ホンダSシリーズの生き証人(後編) トヨタに勝て!の指令 そして語られるRSCとヨシムラの関係性
本来の目的は『トヨタに勝て』
木村さんが当時所属していた総務からRSC(現HRC)への移籍を持ちかけられたのは、1965年の11月末から12月ぐらいだったという。1965年10月に準備を開始し、1966年2月に設立されたRSCについて、中村良夫さんのご自宅で話を伺うことになった。
【画像】『“元RSC”の木村さん、大いに語る!』と題された講演会開催! 全44枚
ちなみにRSCのマークは、N360のデザイナーである宮智英之助さんがデザインを担当したそうだ。

当初、『トヨタに勝て』と言われても相手は手強かった。 本田技研工業
「サーキットを作り、スポーツカーも作って、でもそれを対応するところがありませんでした。レーサーはSF(ホンダのサービス工場)にあふれ、鈴鹿や白子のSFには普通のお客さんが入れなくなっていたんです。そこでレーサーなどをメンテナンスするところを作ろうと。これが元々のスタートらしいです」
一時はレーシングスクールなども企画されたようだが、本来の目的である『トヨタに勝て』、『向こうはワークスだからお客さんに勝たせろ、勝てるようにしなさい』というスタート時の指示を目指し、木村さんも1966年1月から転籍。
当初、『トヨタに勝て』と言われても相手は手強く、そもそもこちらがどのくらいの力か分からなかった。
「S800のサスペンションだけ作り、エンジンは何もしないで走らせるところから始め、そこから少しずつ速くなるようにしていきました。最初は300kmレースなどで上位に入り、クラス1等を取ったりもしたんですが、鈴鹿1000キロかな、2台出したら2台と見事にベアリングが壊れて発電機が飛び出しちゃって、ラジエーターを壊したのを覚えていますね」
なお、「ベアリングが壊れて発電機が飛び出した」という部分を補足すると、クランクシャフトのベアリングが壊れて、コンロッドが折れ、それがシリンダーブロックを突き破って発電機をはたき落とし、一端はケーブルでつながっている発電機がエンジンルーム内で暴れてラジエーターに穴を開けることとなり、オーナー間では有名な話とのことだ。
同じような活動をしていたRSCとヨシムラ
当時RSCはホンダ車のチューニングやレース活動をしていたが、同じような活動内容の『ヨシムラ』との関係はどうだったのか。
「吉村(秀雄)さんは独特の考えで個性の強い方だから、サラリーマンとは合わないところがあったんでしょうね。ほんの一瞬ですけど(ホンダからの)部品が止まったんです。これは事実です。

ホンダ学園ホンダテクニカルカレッジ関東に集結したSシリーズたち。 内田俊一
特に車体のバネとかはまだ作れなかったので、それを何セットかテストで使ったふりをして外して廃却したんです。当然廃却部品だから誰が持って行ってもいい。そうして3セットくらい渡しました。そのうち、(供給を)止めた方が転勤になったので、また元通りに部品供給が始まりました」と、基本的には良好な関係だったことを明かす。
それはホームサーキットの違いもあったようだ。
「吉村さんはまだバンクのある時代の富士スピードウェイでやっていましたから、高速度重視だったんですね。しかも富士スピードウェイは上りが少ないんです。だからここで速くするためのチューニングを吉村さんはしていたんです」
一方RSCのホームは鈴鹿だ。
「まず壊れないことが大事。『限られた費用でみんなが楽しむ』という考え方が、まず吉村さんとは違う。鈴鹿は約6kmのうちだいたい4kmが上りなんです。ここをどう速くするかが一番ポイント。特に、遅いスピードのところからの立ち上がりの加速を速くしないと競争に勝てないので、そこを目指してずっとやっていた。これが吉村さんとの違いです」
マグネシウムホイールはレース用
もうひとつ、RSCといえばマグネシウムホイールも有名だ。
「これは、埼玉にあった鋳造会社で作りました。ここの若社長はもともと自動車の技術者で、アルミの鋳造品でトラックの部品を作っていた。その方がS600に乗っていて、自分のクルマ用にホイールをマグネシウムで作っちゃったんです。それをホンダで使えないかなって持ってきたんですよ」

RSCといえばマグネシウムホイールも有名だ(写真はレプリカ)。 HTCC
しかしホンダは、マグホイールの量産は難しいと断ったらしい。
「でも『レースならば大丈夫か』と私のところに連絡がきて、4個もらうことになりました」
当時、量産のスチールホイールは、サーキットで走るとクラックが入ってしまったので、強化ホイールをメーカーに作ってもらったが、うまくいかなかったという。
「ちょうどこのマグが届いたので、500kmをサーキットで走ってクラックチェックしたら大丈夫だった。それで使うようになったんです」
ただしRSCは、街を走る人に部品は販売できない。
「ですから、欲しい人にはレース用として買っていただきました。レースでRSCのマグホイールをつけた方が当時何人かいましたね。意外と壊れなかったですよ」
そのほかにも様々な興味深い話が飛び出し、予定の90分はあっという間に過ぎていった。
ブラバムBT16A/ホンダのエンジンを始動
そしてこの日のもうひとつのイベントは、会場となったホンダ学園で学生たちを中心に修復された『ブラバムBT16A/ホンダ』のエンジン始動。そう、搭載されているのは、RSCでフルチューンされたS800のエンジンだ。
その音に酔いしれながら講演会は終演となった。

ホンダ学園で学生たちを中心に修復された『ブラバムBT16A/ホンダ』。 内田千鶴子
