が澱む原因になるからです。同じ人が長い間、同じ組織の長としてポジションパワー(職務権限)を持ち続けるのは決して健全な状態ではないので、企業は管理職のローテーションを行うのです。

次のポストを探そうとする

ところで、あなたの前の上司は今どうしていますか? 40代や50代前半の人であれば、おそらく他部署の管理職になっているのではないでしょうか。

職能型の人事制度であれば、いったん管理職になった人は人事制度上の位置づけとして「管理職クラスの人」ということになるので、役職定年前に今のポストを外れることになっても、人事部はどこか別の管理職ポストを探して、そこに当てはめようとします。

ジョブ型の人事制度であれば「適所適材」なので、現ポストに当人以上の適任者がいて、当人こそがベターだと言えるほかのポストが見当たらないのであれば、管理職から外すだけでよさそうなものですが、やはり、多くの人事部は次のポストを探そうとします。職能型であれ、ジョブ型であれ、管理職から外れると処遇が大きく下がったりするので、現実問題としては、人事部はその都度その都度の事業ニーズに応じて単純に登用・解任を繰り返したりするわけにもいかず、異動配置に苦労しているのです。

しかし、組織が順調に拡大してポストが増えていく状況でもない限り、いったん管理職になった人を、退職までずっと管理職にしておくには限界があります。すぐに管理職ポストは売り切れ状態になってしまい、新しい人を登用することができなくなります。人事部は適度な新陳代謝のために、強制的に管理職から外す何らかの手段が欲しくなります。それが役職定年なのです。

役職定年は「巧妙な必要悪」

「役職定年で部長から外れた時は、業績絶好調だったんで『もっとやらせろ』と思って腹が立ったけど、今になって振り返ると業績不振になってから降ろされるよりも、役職定年だからと言われるほうが、割り切ってその後を明るく過ごせるかもしれないね」

確かに、年齢だけを理由に外されることには不条理感があるはずです。役職定年に頼らざるを得ない人事部の非力さも否めません。しかし、筆者は、役職定年は強制的に新陳代謝を促進する、巧妙な必要悪だと考えています。

役職定年になった「元・管理職」のみなさんには、「自分の能力不足のせいじゃない。単なる年齢基準だから」ということで、管理職ポストへの未練を断ち切って、新たな役割に目を向けてほしいと思います。企業の目的は新陳代謝なので、役職定年がある会社では管理職復帰が叶うことはないからです。

※本稿は、『定年前後のキャリア戦略-データで読み解く60代社員のリアル』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。