地元再訪の“過去への旅”でとんでもない事態に… 引きこもり兄の真相、出自の秘密、「離婚する?」と妻から言われて
【前後編の後編/前編を読む】50歳を迎えて突然思い出した光景「小学生のとき、こっそり帰ると母が裸で…」 封印した記憶は人生をどう変えたのか 56歳男性の告白
萩本晃平さん(56歳・仮名・以下同)は、50歳のときに「人生がつながっている」という感覚を覚えた。それまで「点」としてあった過去の出来事が、当時の自分の感情とともによみがえったのだという。小学生時代に目撃した母と叔父の不倫現場の光景も、感情の再来とともに復活した記憶のひとつだ。家庭を顧みない父、優等生だが晃平さんには意地悪だった兄、その兄ばかりひいきしていた母……。兄はのちに家に引きこもるようになり、晃平さんが20歳のときに家庭は崩壊。ひとり東京の大学へ進学した晃平さんは、旅行会社に就職し、実家とは距離を置いて生活をしていた。
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「恋愛って何なのか、いまだによくわかりませんが、若い頃はそれなりに女性とつきあったんですよ。でもせいぜい半年かなあ。仕事が忙しいというのを言い訳にしているうちにフラれるのがパターン。実際ふっと気づいたら僕はいつもひとりでした」

寂しいと思ったことはなかったが、実際は孤独感に苛まれていたのかもしれないと彼は振り返る。そうやって振り返って自分に問うなど、以前はしたことがなかったという。
「家庭の崩壊が意外と気持ちよかったから、家庭を持つ気はありませんでした。僕には無理だと思っていた。でもそう思う一方で、慕っている職場の先輩から妹さんを紹介されて、あっけなく結婚しちゃったんですよ。流れに身を任せてみようと思って」
35歳のときだった。2歳下の彩菜さんは、明るくて正直な女性だった。以前、先輩の新婚家庭に行ったこともあったのだが、やはり自然で風通しのいい明るさがあった。おそらく先輩と彩菜さんが育った家庭がそういう雰囲気だったのだろう。
「生まれて初めて、家庭っていいものなのかもしれないと思いました。それで彩菜と結婚、2年後には息子が産まれて。僕は相変わらず仕事でいないことが多かったし、父親としてどう接したらいいかわからなかったけど、彩菜は根気よく僕に子育てを教えてくれた。言葉ではなく、態度と笑顔で。素敵な女性を妻にできてよかった。本当にそう思いました」
「きちんと自分の人生を修正したい」
彩菜さんは出産を機に家庭に入り、息子が10歳になったころからパートとして働き始めた。家庭は彼女に任せておけば万事、うまくいく。
息子も明るい子に育った。晃平さんが出張から帰ったおりなどは、「おとうさん」とまとわりついてくる。「おとうさん、お仕事の話聞かせて」が定番だった。晃平さんは旅先であったことなどをおもしろおかしく話した。
「そうやっているうちに仕事のストレスも飛んでいく。人生に大きな目標などもっていませんでしたが、息子が年を重ねていくのをずっと見ていたいと思うようになりました」
息子が中学生になった年に晃平さんは50歳を迎え、前述したように自分の人生を一本の線として見られるようになった。10歳のときの自分も20歳の自分も、自分の中から取りだして客観的に眺めることができるようになり、これからはもっと人生を心豊かに過ごしていけるかもしれないと感じていた。
「一方で母親の浮気など、封印してきた事実も浮かんできた。今までの僕なら見て見ぬ振りをするとかやり過ごすとかができたと思うんですが、もうそれはできないと感じていました。ここでもう一度、きちんと自分の人生を修正したいような気持ちになったのかもしれません」
彩菜さんにおおまかなことを伝え、彼は仕事の合間に過去への旅に出た。生まれ育った土地へ行き、実家のあった場所を訪ねてみたが、見知らぬ光景が広がっていた。周辺の土地と合わせておおきなマンションができていたのだ。
