お酒を飲む人は認知症になりやすいのか。このほど、『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(講談社)を上梓した米マウントサイナイ医科大学病院の山田悠史医師は「リスクが上がるのは確実だ。ただ、その程度は“飲酒の量”によって大きく変わる」という――。
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nyantanan

■「お酒は認知症を招く」のか

あなたは普段、お酒はどのくらい飲むでしょうか。

「毎日欠かさず晩酌をする」という人もいれば、「付き合いでたまに飲む」という人もいるでしょう。

なかには、「記憶を失うまで飲む」なんて酒豪の人もいるかもしれません

「飲酒」をはじめ、「喫煙」、「長時間のSNS」、「座りがちな生活スタイル」などは、すべて認知症のリスクを高める生活習慣です。

今回は、この中から、私たちが日々晩酌などで楽しんでいる「お酒」に着目したいと思います。

出所=『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(講談社)

飲酒が認知症のリスクを高めるというと、患者さんからさまざまな質問が寄せられます。

「何杯までならセーフなのか」
「ちょっとは飲んだ方がいいのか」
「お酒の種類や一緒に食べるものによってリスクを下げることはできるのか」

こうした問いに対して一つ一つ、最新の研究を含め現代の医学でわかっていることをお答えしています。読者の皆さんにも認知症のリスクを下げるための「お酒との付き合い方」として考える一助になれば、と思っています。

アルコールが認知機能にどのような影響を与えるのか。

まずは、そのメカニズムから説明したいと思います。

画像提供=講談社
米マウントサイナイ医科大学病院(米ニューヨーク州)で老年医学・緩和医療科で診療にあたる山田悠史医師。同院は、「老年医学」の分野で世界屈指の医療機関として知られている。 - 画像提供=講談社

■ビタミンB1が欠乏する

アルコールと、アルコールを代謝する時に生成されるアセトアルデヒドという二日酔いの原因物質が脳の神経細胞にとって毒物です。

飲酒が原因で健康を害する患者さんは、脳の部位でも記憶を司る「海馬」や理性を司る「前頭前野」にダメージを受けることが多いです。

例えば、前頭前野の機能が低下すると、怒りっぽくなったり、涙もろくなったり、と感情のコントロールが利かなくなります。

海馬の機能が低下すると、怒りっぽくなったり、涙もろくなったり、と感情のコントロールが利かなくなります。

脳の神経細胞はブドウ糖をエネルギー源としていますが、ビタミンB1は糖質からエネルギーをつくり出す際に必須の栄養素です。

ところが、アルコールを摂取するとビタミンB1を大量に消費してしまいます。ビタミンB1の欠乏によって、脳のエネルギー不足を引き起こし、認知症を発症するリスクが高まるのです。

ですから、お酒を飲む人ほどおつまみ程度で済ませずに、バランスのいい食事を摂ることを心掛けてほしいと思います。

また、お酒は血管にも影響を与えます。

飲酒を続けると、心臓から酸素や栄養を全身に供給する動脈が硬化します。これはタバコにも言えることなのですが、血液の巡りが悪くなることで、脳へのダメージが出やすくなるのです。

脳の血管を水道管に例えると、水道管の中の錆を増やすようなイメージですね。

■ビールを1日2杯以上飲む人は要注意

具体的には、どの程度の飲酒が認知機能に影響をもたらすのでしょうか。

大規模な研究によると、1日に缶ビール(350ml)2本以上飲む人は、それより少ない人に比べて認知症リスクが約22%高くなることがわかりました。※

※Kivimäki M, Singh-Manoux A, Batty GD, Sabia S, Sommerlad A, Floud S, et al. Association of Alcohol-Induced Loss of Consciousness and Overall Alcohol Consumption With Risk for Dementia. JAMA Netw Open. 2020;3(9):e2016084.

イラスト=フクハラミワ

22%というと、一見、低い数字に思えるかもしれません。しかし、遺伝などの素地に加え、喫煙や塩分の摂り過ぎ、運動不足、一人暮らしをしているなど、認知症につながる要因は複合的です。飲酒だけで2割増しになるのですから、軽視してはいけません。

また、この研究の中で、気を失うような飲み方をすることがある人は、平均の飲酒量は少なくても、認知症リスクが約2倍に高まることが示されました。

普段はあまり飲まなくても、飲む時は酔い潰れてしまうまで……というような経験がある人もリスクは十分高くなるという認識が必要です。

■0杯よりも、適量がいい?

時々、「お酒はちょっとは飲んだ方がいい」という専門家がいます。「酒は百薬の長」ということわざもあります。これは本当でしょうか。

おもしろい研究があります。

400万人の韓国人を対象に追跡調査した大規模な研究です。※

※Jeon KH, Han K, Jeong SM, Park J, Yoo JE, Yoo J, et al. Changes in Alcohol Consumption and Risk of Dementia in a Nationwide Cohort in South Korea. JAMA Network Open. 2023;6(2):e2254771.

