電動自転車なので上り坂も安心。鉄橋を渡る渓谷コースはスリル満点!大人限定で熊が出た日は休止になる。ファミリーはまちなかコースがおすすめ。スタート地点が違うので注意

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どこに行っても山また山。北アルプスにぐるり囲まれた、人口約2万の小さな飛騨市。縄文人が暮らし飛騨の匠を生んだ豊かな森は今、宇宙物理学や石棒の聖地となった。けれど人の暮らしは今も変わらない。飾らず、気負わず、自然体。飛騨は遠い。それでも行くのだ。

【白石あづさのワンダートリップ】日本全国の不思議な町を訪れる不定期連載の第一回は、岐阜県飛騨市へ。神岡のガッタンゴーや科学館、縄文人の愛した宮川、「飛騨の匠」の技術が光る古川を巡ります。

鉱山で栄えた昭和レトロな町「神岡町」

山の名水と謎が沸く神岡で、地下の秘密から山の上の秘境までめぐります

なんだか地底人の気分だ。どこまでも続く暗闇の中をガーッという轟音とともに一気に抜けていく。その先に一筋の白い光が見えるや、ブワッと輝く緑が目に飛び込んできた。一緒に長いトンネルを超えてきた蝙蝠たちはふわりと身を翻して山に消えた。

日本海と太平洋、富山と名古屋を結ぶ高山本線の間にある山深い岐阜県飛騨市。「平成の大合併」で2町2村がくっついて誕生したが、有名な一大観光地「飛騨高山」(高山市)の隣にあるのに知る人は少ない。しかし近年、飛騨市東部の神岡町で、線路の上を走る日本初の不思議な連結自転車『ガッタンゴー』が口コミで広まり予約が殺到。今では全国から何万人もの観光客がやってくる。

電動自転車なので上り坂も安心。鉄橋を渡る渓谷コースはスリル満点!大人限定で熊が出た日は休止になる。ファミリーはまちなかコースがおすすめ。スタート地点が違うので注意

川を渡り谷を越え、鳥や虫の声を背に登って下って、また暗いトンネルの中へ。まるで人の人生のような1時間を終えた私は、なぜこのユニークな乗り物が奥飛騨から誕生したのか知りたくてスタッフのひとりに声をかけた。たまたま振り向いたやさし気なおじさんは、日本で5軒しかないというレアな苗字を持つ創設メンバーの四十竹(あいたけ)さんであった。

「2004年に神岡鉄道が廃線になった時、なんとか線路を残して活用したいと。地元有志であちこち視察に回ってね。たまたま仲間のひとりがフィリピンに行ったら、地元の人が旧日本軍の敷いた線路を使ってトロッコのようなもので遊んでて。それをヒントに神岡の鉄工所と試作を繰り返して完成したのがこのガッタンゴー。台数も増えて、今ではガッタンゴーを県外の廃線へお嫁に出しているんだよ」

ゆる怖なキャラ「ガタぐま」を神岡小の子が考案するほどガッタンゴーは地元っ子の自慢らしい。

「ガタぐま」

『レールマウンテンバイクガッタンゴー(渓谷コース)』

『レールマウンテンバイクガッタンゴー(渓谷コース)』

[名称]『レールマウンテンバイクガッタンゴー(渓谷コース)』

[住所]岐阜県飛騨市神岡町西漆山142

[電話]0578-82-6677

[営業]3月〜11月末営業(冬季休業あり)

[休日]水、熊出没日

[料金]2〜3人用車両1台6000円〜※ネットで要予約(※まちなかコースは神岡町東雲1327-2)

[ガッタンゴーHP]https://rail-mtb.com/

深さ1000mの山の地下で宇宙誕生の歴史が明らかに?

そしてもうひとつの神岡の誇りといえば、そう、あのニュートリノ研究で有名な「スーパーカミオカンデ」だ。神岡は初代「カミオカンデ」時代も含めノーベル賞を2度も出した宇宙物理学研究の聖地である。だが見学どころか近づくこともできない。なぜなら山の地下1000mにあるからだ。

代わりに町の科学館『カミオカラボ』を訪ねると、原子記号すら記憶のブラックホールに消えた私に、年若い学芸員の山田さんが苦心して解説してくれたので、大雑把だがここに記そう。

山田さんによると、今この瞬間も驚異的に小さい素粒子ニュートリノが宇宙から狂ったように地球に降り注いでいるのだが、電気を持たないため岩盤も私の体も通り抜けていくという。だがまれに水の分子に衝突すると小さな光を放つ。その光を巨大な水槽で捉え研究することで、まわりまわって宇宙や人を含む物質の起源を探ることができるらしい。

『ひだ宇宙科学館 カミオカラボ』スーパーカミオカンデの内水槽に取り付けられた光電子増倍管が再現されている

「ただこの研究が未来の何に役立つのか今は分かりません」。

そう山田さんが澄んだ瞳で語るので、「ニュートリノはお金になるのか」という黒い質問は引っ込めた。それより「人はどこから来たのか」という哲学的にも思える、全人類にとって大切な研究が神岡の地下で黙々と続けられていたことに、妙に心を打たれたのだ。

