相手の心をつかむ提案は何が違うか。早稲田大学名誉教授の内田和成さんは「聞き手の多くは、提案内容のロジック以上に、主観的な評価を頭の中で行っている。だからこそ、プレゼンテーションでの“勝算”を少しでも高めたいのなら、『徹底的に理論武装すべき』という発想から、『相手の主観に意識を向ける』方向に、思考を切り替えていく必要がある」という――。

※本稿は、内田和成『客観より主観 “仕事に差がつく”シンプルな思考法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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■「提案を通すのが上手い人」が考えていること

本稿では、「自分の主観をどう相手に伝えるか」という点について説明していきたい。

このステップがうまくいけば、さまざまな提案や合意形成の場面で、「自分のやりたいこと・伝えたいこと」をきちんと相手に届けることができ、自分の望む結果を手にしやすくなる。

社内的な会議、営業の交渉、上司から部下への指示……。このスキルが求められる場面は数多くあるが、まずここでは、その一例として「プレゼンテーション」の話から始めたい。

BCGという会社に在籍していたこともあって、私はこれまでのビジネスキャリアにおいて、数え切れないほどのプレゼンテーションに関わってきた。

正直、うまくいったケースもあれば、てんでダメだったケースもあり、なかなか一筋縄ではいかなかった。だから私自身、プレゼンテーションの難しさは、よく理解しているつもりだ。

そうした成功体験・失敗体験を繰り返していくうちに、気づいたことがある。

それは、プレゼンテーションの明暗を分けるのは、「相手の“主観”を的確に見極めることができるかどうか」ということだ。

■「理論武装」された説明は、意外と脆い

一般的に、プレゼンテーションに最も必要なのは、「客観的な事実やデータに基づいて、相手を論理的に説得する技術」だと思われがちだ。

あなたも、プレゼンテーションにおいてデータの不備や論理的な矛盾を指摘されないよう、「ロジカルチェック」に心血を注いだ経験があるのではないだろうか。

ただ、人間の意思決定や行動原理というのは、私たちが思っている以上に、その人の「主観」に左右されている。そしてそれは、プレゼンテーションという一見「ロジカルファースト」に思えるような場面でも同様だ。

実際、聞き手の多くは、提案内容のロジック以上に、「なんだか面白そう」とか、「いまひとつピンとこない」などといった、主観的な評価を頭の中で行っている。

それゆえ、「ロジックとしては100点満点」の提案が、意外にもあっさりとボツにされたりする。論理的に反論をされるわけではないから、「結局、何がダメだったの?」とモヤモヤが晴れないこともしばしばだ。

「ロジカルな説得力」を強固にしておくことは、確かに重要だろう。ただ、それだけで聞き手の心を動かせるほど、プレゼンテーションは甘くない。

だからこそ、プレゼンテーションでの“勝算”を少しでも高めたいのなら、「徹底的に理論武装すべき」という発想から、「相手の主観に意識を向ける」方向に、思考を切り替えていく必要があるのだ。

ただ、プレゼンテーションで難しいのは、どうしても「話し手側が準備してきたことを、聞き手側に向けて発表する」といった、一方通行的なコミュニケーションになりがちなところだ。

もちろん、「質疑応答の時間」はあるだろうが、ミーティングや1対1の交渉のように、会話の中で互いの主観をすり合わせていくことは難しい。

だからこそ、プレゼンテーションにおいては、次に述べるような「周到な準備」が必要不可欠になる。

■プレゼンテーションで押さえるべき「4つの要素」

準備が重要といっても、プレゼンテーションに関する情報をやみくもに集めるのでは効率が悪い。“押さえるべきポイント”をしっかりと見極めることが重要だ。

ここでは、私がBCG時代に実際に使用していた「プレゼンシート」の内容をもとに説明しよう。

出典=『客観より主観 “仕事に差がつく”シンプルな思考法』より

プレゼンシートで押さえるべき要素は、次の4つである。

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一つずつ順番に説明していこう。

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まずプレゼンテーションについて、「事前にわかっている事実」をここに記入する。具体的には、そのプレゼンテーションの「タイトル」「日時」「場所」「形式」「持ち時間」「出席者」などである。

