歌人・俵万智さんが『徹子の部屋』に登場。石垣島の生活を語る「短歌を詠みたいか、詠めるかが、心身のバロメーターに。東京、仙台、石垣島、宮崎…どこにいても詠めるというのも、短歌の魅力」
2026年1月19日の『徹子の部屋』に俵万智さんが登場。40歳の時にシングルマザーとして生んだ息子との石垣島での生活や、家族について語ります。今回は俵さんと若手歌人の岡本真帆さんが短歌の魅力について語り合った『婦人公論』2023年11月号の記事を再配信します。*****SNSに投稿した作品で注目を集め、若手歌人として活躍する岡本真帆さん。中学生の時に俵万智さんの短歌に出合い、衝撃を受けたと言います(構成=篠藤ゆり 撮影=大河内 禎)
【写真】「60代には60代にしか詠えない歌がある」と話す俵さん
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<前編よりつづく>
心身のバロメーターに
岡本 実は私、2018年から3年ほど、歌を作れなかったんです。才能がある方々の作品と自分の歌を比べてしまい、すくんでしまったというか。目が肥えてきたのに、技術が追いついていなかった。
そんな時、ご縁があって第一歌集を出せることになり、なんとか間に合うように歌を作ろうと決意して。作っては人に見てもらううちに、スランプを克服できました。
俵 私も30代の頃、あまり歌が作れない時期がありました。散文の執筆など、短歌以外の仕事で忙しくて。そういう時は焦らず、無理をしない。私は生きている限り、歌を作り続けると確信しているから。
岡本 22年の春に第一歌集が出てから、歌人としての仕事もいただくようになり、会社との両立に疲れてしまって。コロナ禍をきっかけにリモートワークが可能になったので、地元に帰ることにしました。
今は生活が規則正しくなり、会社の始業前、朝8時から10時までを短歌を作る時間にしています。そして、会社の仕事もなるべく定時で終わらせる。がんばりすぎると、短歌を詠む気持ちが濁ってしまう気がするので、心身ともに健やかでいるよう努めています。
俵 今、短歌を詠みたいか、詠めるかが、心身のバロメーターにもなりますよね。あまりに忙しすぎて心がすさんでくると、歌が生まれにくい。
岡本 ほんと、そうですね。
俵 どこにいても詠めるというのも、短歌の魅力。『サラダ記念日』を出した頃は東京で暮らしていましたが、息子が生まれ、土と緑のある幼稚園に通わせたいと思って、両親がいる仙台に引っ越しました。
そして東日本大震災の直後、春休みの間だけのつもりで石垣島に行ったら、小学生男子にとって天国のような環境だった。それで、そのまま住み着いたんです。
岡本 フットワークが軽い!
俵 息子が宮崎県の山奥の全寮制中高一貫校に入りたいというので、次は宮崎。息子が大学に入って手が離れたら、親が高齢になり日常の手助けが必要になってきたため、今は仙台です。短歌は日常生活の中での発見が作品に繋がるから、移動は悪くない。
岡本 確かに。私は東京にワンルームマンションを借りて二拠点生活をしていますが、それが自分には合っているようです。
俵 東京と地方、それぞれ良さがあるものね。東京の良さは、気軽に芝居を観たり、お洒落なレストランに行ったりできる点。そういう娯楽はつまみ食いが可能だけど、地方の良さは住むことでじわじわ感じるようになる。
岡本 東京は、建物がなくなると、「ここ、何があったっけ?」と前の景色を忘れがちです。でも地元の場合、山や川など変わらない景色がある。そこに記憶が積み重なっていくんだなと、1年経ってようやく思うようになりました。
物事の明るい面を探す
俵 短歌は、続ける面白さもあるよね。やはり20代には20代にしか見えない景色があるし、60代には60代にしか詠えない歌がある。『サラダ記念日』を読み返すと、「20代の私ってこんなだったんだ」と感じるし。作っておいてよかったなと思います。
岡本 いわば人生の軌跡みたいなものなんでしょうね。
俵 60代になると病気も身近になり、老いも感じます。でも、そのなかから「楽しいこと」「明るいこと」を見つけたい。物事を肯定的に見たいし、短歌はそのためのいい器だと思っています。
岡本 おこがましいですが、私が短歌を詠んでいくうえで意識していることと、俵さんの歌から感じることは近い気がします。私も物事のいい面を見出したいと思っているし、誰にでも伝わる平易な言葉で伝えたい。
俵 うれしい〜! 失恋の歌は味わい深いから、それはそれでいいんですよ。でもそれ以外は、人生の素敵なところを歌にしたいよね。こんなイヤな奴がいたとか、言葉にして残すと、後で読み返してまた腹が立っちゃうから。(笑)
岡本 そうですね。
俵 シングルマザーとして子育てをしている時は、特にそう思っていた。大変なことばっかりだけれど、大変さを補ってあまりある素晴らしい瞬間があるので、歌にするのはそっちだなと思って詠んでいました。
言葉の力を信じて
岡本 確か近々、次の歌集が出るんですよね。
俵 はい。タイトルは『アボカドの種』。昨年、NHKのテレビ番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』の密着取材を受けて(23年2月放送)。スタッフが四六時中、まるで千本ノックみたいに短歌について聞いてくるんです。
そうしたらゾーンに入ったみたいな感覚になって、めちゃくちゃたくさん歌が生まれた。こんなに集中して作ったのは、初めてかも。
岡本 すご〜い! 早く読みたいです!
俵 今度の歌集は、「上澄みの恋」という章をはじめ、恋の歌も多めになっています。(笑)
岡本 あっ、番組ではデート中も密着取材を受けてましたよね。
俵 そうなのよ。ボーイフレンドとディレクターがすっかり意気投合しちゃって、勝手に盛り上がってた。
岡本 取材をOKにした俵さんも彼もすごい!
俵 若い頃の恋愛は、性と愛というか、性的な魅力と人としての魅力の区別がつかず、ごっちゃになったりするでしょう。それが若さですし。
岡本 そして年齢によっては、結婚願望というややこしいものもまじってきますよね。
俵 そうそう。不動産の物件選びみたいに、経済力などの条件も気になって(笑)。でも60代になると性は沈殿するし、条件も関係なくなる。上澄みになるんだなぁと実感しています。
冷静にお互いを見ることができる分、人としての魅力がないと続かない。やっぱりハートだよねということに気づくまで、何十年もかかっちゃった。
岡本 あっ、「上澄み」って、要はすごく澄んでいて純粋、ということですね。
俵 そうなの、そうなの!
岡本 私も今、第二歌集の準備中です。地元で暮らしていく中で気づいたことが、徐々に溜まって歌になっていくんだなと実感しているので、四万十で生まれた歌も入れたいと思っています。
俵 そうして作った歌であっても、思いや意図が100%読者に伝わるわけではない。それでいいと思っています。作者の意図とは違うものを読者に見つけてもらえたら、その歌がすごく豊かになるから。とにかく読んでくれる人を信じることが大事です。
岡本 第一歌集を読んでくださった読者からのお葉書に、「友だちを励ます言葉を探そうと思って手に取りました。でも、結局自分の言葉で会いに行こうと思いました。だからありがとう」と書いてあって。それを読んで泣きそうになりました。
俵 素敵ね。短歌を始めるには、まず言葉を信じるところから。だって1000年以上も前に詠まれたものが、今の私たちに届いているんだもの。
自分の言葉が、もし目の前の人には届かなくても、未来の誰かに届くかもしれない。その言葉の力、しぶとさを教えてくれるのも短歌だと思います。
