退職代行「モームリ」社長ら逮捕 なぜ「弁護士紹介」が違法に?弁護士法72条のポイント解説
退職代行サービス「モームリ」を運営するアルバトロスの社長、谷本慎二容疑者と、従業員で妻の志織容疑者が2月3日、弁護士法違反の疑いで警視庁に逮捕されました。
産経新聞によると、谷本容疑者は弁護士資格がないにもかかわらず、顧客から依頼された勤務先との退職の交渉などを提携先の弁護士に斡旋(あっせん)し、紹介料を得た疑いが持たれています。
モームリをめぐっては、警視庁が昨年10月、アルバトロス本社や都内の法律事務所を家宅捜索し、残業代請求などの交渉を弁護士に斡旋していた疑いがあるなどとして、捜査が進められていました。
なぜ退職代行業者が弁護士を紹介することが違法になるのでしょうか。弁護士法の内容と、今回のケースで何が問題となっているのかを解説します。
●弁護士でない人には禁止されていることがある
簡単に言えば、弁護士法72条(※)は「弁護士でない人が、お金をもらって法律の相談に乗ったり、弁護士を紹介したりしてはいけない」という内容を定めています。
この条文は、禁止される行為を2つに分けています。
1つ目は、「法律事務を取り扱う」ことです。これは、業者自身が依頼者から報酬をもらって、法律の問題を直接処理することを指します。たとえば、退職代行業者が依頼者からお金をもらって、勤務先との交渉を自分でおこなうような場合です。
2つ目は、「法律事務の周旋をする」ことです。「周旋」とは、法律事務の依頼者と弁護士を結びつける行為を指します。つまり、依頼者を弁護士に紹介する行為です。
周旋について、誰が報酬を支払うのかは限定されていません。つまり、依頼者から報酬をもらう場合でも、弁護士から紹介料(キックバック)をもらう場合でも、いずれも「報酬を得る目的で」という要件を満たします。
●解決どころか、かえって事態を悪化させるリスクがある
なぜこのような規制があるのでしょうか。
まず、法律の知識がない人が法律問題に関わると、解決どころか、かえって事態を悪化させたり、本来得られたはずの利益を失わせたりするリスクがあります。
次に、非弁業者が依頼者から報酬をもらって弁護士を紹介する場合、依頼者は余分な費用を負担することになります。本来、依頼者が直接弁護士に依頼すれば済むところを、非弁業者を通すことで中間マージンが発生し、依頼者の負担が増えることになります。
また、弁護士から非弁業者へのキックバックが発生すると、弁護士が本来守るべき依頼者の利益よりも、業者に支払うキックバックの原資や、業者との関係維持を優先してしまう可能性があります。
●モームリの問題点は?
では、モームリのケースでは、どの部分が問題となっているのでしょうか。
報道によると、モームリの社長は「顧客から依頼された勤務先との交渉などの法律事務を提携先の弁護士に斡旋し、紹介料を得た」とされています。
この場合、問題となっているのは「法律事務の周旋」と考えられます。つまり、モームリ自身が法律事務を直接おこなったことを問題としているのではなく、依頼者を弁護士に紹介する行為を問題としています。
なお、「紹介料を得た」とされていますが、この紹介料が誰から支払われたのかは、報道からだけでははっきりしません。
ただ、先に説明したように、依頼者から報酬をもらった場合も、弁護士から紹介料(キックバック)をもらった場合も、弁護士法72条違反になります。
報道では、昨年10月の家宅捜索時に「残業代請求などを巡って勤務先との間で生じる交渉を弁護士に斡旋していた疑いがある」とされています。このことから、モームリは退職代行サービスを提供する過程で、依頼者の法律問題(残業代請求など)を弁護士に斡旋していたと推測されます。
●法律に違反した場合の刑事罰は?
この法律に違反した場合、業者側は「2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」という刑事罰が科される可能性があります(弁護士法77条3号)。
また、提携していた弁護士も、非弁業者から事件を紹介してもらう「非弁提携」として、同様の刑事罰が科される可能性があります(同法77条1号)。
「紹介料」や「キックバック」は、一見するとビジネス上の慣習に見えるかもしれません。しかし、法律の世界では、依頼者の利益を害する行為として、罰則の対象となるのです。
(※)弁護士法72条:
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)