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次に、今回のプレゼンテーションで「伝えたいメッセージ」を書き出す。ここでは、提案の概要はもちろんのこと、「なぜ、それをする必要があるのか」という目的も明確にしておきたい。聞き手の心を動かすためには、できる限り、この「なぜ」の部分の解像度を高めておくことが重要だ。

C成したいゴール

プレゼンテーションにおける「成功」とは何か。最も理想的なのは、提案した内容が支持を得て、提案者のアイデアが100パーセント認められることだ。今回の事例であれば、「店舗改善計画」に修正なしでゴーサインをもらうことが、「理想のゴール」となる。

ただしプレゼンテーションにおいて、そうした「100点満点の回答」が1回で得られることは、あまり期待できない。実際にはその中間の「概ね了承」とか、「何点か細部を詰めてくれ」とか、「目の付け所はいいが、ロジックや分析が不十分だからやり直し」といった結論になることが多い。

だからこそ、「必ずしも理想の結果を得ることができるとは限らない」と想定したうえで、「次善の策」や「最低でも達成したいゴール」を考えておくことが重要になる。

プレゼンテーションにおける最悪の結果というのは、「こんなプロジェクト、やる必要がないから却下」と、提案そのものがボツにされることだ。逆に言うと、それさえ回避できれば、次の提案の機会を得られるわけだから、首の皮1枚はつながる。

ゆえに多くの場合、「次の打ち合わせの機会を得ること」を最低限の目標として設定しておくことで、最悪の事態を回避しやすくなる。

■店長クラスにマーケティングの伝達は不要

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プレゼンテーションでは、聞き手が「どんな人なのか」によって、こちらの対応は変わってくる。特に意識しておくべきなのが、聞き手が「その分野の専門家かなのかどうか」という点だ。

仮にマーケティングの話をプレゼンテーションでする場合、聞き手がまったくの門外漢であれば、前提知識の共有や用語の説明などを話の中に織り交ぜるべきだろう。

逆に、聞き手が「店長クラス」の人ばかりであれば、当然、相手は知識も経験も豊富だろうから、マーケティングに関する前提知識の共有や基礎的な話は不要になる。

またこうした人たちは、自分たちが専門にしている領域や商品のことについて、「自分が誰よりも深く理解している」という強い自負を持っているケースが多い。ゆえにコンサルタントの話や提案に対して「所詮、机上で学んだものだろ」と、あまり真剣に耳を傾けてくれなかったりする。

そんな相手に対して、コンサルタントが「あなたの会社のここが悪い」とか「ここの戦略が下手」といった態度で話をすれば、いくらその内容が正しくても、聞く耳を持ってもらえないことは明白だ。

■「誰の心を動かすべきか」を最優先に考える

ぁ崢綾阿梁粟」に関して、もうひとつ押さえておきたいのは、「相手が意思決定者なのかどうか」ということだ。

目の前にいる相手は、会社のトップなのか、部署のトップなのか、それともトップの代役なのか。プレゼンテーションの内容について、決裁ができる立場なのか。それとも上に伺いを立てなければ、決裁ができない立場の人間なのか。

それによって、話し手の働きかけ方は大きく変わってくる。

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決裁者が別にいる場合、たとえその場にいる聞き手をどんなに魅了したところで、それだけで目標を達成することはできない。ここからさらに、聞いた人から決裁者に提案内容をきちんと伝えてもらわなければならないのだ。

そうしたケースでは、プレゼンテーションの際に、「聞き手が喜んで上司に伝えてくれそうな話」を加えるといった意識も必要になる。また、上が懸念を持ちそうな点を、事前に潰しておくことも重要だ。

逆に、その場で決裁が行われるのでなければ、「現段階では話さなくてもいい情報」も出てくるだろう。先に述べたように、「最悪でも次の打ち合わせの機会を得ること」を目標として、戦略を立てていくべきだ。