対象者は以下の4つのグループに分類され、その後の認知症(特に、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症)の発症との関連があるかどうかを評価しました。

? 飲酒をまったくしない人
? 一日あたりのアルコール摂取量が350mlの缶ビール換算で1本以内
? 2本以内
? 2本を超える人たち

2本を超える飲酒があった人(?)の認知症発症リスクが高いのは、、先ほど説明した通りです。

では、「飲酒量は少なければ少ないほどよい」のでしょうか。

結果は思ったよりクリアではありません。

飲酒をまったくしない人(?)と比較すると、継続して缶ビール2本以内に抑えていた人(??)では認知症発症リスクが低かったのです。

■「病気でお酒をやめた人」が含まれている

また、飲酒をまったくしていなかったけれど途中から1本以内の飲酒を開始した人(?→?)も、ずっと飲まなかった人(?)と比べて認知症リスクが低下していました。

結果だけを見ると、「お酒は少しは飲んだほうがいい」と結論付けたくなりますが、これには注意が必要です。

実は、「まったく飲まない」人の中には、病気が原因で“飲酒をやめざるをえなかった人”が一定数含まれています。

つまり、この結果からは「お酒を飲まないから、認知症になった」のか、「お酒を飲めないほど健康状態が悪かったから、認知症になった」のか、因果関係がわからないのです。

これは「シック・クイッター・エフェクト」と言って、タバコの研究にも見られる現象です。

そのようなわけで、「お酒はまったく飲まないよりも少しは飲んだほうがいい」との説は、この研究からは言い過ぎかなと思います。

■ビールとハイボール、飲むならどっち

ここで、よく聞かれる2つの質問についてもお答えしておきたいと思います。

まず、「ビールではなくハイボールならどうですか」というもの。ビールなど醸造酒に比べて、ウイスキーなどの蒸留酒は糖質がゼロ、あるいは少ないのでリスクも低減されると思いがちです。

けれども、あらゆる研究結果から言えることは、「アルコールは全てアルコールである」という残酷な事実です。

少なくとも、認知機能に与える影響という文脈では、ワインや日本酒がいいとかウィスキーがいいとか、は関係ありません。

もう一つは、「ウコン」が含まれるドリンク剤やサプリメントは「二日酔い対策に効果はありますか」というものです。

巷には、飲酒の影響を和らげようとする数々の商品があるようですが、ウコンを含め、医学的なエビデンスは十分に確立されていません。

仮に酔いを和らげる効果があるものがあったとしても、その結果、より多くのお酒を飲むのであれば本末転倒。かえって悪影響があると言えるでしょう。

お酒には脳にとって快適な「適量」があります。晩酌の習慣がある人は一日に缶ビールを1本までに抑えて楽しむことをおすすめしたいと思います。

■飲み会−人間関係=飲酒習慣

飲酒量が増える原因は人それぞれですが、定年退職がきっかけになるケースも少なくありません。

旧来の友人との付き合いよりも、会社の同僚とばかり飲み歩いていたような人は、仕事がなくなった途端に、人間関係もなくなってしまうということが往々にしてあるのです。

山田悠史『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(講談社)

けれども、お酒のほうは簡単にはやめられません。

新しく人間関係をつくることが億劫になり、結局、一人で晩酌を楽しんでいる人が結構います。お酒と孤立が結びつくと、健康を害する行動に歯止めがかかりにくくなります。

医師や弁護士など知的な職業に就いていた人でさえ、びっくりするくらい急速に認知機能が悪化していくのを目の当たりにしてきました。本当に悲しい思いがします。

私が今回『認知症になる人 ならない人』(講談社)を書こうと思ったきっかけも、実はこうした経験に基づいています。読者の皆さんには、「あのときこうしていれば……」と後悔してほしくない。今できる正しい習慣を生活に取り入れて、健康で元気に生活できる時間を最大限に生きてほしいと思っています。

■「健康に悪いから」は逆効果

お酒を控えてほしい患者さんと話をするときに、ただ「お酒をやめて」と言うだけでは強い喪失感だけを与えてしまいます。その人が大事にしていることや趣味などを聞いて、何か目標を立てて相談に乗るとうまくいくことが多いです。

僕自身は、飲酒すると翌日のパフォーマンスが悪くなることがわかっていました。それで、お酒をやめたら仕事も趣味もパフォーマンスが向上して、自分の幸福度が上がったという体験をしました。その話をすると、結構、周りの人たちもお酒をやめることに成功しました。

70代の患者さんで旅行が好きな方がいまして「80歳になっても元気に旅行に出掛けたい」と話されました。私は「その目標を達成するためにも、お酒のかわりに体づくりに時間やお金を費やしてみませんか」と提案したところ、すっぱりお酒をやめて、現在も元気に過ごしておられます。

禁酒や減酒はポジティブな実践であることを、患者さんと共有することが大切なのだと実感しました。

お酒を控えたいと思っている、あるいは、身近にお酒を控えてほしい誰かがいる場合には、「人生で大切にしていること」「達成したい目標」を明確にするところからはじめてみてもいいかもしれませんね。

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山田 悠史(やまだ・ゆうじ)
米国老年医学・内科専門医、医学博士
マウントサイナイ医科大学(米ニューヨーク)老年医学・緩和医療科医師。米国老年医学・内科専門医、医学博士。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国各地の病院の総合診療科で勤務した後、2015年に渡米。現在は高齢者医療を専門に診療や研究に従事している。AIと医療をつなぐ合同会社ishifyの共同代表。米国では、NPO法人FLATの代表理事として在米日本人の健康を支援する活動にも力を入れている。 著書に、『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』、『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(共に講談社)などがある。Podcast: 医者のいらないラジオ
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(米国老年医学・内科専門医、医学博士 山田 悠史 構成=ジャーナリスト・亀井洋志)