雪山のバックカントリー遭難、自己責任?スキー場の責任?弁護士が「救助費用」と賠償のルール解説
雪山で、整備されたコース以外に立ち入って遭難するケースが相次いでいます。
コース以外の自然の雪山をスキーやスノーボードで滑る行為は「バックカントリー」と呼ばれ、一部に熱心な愛好家がいます。近年増えている外国人観光客にも愛好家が見られます。
一方で、バックカントリー中に遭難して救助を求めるケースも相次いでおり、SNS上では、救助費用について「有料化にすべき」といった声のほか、「自業自得だ」など救助に否定的な意見もみられます。
登山家の野口健さんも、X(旧Twitter)上で「遭難者に対し『知らんがな』が人道上許されないのであればせめて救助費用を有料化すべき」とツイートしています。
遭難者は費用を負担しなくてよいのでしょうか。また、無謀な滑走で事故に遭った場合でも、遭難者や遺族はスキー場などに対して損害賠償を請求できるのでしょうか。簡単に解説します。
●救助費用は請求されないのが原則だが…
原則として、救助費用は請求されません。
理由は、山岳救助は基本的に警察や消防が担っているからです。
これらの救助は、警察官職務執行法や消防法に基づく活動です。救助は公法上の義務とされており、特に規定がない限り、遭難者が費用を負担することはありません。外国人であっても例外ではありません。
●費用を求められる場合もある
ただし、条例などで費用負担の規定が設けられている場合には、費用を負担しなければならないことがあります。
このような動きは各地で見られます。たとえば長野県野沢温泉村では「野沢温泉村スキー場安全条例」が制定されています。
この条例では、スキー場区域外で事故が発生した場合、救助された人は、捜索救助費用を指定管理者(※地方自治体が施設の管理について指定した民間の団体)に弁償しなければならないと定められています(11条)。実際に弁償を求められた例もありますが、金額は公表されていないようです。
具体的な救助費用は、動員された人員や日数、使用機材などによって大きく変動すると考えられますが、10万円程度から、場合によっては100万円以上になることもありえます。
また、埼玉県では「埼玉県防災航空隊の緊急運行業務に関する条例」が制定されています。「航空隊」ですから、主にヘリコプター出動を想定したものと思われますが、同条例10条では、手数料の納付が規定されています。
2024年4月1日から、救助活動の費用は5分ごとに5000円から8000円へと改定されました。過去の平均救助時間は1時間程度とされているため、約10万円程度の費用がかかる可能性があります。
なお、民間の山岳救助組織もあります。行政による捜索が難航した場合などに要請されるケースです。民間の組織は、地域の地理や気象に精通していることが多く、行政と情報共有しつつ捜索にあたることもあります。
この場合は当然ながら費用がかかります。ただし、本人や家族の依頼なしに勝手に動くわけではありません。
●遭難者がスキー場に損害賠償を請求するケースもある
ここまでは遭難者が費用を負担するかどうかの話ですが、逆に遭難者側からスキー場や救助活動にあたった団体などの管理責任を追及する事例もあります。
ただし、無謀な行為による事故の場合、遺族の損害賠償請求を否定した裁判例もあります。
長野地裁の判決(平成13年2月1日)では、スキー場のコース外にある滑走禁止区域を滑走していたスキーヤーが雪崩に巻き込まれて死亡した事故について、スキー場の経営・管理者の損害賠償責任が認められませんでした。
判決は、スキーヤーは「スキー場にある掲示、表示ないし標識を厳守し、これに従った行動をとること」が基本的な責務であるとしました。立入禁止標識を無視して滑走禁止区域に進入した場合、その危険はスキーヤー自身が負担すべきものとされました。
また、仮に損害賠償請求が認められたとしても、損害賠償額が大きく減らされる可能性があります。これは「過失相殺」という考え方によるものです。
スキーではなく冬山登山の事例ですが、札幌高裁の判決(平成27年3月26日)では、積丹岳で遭難した男性の遺族が、救助活動の不適切さを理由に北海道に損害賠償を求めたものの、損害額の7割が控除されました。男性は天候が悪化する可能性を認識していたのに、単独で山頂まで登山を続けたことなどが過失とされました。
さらに札幌地裁の判決(平成24年11月19日)でも、救助後搬送中に過失があったとされるケースで損害額の8割が控除されています。
以上のように、無謀な滑走で事故に遭った場合、本人や遺族が損害賠償を請求しても、認められなかったり、大きく減額されたりする可能性があります。
(参考文献) ・各裁判例のほか、「債権各論供廖癖震醉鞠掘親本評論社、2019年12月)
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)
