ご飯食べ放題のステーキ定食がなんと「税込1000円」…愛知発の焼き肉チェーンが"激安"を維持できるカラクリ

■ご飯、味噌汁、副菜も食べ放題
物価高が続き、飲食店でもなるべく安いものや、食べ放題サービスなどに消費者の目が向くようになった。
例えば焼肉にも財布の紐が固くなる中、人気が高まっているのが、税込み1000円で食べられるステーキ定食のチェーンだ。ステーキというだけでも魅力的だが、加えて、ご飯や味噌汁、数種類の副菜も食べ放題だという。
名称は「感動の肉と米」(以下、肉と米)。愛知県発祥だが東京にも進出しており、繁華街、住宅街、郊外ロードサイドなどさまざまな立地に店舗を増やしつつある。
■店内には常連と見られる中学生たちの姿
その実力や安さの秘密を探るため、今回、横浜市内にある青葉台店を訪ねた。
訪ねたのは平日の18時ごろで、まだ夕飯時前だからだろう、混み合ってはいない。しかし不思議な光景を目にした。
中学生ぐらいの少年たちが店内にたむろしているのだ。近くに親らしき姿はない。どうやら隣接する学習塾の帰りに仲間同士で食べにきたようだ。注文や料理の受け取りに慣れた様子からは常連と見受けられる。
こちらも負けずに、入り口の販売機で、一番人気というロースステーキセットを注文した。


■ご飯と食べると相乗効果でおいしい
トレーを手にオープン式の厨房の前に立つと、すでに自分の注文分が焼かれている最中。1分程度で焼き上がったので、ご飯や味噌汁が自動で出てくる機械に進み、席に運んだ。
食べ放題という副菜は、牛肉のしぐれ煮、キムチ、わかめのナムル、野沢菜とべったら漬け。野菜に加えて肉系もあるとは贅沢だ。色とりどりで食欲もそそる。

いよいよ肉にナイフを入れ、口に運ぶと、かみごたえもある、ほどよいやわらかさだ。あっさりしたロースのため、次はにんにくが利いたソースをたっぷりつけてご飯と一緒にほおばる。なぜか、肉だけで食べるより味わい深く感じた。羽釜で炊かれたご飯の甘みが、肉の旨みと合わさって相乗効果を生み出しているのかもしれない。
副菜もご飯に合う。とくに肉のしぐれ煮はステーキよりこってりしていて食べ応えがある。
ご飯の上に副菜を彩りよくのせ、生卵(有料)を加えるとビビンバ風になる。ステーキの後、締めに食べるのが通のやり方らしい。
メニューには牛肉のステーキのほかに豚肉やチキン、ハンバーグもあり、こちらは1000円しない。副菜で栄養バランスもとれてこの値段なので、大人のファンが増えるだけでなく、親が子供に通わせるのも頷ける。

■愛知県から勢力拡大中の「あみやき亭」
同チェーンを運営するのは1995年創業のあみやき亭。焼肉業態のあみやき亭約260店舗のほか、焼鳥やレストランなど複数の業態を展開している。2009年に子会社化したスエヒロレストランシステムや、近年ではニュールック、クーデションカンパニーをグループに加え、全国に店舗数を伸ばしてきている。
焼肉業態あみやき亭の一番の特徴は和牛、そしてリーズナブルな価格での提供だ。例えば黒毛和牛の上カルビが1皿693円(関東店舗の価格)。大手焼肉チェーンの「牛角」は黒毛和牛カルビが968円、黒毛和牛上カルビが1628円なので、値段のみを単純に比較すると断然安い。そのため創業地である愛知県を中心に、コストパフォーマンスのいい焼肉チェーンとして知られている。
■目指すは「安い」でなく「お値打ち」
首都圏にはあみやき亭は数店舗しかないが、代わりにスエヒロ館というチェーンを55店舗展開している。こちらは和牛上カルビが1078円で、あみやき亭より少し値段設定が高め。最近では和牛一頭買いを特徴として打ち出してきており、希少部位を「お値打ち」価格で提供している。

