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ビッケン・アルスラニアン氏は、2019年に新興香水ブランドのコモディティーを買収後、実店舗展開を開始。

ニューヨークのソーホー地区に新店舗をオープンし、デジタルと実店舗の融合を図る。

新店舗はブランド体験を重視し、今後はニューヨーク以外の都市にも拡大を計画。


ビッケン・アルスラニアン氏は、創立間もない香水ブランドのコモディティー(Commodity)を2019年に買収して以来、このブランドの運営にいくぶん場当たり的なアプローチを取ってきた。このほどニューヨークのソーホー(Soho)地区でグランドオープンする初の店舗の立ち上げに関しても同様で、コモディティーが持つデジタルのルーツを実店舗に転換しようとしている。この戦略が成功するかどうかは消費者が判断するだろう。

「小売業ははじめてなので、どのくらいの人数が来るのかさっぱりわからない。私は楽観主義者だが、わからないことがあるということはわかる」とアルスラニアン氏は述べている。「損益分岐点は60万ドル(約9120万円)くらいだ。それ以上が得られたらなんでもありがたい」。

香水販売業者のユーロパフューム(Europerfumes)の創業者でCEOのアルスラニアン氏は、これまでにセルヨッフ(Xerjoff)やマティエールプルミエール(Matiere Premiere)のようなニッチな香水ブランドを米国の消費者に紹介しており、香水を消費者の手に届ける方法を知っている。しかし、モノブランドストアのオープンは新たな冒険で、仲介業者を通さずにコモディティーの消費者と対話できるチャンスとなる。「ブランドを構築するのに、全方位型のアプローチがこれまでになく重要になっている」とアルスラニアン氏は語った。「ポップアップ、小売店、オンライン、卸売パートナー、どれも重要だ」。

小売スペースとして選んだ土地



コモディティー初の店舗をオープンするにあたって、アルスラニアン氏はソーホーのクロスビーストリート(Crosby Street)に位置する1000平方フィート(約93平方メートル)の店舗を選んだ。その理由のひとつは、家賃が月額1万5000ドル(約228万円)で、ニューヨーク市の小売スペースとしては格安だったからだ。しかし、ここには懐古的な要素もある。

このブロックには、今は閉店したミンニューヨーク(Min New York)があった。ミンニューヨークはユーロパフュームが多くのブランドを発売したマルチブランドの香水店で、長年の香水ファンなら、2010年代に新しいユニークな香水を買えた場所として記憶している。当時は、ニッチな香水が本当にニッチだった。

今やニッチな香水は大きなビジネスになった。クロスビーストリートに隣接するノリータ(Nolita)には「香りの街(scent row)」と呼ばれる一角があり、エリザベスストリート(Elizabeth Street)にはセントバー(Scent Bar)、ルラボ(Le Labo)、イソップ(Aesop)の店舗が並び、プリンスストリート(Prince Street)の角にはディーエスアンドダーガ(D.S. & Durga)とディプティック(Diptyque)の店舗がある。韓国にインスパイアされた香水ブランドのエロレア(Elorea)は2023年に、この近くのスプリングストリート(Spring Street)に香水店とカフェをオープンした。

さらに近年、この商業地は全体的にはるかに競争が激しくなってきており、2023年にスプリングストリートに旗艦店をオープンし、今年は大ヒットした香水ブランドのユー(You)を2ブランドのフランカー(競合から自ブランドを守るための新ブランド)で強化した化粧品ブランドのグロッシアー(Glossier)などのポップアップや店舗に、毎日長い行列と混雑ができている。

Webサイトの雰囲気を継承



また、クロスビーはナイキ(Nike)、ブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)、セフォラ(Sephora)などの巨大チェーン店があって活気に満ちたブロードウェイ(Broadway)から1ブロックしか離れていない。セフォラは、2022年にコモディティーと再提携して以来、コモディティーにとって重要なパートナーとなっている。これまで、セフォラはコモディティーの唯一の実店舗小売業者だったが、アルスラニアン氏は、コモディティーの独立店舗はセフォラのライバルではなく、補完するものになると主張している。

「驚くべきことに、セフォラは運営を通じてベンダーやブランドに成功する方法を教えている。我々が成功すればセフォラも成功すると理解しているからだ」とアルスラニアン氏は語った。「当社の店舗にとって良いものがセフォラと同じとは限らない。そう思わなかったら、この店舗を必要としなかっただろう。だから、セフォラと衝突しない別の勝ち方を見つけることが重要だ」。

差別化のひとつとして、セフォラに置かれている多数のボトルと棚や嗅覚スペースを奪い合うことなく、消費者にコモディティーブランドを没入型で紹介する機会を提供する。コモディティーの世界観を現実化するために、アルスラニアン氏はRDKアーキテクト(RDK Architect)の創業者で主任建築家でもある妻のロゼット・D・コーレニアン氏に協力を求め、コモディティーのWebサイトの雰囲気を物理空間に変換した。

「デジタルの世界では、コミュニケーションと、ディスカバリーキットなどで製品を世の中に出すことがすべてだ」とコーレニアン氏は言う。「だから、それを3D形式で物理的な形で再現すること、必ずしも文字どおりではなくても、その枠組みのなかでなんとかして再現しようというのがコンセプトだった」。

マーケティングのエコシステム



コモディティーはオンライン特化型の香水ブランドだ。前身は、2013年にクラウドファンディング型資金調達サイトのキックスターター(Kickstarter)のキャンペーンを通じて立ち上げられ、オンラインで熱心なファンベースを構築したが、2019年に突然閉鎖された。アルスラニアン氏が2021年に再ローンチし、この際にコモディティーの商品を少数の香りに絞り込み、香りの空間というコンセプトを取り入れた。

それぞれの香りは3つの異なる強さと拡散度で提供される。新しい店舗はミュージアムからインスピレーションを得ており、シンプルな白黒のサイネージでコモディティーのコレクションを顧客に案内する。消費者の要望に応え、コモディティーのアーカイブから復活した香りが収められているディスプレイボックスも用意されている。

ソーホー(Soho)地区でのグランドオープンまでの1週間、コモディティーは一連の店舗内アクティベーションを開催し、同ブランドのベストセラー香水であるミルク(Milk)を生み出したクリステル・ラプラード氏などの調香師、香水アプリのスニフ(Sniff)の創設者であるデミ・ローリング氏などの香水インフルエンサー、そして隣接3州の長年の顧客をイベントに招待した。

「これは実は、エコシステム全体を表している。つまり、調香師が製品を作り、ブランドがその香水を販売する。ブランドはインフルエンサーをメガホンとして活用して製品について語り、スニフのようなアプリを利用して顧客が製品を発見できるようにする」とアルスラニアン氏は語った。

コモディティーはこれらのイベントをオンラインで発信し、世界中の顧客に店舗内体験の一部を提供する予定だ。アルスラニアン氏は、コモディティーの実店舗をニューヨークだけでなく、マイアミやロサンゼルスなどの都市、さらにはヨーロッパにまで拡大したいと考えている。

「1店舗を展開することが目標であるなら、継続的な損失も正当化できるだろう」と同氏は述べた。「そんなことに興味はない。興味があるのは、このモデルをほかの場所で再現することだ」。

しかし、まずはニューヨーク店が全力を尽くし、できれば60万ドル(約9120万円)の投資を回収する必要がある。「最初の1年、あるいは最初の6カ月はハネムーン期間だ」とアルスラニアン氏は述べた。「本当の仕事は、そのあとにはじまる」。

[原文:Exclusive: Digital-native perfume brand Commodity opens first retail store]

Emily Jensen(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:島田涼平)