家族との再会
別の日には、父に連絡をとって会ってみた。小さなアパートでひとり暮らしている父に数年ぶりに会ったのだが、彼と兄とを取り違えているのか、話がすれ違ってばかりだった。
「母は認知症がひどくなり、施設に入っていました。母とも何年ぶりだったか……。僕のことは覚えていなかった。でもそれでいいんです。母の人生も大変だったんじゃないかと思いました。それを人生最後に思い出さなくてすむなら、それでいいのかもしれません」
兄もまた、グループホームにいた。とうとう人生を軌道修正できなかったらしい。ホームに連絡をとると、兄が会いたがっているという。会ったところでどうしようもないと思いながらも、ホームを訪ねた。
「そこで知らされたのは、兄が母と叔父の子だったということです。それを知ったのが就職2年目で、だから兄はショックを受けてひきこもってしまった。『おまえもそうかもしれないぞ。調べてみたほうがいい』と兄は皮肉な表情で言ったけど、『別に僕は父親の子だろうと叔父さんの子だろうと、どっちでもいいよ』と言いました。本当にそう思ってた」
自分の過去を巡る旅はさんざんだったが、それでも一応、過去に決別できたとして、彼は前を向こうとした。
「ただ、なんだか釈然としないんですよね。過去50年は無駄だったのか、いや、人生に無駄はない、いや、人生は無駄だらけだと、いろんな感情がわいてきて。自分の存在証明をしたいと思い始めてしまった」
荒んだ心で同窓会に参加したら
過去を受け入れられなかったのだが、素直に受け入れられないと認められない。自縄自縛の感情が彼を苦しめた。そこまで感情が揺れたのは初めてだった。悶々としながら日々を送った。50歳を過ぎて現場に出ることはなくなり、仕事でのやりがいも半減していた。
「ひどく心が荒んでいたとき、小学校から高校まで一緒だった幼なじみの美弥ちゃんから、連絡がありました。僕が実家や幼なじみを訪ねて歩いていたことを知っていた。SNSのメッセージで、『私も会いたかった』と言ってくれた」
すぐ返事を出して美弥さんに会う計画を立てた。幼なじみとの再会は楽しく、あっという間に時間が過ぎていった。
「そのとき言われたんですよ。『高校時代にあなたとつきあっていた香織のこと、覚えてる?』って。そういえば短期間だけどつきあっていたなと思っていたら、『香織に口止めされていたから言えなかったけど、あのとき香織、妊娠したんだよ』と。無責任なつきあい方をしていたことを思い出しました」
香織さんは密かに中絶したのだという。それを知っているのは美弥さんと美弥さんの兄だけだった。美弥さんの兄はこっそり同意書にサインした。香織さんを救うために。香織さんはその後、大学に進学して留学、今では起業して成功しているのだという。
「香織に会うかと聞かれたけど、僕は答えられなかった。自分は何も知らなかった。知ろうとしなかった。香織とは自然消滅したけど、確かにあのころの香織は変だった。どうしたのと聞くべきだったのに。薄々気づいていたのに」
美弥さんの慰め
自分の浅さを知り、彼は居酒屋のテーブル席にいる美弥さんの目の前で落涙した。1度流れ出した涙は止まらない。美弥さんは気を遣ってそそくさと店を出ると、彼を建物裏の人気のないところへ連れていってくれた。
「いい年したおっさんが泣くんじゃないのと怒られました。でも僕は美弥ちゃんに抱きついて泣いてしまった。彼女はそのまま僕をホテルへと連れて行ってくれました。もちろん、何もしていません。気の済むまで泣かせてもらった」
ただ、それをきっかけに晃平さんは美弥さんと会うようになった。自分の卑怯さを知っている美弥さんに対してだけは、彼は素でいることができたのだろう。