今回、創業者であり代表取締役会長と社長を兼務する佐藤啓介氏にインタビューし、ここまで安くできる仕組みについて聞いた。佐藤氏によると、同社でもっとも大事にしているのが「お値打ち価格」での提供だそうだ。
「安いというよりは、価値あるものを気軽に食べられる店を目指しています」
また品質のよいものを安く提供できる理由は以下のように説明できるという。
1)仕入れ
19歳から食肉の卸や外食に携わってきた佐藤氏をはじめ、社員には肉の経験者が多く、仕入れのノウハウが蓄積されている。
なお展開している業態で提供している肉の8割が国産。「肉と米」ではアメリカ産を使っている。
■夜中に肉を加工し、早朝に各店舗へ
2)セントラルキッチン
中部と関東にそれぞれセントラルキッチンを有し、自社で肉の加工を行っている。大ロットで仕入れ、無駄なく加工・利用する技術、またそれをどうおいしく食べるか、というメニュー開発も、商品力につながっている。
「1頭750kgから取れる200〜250kgの食肉は柔らかいヒレ、硬いスネ、脂身の多いバラもあればモモなどの赤身と、いろいろな部位があります。それぞれ特徴を知らなければ最適な加工ができません。ところが輸入肉の場合は最初から部位ごとに分かれているので、高い技術はあまり必要ありません。国産牛が難しく、競合が少ないのはそれが理由です」
3)その日配送
あみやき亭では最終段階、つまりあとは焼くだけという状態までセントラルキッチンで加工を行う。新鮮なうちに届けるため、夜中の2時、3時に加工したものを早朝に店舗に届くよう配送する。すなわちその日使うものだけを作るという、佐藤氏がトヨタの「カンバン方式」からヒントを得て考えついた仕組みだそうだ。
4)日次決算
店舗では毎日決算を行い、本部で管理している。これにより日々の受注が細かく把握でき、需要予測の精度も上がる。無駄な在庫や食品ロスも減る。例えばある店舗でその日に肉が余りそうな場合は発注を変更し、ほかの店舗に回すこともできる。その日ごとに食材のロス金額が記録されるそうだ。
■コロナ禍で発信した「雇用を守るし、給料も賞与も保証する」
同社では上記のように日々決算を行っているため、毎年最速決算発表企業1位を守り続けているという。債務もほとんどなく、不動産と現金で150億円超という財務体質を維持している。

「世の中は何が起こるかわかりません。会社には生き残っていける資金が必要です。まさにこれが役立ったのがコロナ禍でした」
当時社長を退任し会長に就任していた佐藤氏だが、営業できず、赤字が続いていた会社の危機に直面し、社長へと復帰。「雇用を守るし、給料も賞与も保証する」旨のメッセージを全従業員に送ったそうだ。
このことで結果的にコロナ禍後、人手不足に陥ることもなく、営業を再開できたという。
■誕生のヒントとなったのは「コンビニ」
「肉と米」の第1号店がオープンしたのも2021年4月27日と、コロナ禍の真っ最中だ。この時期に新しい業態を立ち上げたのも、客が来ず売り上げも半減する中、従業員の安心やモチベーション向上のためだったそうだ。
「ヒントとなったのはコンビニエンスストア。駐車場に車がたくさん停まっているのに、店内にお客はいない。よく見ると車の中で食べている。お金がない、それからサッと食べたい、そういうニーズがあると感じました。でもそれだとお腹いっぱいにならないし、冷たくて味気ない。温かい食事をお腹いっぱい食べてもらうには、というのがアイデアの出発点です」
肉という同社の強みを活かし、喜んでもらえるメニューとして思い浮かんだのがステーキ。なるべく安く、税込み1000円の価格をまず設定。そこから逆算して、実現できる仕組みを考えていった。

では、実際に税込み1000円のステーキ定食はどのように実現されたのだろうか。
佐藤氏によれば、「人件費と回転率」の2点が飲食店におけるコストダウンの最大のポイントだそうだ。
■「1000円ステーキ定食」が成り立つ仕組み
まず人件費は注文精算システムのDXをはじめ、セルフサービス化を徹底。その分原価率を上げることができる。上がった原価率の分は、回転率を上げ、客数を稼ぐことで補う。
回転率を上げると言っても、滞在時間に制限を設けるわけではない。スピード提供によって、客の待ち時間を減らすのだ。これなら客と店、双方にメリットがある。
スピード提供の仕組みは次の通りだ。
まず、販売機の注文内容は即時に厨房へと自動伝達される。すぐに、あらかじめ火を通しておいた肉を焼き始めるので、客が受け取りに来るころにはほとんど出来上がっている。なお、あらかじめ火を通す方法は社外秘だが、これによりスピード化だけでなく、肉が柔らかくなるメリットもあるそうだ。

■「肉と米」の原価率は約50%と高い
標準は「1〜3分」だが、店によってはもっと早いことも。店舗が小さく、忙しい新橋店では30秒ぐらいで出てくるそうだ。
このように仕組みを明らかにしてしまうと、すぐに真似できるのでは、と心配になる。しかし、「これまで真似されていないし、その可能性も低い」と佐藤氏。
「あみやき亭の全体のシステムと連動しているからこそ、利益を出すことができます。ほかがやっても儲からないでしょう」
それもそのはずで、「肉と米」の原価率は約50%。ご飯を6杯もおかわりする人もいる。また物価高騰、とくに米や卵の値上がりや品薄は今でも頭が痛い問題だ。
「おかわりをたくさんなさるお客様ばかりだとやっていけませんが、そうでないお客様もいらっしゃいます。値上がりにより収益性も下がってきてはいますが、お客様が入ってくれれば手のうちようはあると考えています」
例えば高付加価値メニューなどを打ち出すのも対策の一つだそうだ。
■2026年中に56店舗→80店舗にする計画
あみやき亭の2026年3月期の連結業績予想は、売上高386億円、純利益は12億円で前期比30%減となる見込み。猛暑や物価上昇による消費マインドの低下で、焼肉業態の来客数が伸び悩んだことが原因だ。
一方、「肉と米」の新規出店などで売り上げは前期を上回っている。56店舗(10月末現在)から、2026年中に80店舗まで展開する予定だ。グループ全体としては、M&Aも活用して店舗数を増やすとともに、店舗力の底上げを図っていくという。
「SNSと店舗力のかけ合わせが重要だと考えています。SNSで宣伝をして、会員を獲得する。一方、店舗では店長、従業員が一体となってお客様に魅力を伝える。従業員の活力がなければいいサービスができません。従業員には『失敗しても怒らない、なんでもやってみなさい』と伝えています」
「SNS×店舗力」がメニューとして具現化しているのが、スエヒロ館で提供されている「和牛一頭買い“肉の玉手箱” 大」(6種類約4人前4378円)。ふたを開けるとドライアイスの煙が立ち上り、写真や動画を撮りたくなる。

■食材廃棄のリスクも抑えられる「玉手箱」
そして従業員は肉の種類や質、おすすめの食べ方などについて解説。こうした客とのコミュニケーションが店舗力になるという。

「肉の玉手箱」は一頭買いのメリットを最大限に引き出すメニューだそうだ。
「丸ごと1頭を買い上げて加工するので、仕入れコストを下げられる。反面、部位によっては余ってしまい、廃棄が多くなればそのメリットが出てこない。だから難しかったが、今は多様な部位を食べたいというニーズが高まってきた。いろいろな部位を何種類も盛り合わせられる玉手箱は余るリスクも抑えられ、お客様のニーズにも一致した」
画期的なアイデアで困難をチャンスに変えてきた佐藤氏。消費控えの中でも「選ばれる焼肉店」を目指していくという。
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圓岡 志麻(まるおか・しま)
フリーライター
東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。
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(フリーライター 圓岡 志麻)