『ひだ宇宙科学館 カミオカラボ』学芸員 山田寛人さん

学芸員:山田寛人さん「研究者によるミニ講座も時々、開催しています〜」

『ひだ宇宙科学館カミオカラボ』

『ひだ宇宙科学館 カミオカラボ』

[施設名]『ひだ宇宙科学館 カミオカラボ』

[住所]岐阜県飛騨市神岡町夕陽ヶ丘6道の駅スカイドーム神岡内

[電話]0578-86-9222

[営業時間]9時〜17時(入館は16時半まで)

[休日]水

[料金]無料(年2回、スーパーカミオカンデ見学会のチャンスも)

家の中に石垣がある不思議

これら宇宙物理学の施設は、かつて東洋一と呼ばれた神岡鉱山の跡地を利用して建てられている。さっそくラボを出て町を歩こう。地元の生き字引のような街歩きガイド、吉村さんと合流し、鉱山について聞く。その歴史は古く、東大寺の大仏や卑弥呼の鏡まで神岡の鉛が使われているという説もあるのだとか。そして明治以降、大規模な鉱山開発が始まると、全国から仕事を求めて人々が殺到したそうだ。

神岡城から見た密な町並み。山に囲まれ雲が近い。どこか懐かしい共同水屋や急坂の路地、川の上にまで建つ家など神岡ならではの他にはない町歩きを楽しめる

そのため急斜面や川の上にまで家々がみっちり建てられ、まるで“陸の軍艦島”のよう。何しろ最盛期、鉱員さんのお給料は今のお金で月100万円超えと超バブル。料亭や遊郭が建ち並び、エリート技師たちの花嫁候補として若い娘は学校に通い教養を身につけた。だから今も茶道・華道は盛んらしい。

今はもう鉱山が縮小し遊郭は消えすっかり静かになった神岡だけど、昔ながらの建物はそのまま残っている。江戸から続く『大坪酒造』さんもその一軒だ。中を覗くと……店の奥になぜか石垣が!?

『大坪酒造店』天保13年創業。甘口の「飛騨娘」と辛口の「神代」が同店の2本柱。ネット販売も。段丘に建てられているので家の中に立派な石垣が

驚く私に吉村さんは、「ここは1階から4階に相当する急斜面に建っており、この地区には室内に石垣がある家も多いのです」と教えてくれた。

謎の構造は建物に入ってみなければ分からない。

店のおかみさんの秀子さんが、せっかくならと店の奥の高台に大正元年に建てられた重要文化財の別邸に招いてくれた。石段を上がると、優雅な日本庭園と数寄屋造りの建物が現れて平安絵巻に登場しそうな美しい御簾が巻かれている。

『大坪酒造店』祖父の建てた別邸は今も現役で、近所の人との会合に使われる

実は秀子さんの祖父は元お公家さん。公家制度が揺らいだ明治時代、京都・伏見から“婿入り道具” のお雛様とともに飛騨の酒造へやって来たという。当時、移住者でごった返し様々な文化が混じるシルクロードのような町ではあったとはいえ、おっとり系?公家男子が山深い新天地で酒造りの仕事を覚えるのはさぞ大変だっただろう。けれど、もてなしの場がなかった神岡に迎賓館(別邸)を建て、地域の人の足となるバス会社を立ち上げたうえ、議員にも立候補して町の発展に力を尽くしたのだとか。

山奥の古い慣習の窮屈な町だと思いきや、チャレンジをよしとし、出る杭を大切にする気風に私は驚いた。だからこそ、町の人は未知の世界を拓くカミオカンデの存在を誇りに思い、神岡の名を施設につけてくれた亡き物理学者の小柴昌俊先生を今も尊敬し、忘れないでいる。

お礼を言って店を出ると、夕暮れの町に街燈が灯っていた。山の名水が流れる街角の共同水屋からは、野菜を洗うお母さんたちの笑い声が聞こえてくる。今晩の献立について話しているのだろうか。

名水とともに謎も次々と湧き出す町、神岡。最後にご紹介するのは神岡の人もめったに訪れない秘境、地図にない村とも呼ばれる山之村である。いくつかの集落の総称らしいが確かに地図にない。日光のいろは坂ばりのグネグネ山道を上がっていくと唐突に深い森から吐き出され、美しい山里が見えた。

標高約千メートル。山に白い霧が立ち込め、「飛騨のマチュピチュ」と勝手に名付けたくなる幻想的な雰囲気だ。果樹園や畑のなかに古民家が点在し、マタギは今も健在。最近、地域おこし協力隊員の九州男児も熊撃ちに憧れ、はるばるやってきた。

もうすぐ冬がやって来る。豪雪地帯として知られ、マイナス20度にもなる厳しい冬の楽しみは、寒風に大根をさらす保存食「寒干し大根」づくり。日本昔話のような暮らしがここに残っている。

『大坪酒造店』

『大坪酒造店』

[名称]『大坪酒造店』

[住所]岐阜県飛騨市神岡町朝浦557

[電話]0578-82-0008

[営業時間]9時〜17時

[休日]土日

・酒造見学は要予約

写真・文/白石あづさ…大学卒業後、地域紙の記者を経て3年間の世界一周後フリーに。著書に『逃げ続けていたら世界一周していました』(岩波書店)、『中央アジア紀行』(辰巳出版)、『佐々井秀嶺、インドに笑う』(文藝春秋)ほか

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

※画像ギャラリーでは、神岡町の画像をご覧いただけます

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『おとなの週末』2025年12月号

【画像】昭和レトロな“陸の軍艦島”とも呼ばれる飛騨市の神岡町(22枚)