「オレの人生、全部嘘だったんだと思った。点が線になったからこそ、人生すべてが真っ黒だと感じていた。でも美弥は『もともと人生は線だと思えばいい。そこにきらめくような点もあれば、真っ黒な点もある。どれかひとつ取り出して、自分の人生を代表させないほうがいい。人間、いろいろ失敗するよ』と慰めてくれました。気が晴れたわけではないけど、何があってもたいしたことじゃないとかっこつけて当事者にならなかった自分への嫌悪感が、少しだけ薄れた。香織に謝ると言ったら、むしろ会わないほうがいいと言ったのも美弥ちゃんでした。香織は今を生きているのだからって」
一気に過去に引きずり戻されたまま、今を生きられなくなっていたと晃平さんは気づいた。彼が迷い、揺れている間にも息子は日々成長し、高校を卒業して大学へと進学していった。
会社を辞めると告げたら…妻からのまさかの言葉
「そのあと、会社が早期退職者を募ったんです。会社を辞めてみようと思いました。美弥ちゃんにも相談して。実はそのころには美弥ちゃんとは男女の関係になっていました。人肌でしか埋められないものを抱えているような気がして、彼女が同情してくれたのがきっかけ。彼女も結婚しているから1度だけという約束だったんですが、やけに相性がよくて離れられなくなっていたんです」
55歳直前で会社を辞めた。妻の彩菜さんには相談はせず、報告しただけだ。あまり動じないタイプの彩菜さんだが、会社を辞めることにしたと言った彼に、「離婚する?」と言った。
「思わず、え、どういうことと言ったら、『だって美弥さんとつきあっているのよね』って。動揺しました。ただの幼なじみだよとしらばっくれようとしたら、『美弥さんから連絡をもらったの。こっそりつきあうのは嫌なので』って。あの人も結婚しているのにリスクを怖がらないタイプなのかなと、彩菜はほとんど笑いながら言っていました」
本当は妻に怒ってほしかったと晃平さんは言う。妻が夫を寝取られて笑っているのは愛がないと思ったそうだ。だがむしろ、愛があるから夫の自由を尊重したのかもしれない。浮気相手の美弥さんに悪意をもっていない意思表示かもしれない。善し悪しはともかく、彩菜さんも美弥さんも、自分の人生をまっすぐに生きている。
「彩菜の本意はわかりません。やっぱり僕は彩菜とも深い関係は作れていなかった」
自分がどうしたら残りの人生を「まっとうに」生きていけるのか。晃平さんは考え続けた。その結果、今、彼は美弥さんの親戚が住職を務める寺に住み込んでいる。自宅に戻るのは月に数回だ。
「美弥とは人間関係は続いていますが、男女の関係はなくなりました。人生に情熱をもてなかった僕が、唯一、情熱を傾けた相手だったのかもしれない」
割り増しになった退職金はすべて妻に渡した。彼はほんの少しの食費を払って、寺での生活を続けている。
「煩悩を断ちきることはできたけど、仏の道に帰依できるかどうかはわかりません。俗物ですから」
大学生の息子は、ときどき彼に連絡をしてくる。息子は詳細を知らないが、あるとき晃平さんに「子どもだった僕を対等に見てくれるいい父親だったと思ってる」と言ってくれた。涙もろくなった晃平さんは、そのときも号泣し、息子に笑われた。いい子に育ったのは彩菜さんのおかげではあるが、美弥さんには「いい遺伝子残したわよ。それだけであなたが生まれてきた甲斐があったんじゃないの?」とあっさり言われたそうだ。そこから彼の気持ちが少し変わった。息子の将来を見るために、自分の未来も見たくなった。美弥さんの炯眼恐るべしである。
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50歳にして自分の人生と向き合うことができた晃平さん。その結果、起きたことを考えると、それが良かったのか悪かったのかはわからない……。晃平さんが封印していた母の不倫の記憶は【記事前編】で紹介している。
亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部
