父さんを、扶養に入れてくれないか…年収600万円の35歳男性、尊敬する厳格な父から電話で告げられた「まさかのお願い」に絶句【CFPの助言】
定年退職後、「社会保険の切り替え」に戸惑う人は少なくありません。特に健康保険は、選択を誤ると思わぬ負担増につながることも……。定年を迎えた65歳男性と35歳息子の事例をもとに、「定年後の盲点」をみていきましょう。
定年後に「月1万5,000円」の負担増…焦った父が息子にした「お願い」
タケシさん(仮名・65歳)は先日、長年勤めた会社を定年退職しました。現在は妻と2人暮らしで、年金額はタケシさんが月約14万円、妻が月約5万円。夫婦合わせて月19万円ほどの収入です。
これまでに貯めてきた貯金と退職金を合わせると約1,500万円あり、生活そのものがすぐに困る状況ではありません。
そんなタケシさんには、ひとり息子のカズマさん(仮名・35歳)がいます。結婚して家庭を持っており、年収は約600万円です。カズマさんは、父が定年を迎える前から「年金暮らしの足しにしてくれ」と、毎月数万円の生活費を仕送りしていました。
「息子からの仕送りもあるし、貯蓄もある。当分は大丈夫だろう」
そう安心していたタケシさんですが、先日届いた「健康保険料」の請求書を見て、思わず目を疑います。これまで月2万5,000円ほどだった保険料が、4万円近くになっていたのです。
定年後は、「任意継続被保険者制度」を活用し、勤めていた会社の健康保険組合に任意継続として加入することにしていたタケシさん。
任意継続被保険者制度は、本来会社を退職すると、その時点で会社の健康保険から抜けることになりますが、退職後も最長2年間、同じ健康保険に「自分の意思で継続加入」できる仕組みです。
会社負担分が減ることから、保険料が増えるのは自然なことではあるものの、毎月の固定費が一気に増えると心理的な負担が重くのしかかってきます。
焦ったタケシさんは、健康保険料を減らす方法についてインターネットで検索。そこで目に留まったのが、「子どもの扶養に入る」という選択肢でした。
悩んだ末、タケシさんは思い切って、息子のカズマさんに電話をかけます。
扶養に入れてくれ…父からの思わぬ申し出に絶句した息子
「もしもし……突然ですまんが、頼みがある。父さんを、扶養に入れてくれないか」
突然の言葉に、息子は絶句。
タケシさんは、昔気質の厳格な性格で、子どものころから社会人のいまに至るまで、息子にこうした頼り方をしたことはありません。厳しくも優しく頼れる存在だった父を、カズマさんは心の底から尊敬していたのです。そんな父からのまさかのお願いに、驚きを隠せませんでした。
「は? 父さんを養えってこと?」
「いやいや、養ってもらいたいわけじゃないんだが……」
煮え切らない態度の父に、カズマさんはますます困惑します。
双方にメリットがある…父が打ち明けた「お願い」の理由
しばらく沈黙が続いたあと、タケシさんは言いました。
「落ち着いて聞いてくれ。これには理由がある」
定年後の健康保険料の負担増に驚いたこと。調べた結果、現在の年金収入などの条件から、制度上は息子の社会保険の扶養に入ることが可能であること。もし扶養に入ることができれば、自身の健康保険料がかからなくなること。タケシさんは、淡々と説明しました。
カズマさんは、父の言いたかったことを理解したようです。
「ああ、なるほど。健康保険料を抑えたいってことね」
タケシさんは続けます。
「それだけじゃない。場合によっては扶養控除が適用されて、お前の税負担も軽くなるかもしれない」
2人は冷静に話し合った結果、カズマさんは父の提案を受け入れ、さっそく健康保険の切り替えを進めていくことにしました。
扶養に入れば保険料がゼロに?定年後の「保険選び」のポイント
定年退職後に必要となる主な手続きのひとつに、「健康保険の切り替え」があります。会社員として働いているあいだは意識する機会が少ないものの、退職後は自分で健康保険を選択しなければなりません。
定年退職後に選択できる健康保険は、主に次の3つです。
[図表]退職後に加入できる健康保険の種類出典:全国健康保険協会(協会けんぽ)「退職後の健康保険について」をもとに筆者作成
このなかで、条件を満たせば大きなメリットがあるのが、タケシさんが提案した「親族の健康保険に扶養として入る」という方法です。社会保険上の扶養に入ることができれば、原則として健康保険料の負担は発生しません。
扶養に入るための「3つの条件」
ただし、社会保険の扶養に入るには、次の条件を満たす必要があります。
・生計を一にしていること
・被扶養者の収入が一定額以下であること
・被扶養者の年齢が75歳未満であること
なかでも重要なのが収入要件です。被扶養者の年収が130万円未満(60歳以上の場合は180万円未満)であり、かつ被保険者の年収の2分の1未満である必要があります。
これらの条件を満たし、社会保険上の扶養に入ることができれば、健康保険料を抑えられるだけでなく、被保険者側に扶養控除が適用され、所得税や住民税の負担が軽減される可能性もあります。
定年後の社会保険負担を賢く抑えるために
その後、手続きを進めた結果、タケシさんは無事に息子の社会保険の扶養に入ることができました。これにより、タケシさんの健康保険料負担はなくなり、老後の家計は大きく安定。心理的負担も減り、タケシさんは安心して老後生活を送っています。
定年退職後の健康保険は、選び方ひとつで家計への影響が大きく変わります。任意継続や国民健康保険だけでなく、条件が合えば親族の扶養に入るという選択肢も含め、冷静に比較することが大切です。
「知らなかった」だけで、不要な負担を抱えてしまうケースは少なくありません。定年を迎えるタイミングで、健康保険や税制といった制度を一度整理し、自身の状況に合った選択をしましょう。
辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP
