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暴力団が暴れている──。大阪府警にこんな虚偽の通報を繰り返したとして、偽計業務妨害の罪に問われた40代女性に対し、大阪地裁は1月8日、懲役1年、執行猶予4年(求刑:懲役1年)の判決を言い渡した。

警察への虚偽通報は、不要な出動を強い、本来おこなうべき業務を妨害する点で悪質性が問われるが、今回のケースは、それにとどまらない。

実在する暴力団を名指しする内容だったことから、現場に臨場する警察官の安全を脅かしかねない危険性を伴っていた。裁判で明らかになった事件の経緯をレポートする。(裁判ライター・普通)

●のべ100人近くの警察官が動員された

身柄拘束された状態で入廷した被告人は、上下ジャージ姿で厚めの眼鏡をかけ、終始、抑揚の少ないトーンで質問に答えていた。

起訴状によると、被告人は2025年4月から約1カ月、計9回にわたって大阪府警のウェブサイト上の通報サービス(現在は利用中止)を通じて「(特定の暴力団)組員連中が凶器を持って暴れています」などの虚偽の通報を送信。これによって、実際にその事務所へ警察官を臨場させるなど、不要な業務をおこなわせたとされる。

被告人は、起訴事実を認めた。

検察官が取り調べ請求した証拠によると、事件当時、被告人は生活保護を受給しながら就労支援施設に通い、単身で生活していた。また、約20年前にも同種の虚偽通報をおこない、有罪判決を受けた前科がある。

捜査機関に対する供述では、虚偽通報の対象となった暴力団の組員とかつて同棲関係にあったことを明らかにした。交際解消による怒りから、その組員を「困らせてやろう」と考え、虚偽通報に及んだという。

9回の通報により、のべ95人もの警察官が動員された。通報に使用されたメールアドレスが、府警に対する別件の連絡と同一だったことなどから、被告人の関与が浮上した。

●度重なる金の無心やDV

弁護人からの被告人質問では、元交際相手からの金銭の無心や度重なるDVにより、精神的に不安定な状態にあったことが語られた。被告人は、医師から処方された安定剤を服用すると、他人への迷惑を考えられなくなり、過去の前科についての記憶も曖昧になっていたと述べた。

家族が病気を患っていることにも触れ、今後は再犯して服役するようなことは避けたいと述べた一方で、その具体的な方法については「二度としない強い気持ちで、自力で社会復帰する」と話すだけで、不安が残る内容でもあった。

こうした事情を踏まえ、社会復帰後に被告人を受け入れる予定の就労支援施設の担当者が証人として出廷。精神的な不安定さを認識したうえで、住居の管理、定期的な面談、服薬状況の管理をおこなうと証言した。

被告人も、その施設の支援を受ける意思を示した。

●警察官の身に危険を及ぼしかねない犯行

検察官は、被告人の前科にも言及した。前回は、当時の勤務先について「店長が従業員にトラブルの上で刺された」と虚偽の通報をおこなったという内容だった。

被告人はその従業員とトラブルを抱えていたという。検察官から「そのときに反省しなかったのか」と問われると、被告人は言葉を詰まらせた。

今回の事件について、検察官は厳しい口調で次のように問いかけた。

検察官:強い安定剤を飲んだというけど、フォームには住所などの情報も書かれてるし「部屋で強姦されている」など迫真性がある。これを見たら警察官どうすると思いますか?

被告人:申し訳ないです。

検察官:そういった組の事務所に警察が行ったら、どうなると思いますか?
被告人:申し訳ないです。

検察官:何が申し訳ないんですか?
被告人:無用の出動をさせてしまい…。

検察官:組員も「なんやねん」となり、無用のトラブルどころか、警察官の身に危険を及ぼしかねないことをしたんですよ。

被告人は、そこまで具体的な事態を想像できていなかったか、ただ「申し訳ない」という言葉を繰り返すだけだった。最後に検察官は「もっと大きなトラブルになりかねない犯行だったことをわかってくださいね」と穏やかに諭した。

●常習性が認められるが執行猶予に

裁判所は、個人的なトラブルを理由に、まったく関係のない大阪府警を巻き込んだ点を厳しく非難した。また、前科があることから常習性も認められると指摘した。

一方で、就労支援施設による住居や生活面での支援が期待できることなどを考慮し、刑の執行を猶予したと説明した。

判決言い渡し後、被告人は涙を流し、その場で感謝の言葉を口にした。

普段、真面目な態度で就労に取り組み、周囲とのコミュニケーションも取れていたという。精神的に追い詰められたときに支援を求めることができるのか──。

4年間の執行猶予期間は、その姿勢が問われる時期となりそうだ。