このようにプレゼンテーションというのは、ただ単に「自分の伝えたいことを話す」だけの自己満足の発表会ではないということを、肝に銘じておいてほしい。

■「決裁権のある人」の意見がひっくり返るとき

すでに営業での経験が長い人には言わずもがなかもしれないが、プレゼンテーションでも商談でも、大切なのは、「誰が決定権を持っているか」である。

だからこそ、プレゼンシートにおける「聴衆の属性」は、必ず頭の中に入れておかなければならない。

ただ、ここで厄介なのは、「決裁権のある人物」と、「決定権を持っている人間」は、必ずしも一致しないということだ。

「決裁権を持っているのは、トップに決まっているではないか。だから社長や役員に受けるようにプレゼンをすればいいのでは?」と思う人は多いかもしれない。

だが、事はそう単純ではないのだ。

たとえば、社長が絶対の信頼を置いている「参謀」がいるようなケース。この場合、たとえトップである社長がOKを出しても、参謀が同意しなければ、その提案が通ることはまずない。

また、「経理」からの了承が下りないと、社長がどんなにそのアイデアを気に入っていても、お金が出ないといった会社もある。

あるいは、たとえば社長が開発部出身の人間で、営業部の意見を聞いてから最終的な判断を下すことが通例だったりすると、実質的に営業部からの評価が重要になってくるようなケースもあるだろう。

このように、たとえ決裁権のある人物でも、必ずしもその人の一存で意思決定ができるとは限らない。むしろ決裁者よりも実質的に大きな発言力を持った人物がいるケースは、決して少なくないのだ。

だからこそ提案者は、「自分の目の前にいる聞き手が、今回の意思決定にどのように関与するのか」を見抜く必要がある。

■「できる営業マン」は、相手のここを見ている

先の「決定権者の見極め」の重要性についてよくわかる例が、車のセールスマンが、夫婦の客にクロージングをするケースだ。

内田和成『客観より主観 “仕事に差がつく”シンプルな思考法』(三笠書房)

セールスマンは、車を運転する夫に向けて「デザインが格好いい」とか、「馬力がある」とか、あるいは「燃費がいい」などと、さまざまなメリットを挙げていく。その都度、車好きの夫は、「いい車だなあ」と感心している。

ところが、それだけでは成約にはいたらない。

なぜなら、決定権を持っているのは、夫でなく妻だからだ。

夫婦の様子を観察するに、お金を出すのは夫であり、運転するのも、ほとんど夫のようである。おそらく、妻が車に乗っている時間は、車の使用時間全体の1割にも満たないだろう。

それでもこの家庭では、妻が「いい」と言わなければ、車を購入できないようだ。安い買い物ではないし、夫の一存で購入を決められないのは、当然と言えば当然だろう。

こうしたケースで最終的に選ばれるのは、後部座席が広く、買い物した荷物を多く載せることができる車種だったりする。

スポーツカーやセダンを望んでいた夫が、ワンボックスカーを買う結果になることも珍しくない。「決定権者」である妻の主観が優先されたということだ。

とどのつまり、「決める」のが誰かによって、「喜ばれる提案」の内容は、180度変わってしまうこともあるのだ。

だからこそプレゼンテーションや交渉の場面では、自分の提案を一方的に押しつけるのではなく、「相手の主観」に着目することが重要となる。

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内田 和成(うちだ・かずなり)
早稲田大学名誉教授/東京女子大学特別客員教授
東京大学工学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。日本航空株式会社を経て、ボストン コンサルティング グループ(BCG)入社。2000 年から2004年までBCG日本代表を務める。2006年度には「世界の有力コンサルタント25人」に選出。2006年から2022年3月まで早稲田大学教授。早稲田大学ビジネススクールでは意思決定論、競争戦略論、リーダーシップ論を教えるかたわら、エグゼクティブプログラムにも力を入れる。主な著書に、『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』『イノベーションの競争戦略』(以上、東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日本経済新聞出版)など、ベストセラー・ロングセラーが多数ある。
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(早稲田大学名誉教授/東京女子大学特別客員教授 内田 和成)