<継続勤務>は消去法?積極的選択?「ずっと正社員だった」60代はどのような働き方をしているのか
初任給を30万円に引き上げるなど、新卒をはじめとする若手の人材獲得競争が激化しています。その一方で後を絶たないのは上場企業の早期・希望退職募集、いわゆる「黒字リストラ」です。渦中にいる60代の社員は、働くこととどのように向き合っていけばよいのでしょうか。今回は、パーソル総合研究所シンクタンク本部 上席主任研究員・藤井薫さんの著書『定年前後のキャリア戦略-データで読み解く60代社員のリアル』から一部を抜粋し、シニアの働き方の「今」をお届けします。
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これまで勤めていた会社での継続勤務か転職か
「ずっと正社員だった」60代は実際にどのような働き方をしているのでしょうか、雇用形態を見てみましょう。
分析の枠組みとしては、「50代後半」「60代前半」「60代後半」の各年代層を、「継続勤務者」「転職者」「パート・アルバイト」に分類しています(下図表)。

<『定年前後のキャリア戦略-データで読み解く60代社員のリアル』より>
そして、いわゆる正社員と契約社員・嘱託社員を合わせて、「正社員等」という区分にしています。「正社員等」は60歳定年の企業の場合、定年前と同じ働き方をしていても、雇用形態としては定年後再雇用で契約社員や嘱託社員になっている人が多いので、「正社員等」として一括りにしています。ちなみに、定年後再雇用者を嘱託社員と呼ぶ企業が多く見られますが、労働基準法上の扱いは契約社員も嘱託社員も「有期雇用契約」であり、まったく同じです。
そして、「正社員等」を勤務先によって「継続勤務者」と「転職者」に区分しています。「継続勤務者」は、55歳時点で勤めていた企業やそのグループ企業に勤務している正社員や定年後再雇用の契約・嘱託社員です。
55歳以前からずっと同じ企業に勤めていても、パート・アルバイトの場合は、正社員等の「継続勤務者」ではないので「パート・アルバイト」のほうに含めています。「転職者」は、55歳以降に転職した正社員や契約・嘱託社員であり、転職してパート・アルバイトになった人は「パート・アルバイト」としています。
本記事の主な分析対象は60代の継続勤務者、もう少し広く捉えると、正社員等です。60代の雇用形態というと、パート・アルバイトが多いというイメージがあるかもしれませんが、少なくとも、「ずっと正社員だった」60代の実態は異なります。
60代前半の約9割、60代後半でもおよそ3分の2はパート・アルバイトではなく、「正社員等」として働いています。そして、60代前半の正社員等の約9割、60代後半ではおよそ3分の2が「継続勤務者」です。
「ずっと正社員だった」60代の多くは、正社員だったり、定年再雇用の契約・嘱託社員だったりしますが、これまでと同じ会社やそのグループ会社で働き続けているのです。ちなみに、60代前半の継続勤務者では95%超、60代後半でも約86%がフルタイム勤務です。60代になっても、働く場所と時間は50代の頃と変わりません。
なぜ、継続勤務を選択する人が多いのか
なぜ、継続勤務を選択する人が多いのでしょうか?
「そもそも、何も考えなくても65歳までは継続雇用される。これまでの経験やスキルを活かすには、今の仕事を続けるのが一番だし、この仕事が好きで誇りを持っている」

『定年前後のキャリア戦略-データで読み解く60代社員のリアル』(著:藤井薫/中央公論新社)
「転職しようと思っても事務系の希望職種の求人がほとんど見当たらない。60歳過ぎてからの転職は現実的ではない」
果たして、継続勤務は消去法なのか、積極的選択なのか。その答えは人によって違うかもしれませんが、「ずっと正社員だった」ふつうの60代にとって、少なくとも収入面からすると継続勤務は有利な選択肢です。
60代の継続勤務者の給与収入はいくら?
20項目の選択肢の中から働く理由を三つ挙げてもらったところ、年代層を問わず、「生計を維持したいから」に最も多くの回答が集まりました(下図表)。

<『定年前後のキャリア戦略-データで読み解く60代社員のリアル』より>
60代前半では52.8%、60代後半では44.5%です。「これまでのキャリアやスキルが活かせるから」「健康を維持できるから」など、そのほかの選択肢を大きく上回る回答率です。やはり、60代においても、お金の話を抜きにしては働くことを語れません。
継続勤務者、転職者、パート・アルバイトの年収を比べてみましょう(下図表)。ここでいう年収とは「本人が企業から得ている報酬」、つまり、本人の給与・賞与の合計額であり、年金や配偶者の収入などは含まれていません。
年収を200万円刻みで見てみると、60代前半では、継続勤務者が「400万〜600万円未満」、転職者は「200万〜400万円未満」がボリュームゾーンになっており、継続勤務者は転職者よりも年収が高い人が多いことがわかります。転職者では400万円未満の人が半数を超えます。パート・アルバイトは、「200万円未満」がおよそ3分の2を占め、正社員等と比べると年収は大幅に低くなります。
60代後半になると……
60代後半になると、継続勤務者では「400万〜600万円未満」の人よりも「200万〜400万円未満」の人が多くなり、ボリュームゾーンは転職者と同じになりますが、継続勤務者は転職者よりも年収が高い人が多く、全体傾向は60代前半とそれほど変わりません。一方、パート・アルバイトについては、60代前半よりも「200万〜400万円未満」の人が増えており、むしろ高収入になっています。
60代後半になると企業の雇用継続義務がなくなることもあり、正社員等での就業が減って、パート・アルバイト勤務者の割合が60代前半の3倍になります。60代後半のパート・アルバイトの収入が60代前半よりも高い理由は、時間単価の上昇ではなく、収入が必要で長時間働く人が増えるからだろうと推測できます。
60代の給与といえば、「60歳定年で再雇用になって、給料が3割下がった」「うちの会社は65歳定年だけど、60歳で給与が下がる」という声が多く聞かれます。実際のところ、60歳定年企業の8割、65歳定年企業の4割が60歳で処遇を見直しており、平均で年収が28%ダウンしています。
それでも、収入面では転職するよりも継続勤務が有利です。しかも、継続勤務は60代前半であれば希望者は全員雇用されるので、新たに職を得るための面倒な活動や苦労もありません。長年勤めた会社なので、社外からでは見えづらい企業風土などもよく知っています。「ずっと正社員だった」60代の多くが、「生計維持」の解決策として継続勤務を選んでも何の不思議もありません。
※本稿は、『定年前後のキャリア戦略-データで読み解く60代社員のリアル』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
