北朝鮮の“なりすまし装備”が展開される可能性も…北朝鮮の“ロシア派兵”韓国にとって“奇貨”となるか
北朝鮮軍がウクライナ軍と一戦交えることになるのか。ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、「ロシアは10月27〜28日に北朝鮮軍を戦闘地域に派遣する予定だ」(キーウ・インディペンデント10月25日付)と述べた。
一方、ロシアのプーチン大統領は24日、BRICS首脳会談が開かれていたロシア・カザンで「きょう、(北朝鮮との)戦略パートナーシップ条約が(ロシア下院で)批准された」と述べるとともに、「衛星画像は重要」とも指摘した。プーチン大統領が指摘した衛星画像とはなにか。
韓国大統領直属の情報機関である国家情報院(以下、国情院)が10月18日に発行した1枚のプレスリリースが世界を驚愕させた。そのプレスリリースには、数枚の衛星画像が張り付けられていたのである。プーチン大統領が指摘していたのは、これらの衛星画像だったのだろうか。
「国情院は去る8月初め、北朝鮮ミサイル開発の中心である金正式軍需工業部第1部部長が数十人の北朝鮮軍将校とともに、ロシアーウクライナ戦線付近の北朝鮮『KN-23ミサイル』発射場を訪問、現地指導している情況を捕捉した。以後、…北朝鮮が去る8日から13日までロシア海軍輸送艦を通じて北朝鮮特殊部隊をロシア地域に輸送することを捉え、確認した」という。
本当だとすれば、どれくらいの兵員がロシアにわたったのか。
北朝鮮が持つ西側製装備に似せた“なりすまし”装備の脅威
「北朝鮮の清津などの地域で北朝鮮特殊部隊1500人余りをロシアウラジオストクに1次移送完了し、近いうちに2次輸送作戦が行われる予定だ」と国情院は説明する。つまり、ロシアに送り込まれる北朝鮮の特殊部隊兵力は1500人どころではなく、さらに増えるだろうというのである。
では、それは、どれくらいの派遣規模になるのだろうか。韓国の「情報筋によると、北朝鮮はエリート特殊部隊から合計1万2000人の兵士を派遣する見通し」(聯合ニュース10月22日付)という。北朝鮮の特殊部隊(Special Purpose Forces Command)は、総兵力約8万8000人(ミリタリーバランス2024年版)と見積もられているので、その約13.6パーセントに及ぶ。
この1万2000人という特殊部隊は、何のためにロシアに派遣されるのか。この点について、ウクライナのゼレンスキー大統領は「(ウクライナ軍の)シルシキー最高司令官と、ロシアがウクライナ戦争に向けて北朝鮮兵士を訓練している問題も話し合った」(RBC-UKRAINE10月22日付)として、北朝鮮の兵士がウクライナと戦うためにロシアに訓練を受けているという前提のもと、「北朝鮮から2つの部隊が準備されているという情報がある。それぞれ6000人規模の旅団が2個ある可能性もある」(同上)というのだ。
だが、その実力は、どうなのだろうか。
注目されるのは、韓国・国情院も北朝鮮から派遣されるのは、まずは「特殊部隊」と指摘していることだろう。北朝鮮軍は、南の韓国への浸透を意識してか、服装を韓国軍に似せたり、米韓両軍で使用していたOH-6型軽観測ヘリコプターの民間版ヒューズ500ヘリコプターを密輸入して自らの装備としていたこともあった。つまり、“なりすまし”の軍隊を編成していたのである。
2022年、ロシアがウクライナへの侵攻を開始しているが、その1カ月前には、英国から供与されたNLAW対戦車ミサイルで、ウクライナ軍は侵攻に備える構えをみせていた。ところが、興味深いことにこの年北朝鮮のパレードでは、NLAWに外観の似た武器を抱えた兵士が登場していたのである。
2024年8月には、独特な外観もあって著名なイスラエル製のドローン、HERO30やハロップによく似たドローンの試験を金正恩総書記が視察している画像も北朝鮮メディアで公開されていた。
このように外観を西側製装備に似せた北朝鮮装備は、単なる”張りぼて”なのか、それなりの性能をもっているものかどうかも分からない。こうした装備を抱えた北朝鮮兵士がウクライナ軍との戦場に投入されたらどうなるか。その性能、戦術はともかく、ウクライナ軍は敵味方を見誤らずに戸惑いなく戦えるのか。
ウクライナ軍は、戦場にアメリカから供与されたM1A1エイブラムス戦車を投入している。北朝鮮は、ウクライナ軍とロシア軍の戦闘地域に投入される規模が大きくなれば、北朝鮮国産のM2020型戦車も戦地に投入することを計画するかもしれない。この戦車は、砲塔も車体もエイブラムス戦車に似ていて、遠目にはエイブラムス戦車と見分けるのは難しいだろう。
ロシア軍にはこれほどアメリカ軍の戦車に極似した戦車はない。M2020型戦車の性能の詳細は不明だが、その外観から、戦場で対峙していたはずのM2020型戦車を友軍の戦車と見誤って見逃したり、接近を許して主砲を発砲されれば、味方の損害は大きくなるはずだ。
また北朝鮮は、性能は不明ながら、アメリカ軍のMQ-9リーパー無人機にそっくりな無人機、「セッピョル-9」も保有していて、このような“なりすまし”装備がウクライナ軍=ロシア軍が対峙する戦場に投入されれば、ウクライナ軍は、上空を飛ぶこの種の無人機を撃墜することを躊躇する可能性もあるだろう。
では、北朝鮮は、この派兵によって、何を得るのか。
ロシア派兵で「北朝鮮の核ミサイル開発」に拍車?
アメリカのシンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)のヴィクター・チャ地政学・外交政策学部長兼韓国担当部長は「金正恩は、…大陸間弾道ミサイル部隊の構築や、原子力潜水艦部隊の構築など、さまざまな能力を構築するという目標を隠していない。生き残りやすい核兵器部隊の開発も目的だ。ヘインズ米国家情報長官は、2024年の年次脅威評価で、ロシアが長年維持してきた核不拡散の規範を放棄するかもしれないという米国政府の懸念を表明した。(北朝鮮の)派兵は、モスクワがそれらの規範を破るきっかけになるかもしれない」(CSIS・10月23日付)との分析を明らかにしている。
つまり、北朝鮮は“派兵”の見返りに、ロシアの援助を得て、北朝鮮が進めてきた核ミサイル開発に拍車がかかるかもしれないということだ。このような事態に、北朝鮮と対峙する韓国はどう対応するのか。
韓国の国情院が前述のプレスリリースを明らかにした後、韓国の尹大統領が、初めて直接会談した外国の首脳は、ウクライナの北西に接するポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領だった。ポーランドと韓国は、さらに間接的にはウクライナも含め、近年、安全保障上の特別な関係を構築してきた。
ポーランドは、ウクライナに侵攻したロシアを警戒し、2022年から韓国のK2戦車やK9自走砲を積極的に導入。その配備が進む中、余剰となったポーランド軍のT-72M型戦車をウクライナ軍に供与するという関係にあった。韓国は、K2戦車をポーランドに1000輌納入する計画であり、そのうち、ポーランド軍の要求に合わせて性能を向上させたK2PL型戦車、約800輌はポーランドで生産されるという。さらに、ポーランド空軍も韓国製のFA-50軽戦闘攻撃機を導入中だ。
つまり、韓国のK2戦車やFA-50軽戦闘攻撃機のメーカーは、ポーランドに要員や設備を送り、韓国軍も要員を送ることにつながるかもしれない。
今回の両国の首脳会談後の記者会見で、尹大統領は「今日の国際安全保障状況は、かつてないほど深刻だ。両国は防衛・防衛当局のための定期的な協議機関を立ち上げ、相互の安全保障と国防に貢献するために協力する方法を模索する」と述べた。
そうだとするならば、ウクライナの北西で500km以上の長さの国境で隣り合うポーランドに、韓国は自然の流れとして軍事情報拠点を構築できるのかもしれない。
だが、核ミサイル計画に拍車を掛けるかもしれない北朝鮮の“派兵”に、韓国はさらに積極的に対応しようとしている。
ウクライナは北朝鮮兵士を収容する施設の計画をうたっているが、ウクライナが収容施設を用意するなら、韓国の政府筋は「北朝鮮の特殊部隊の戦術や戦闘能力を監視するために、人員がウクライナに派遣される可能性がある…派遣されるならチームは諜報部隊の軍人から構成されると予想され、北朝鮮の戦場の戦術を分析し、捕らえられた北朝鮮人の尋問に参加しうる」(聯合ニュース10月22日付)という。
韓国は、「諜報部隊の軍人」の派遣、「尋問参加」で何を得ようというのだろうか。
韓国は“自衛のための情報収集”に乗り出すのか
北朝鮮メディアは、韓国や日本の一部を射程としうる火星11A(KN-23)変則機動・短距離弾道ミサイルに“火山31”核弾頭を搭載して、核ミサイルにすることを明言している。
その火星11A(KN-23)は、発射後コンピュータ・プログラムに従って噴射の向きを調整して機動し、ミサイル防衛を避けて標的を目指すミサイルで、2024年1月からロシアがウクライナ攻撃に使用したミサイルでもある。
ウクライナ当局は、火星11Aミサイルの残骸を調べた結果として、「(ロシア製の)イスカンデル短距離弾道ミサイルにはEW(電子戦)に対する保護としてワイヤーの巻線があるが、火星11A(KN-23)にはそれがなく、ワイヤーが通っているだけだ」(UKINFORM6月1日付)との分析結果を公表した。つまり、韓国や日本を射程とする核ミサイルになるかもしれない火星11A(KN-23)は、電子戦対策がなされていないので、飛行中に強力な電磁波を照射されれば、発射前にインストールされたプログラム通りには飛べなくなる可能性があったということなのだろう。
もちろん、そのような問題点は北朝鮮やロシアに修正された可能性もあるが、他にも欠点があるかもしれない。それが分かれば、火星11A(KN-23)ミサイルを韓国や日本に着弾させないことにつながるかもしれない。ミサイルが届かなければ、核爆発による直接的な被害を免れたり、極小化できるかもしれない。北朝鮮のミサイルの残骸を調べ、それを入手することを、韓国政府が自国の防衛にとって急務と考えても不思議ではないだろう。
ちなみに、韓国国情院のプレスリリースには、ロシア軍が使用している火星11A(KN-23)以外の北朝鮮製兵器の画像も添付されている。こうしてみると、その画像は、韓国が自国の防衛のため、ウクライナの戦場で調べたい、入手したい“欲しいものリスト”のようにもみえてくる。
さらに、「(韓国)政府はまた、直接的な殺傷兵器の援助を行わないという政策からの転換として、ウクライナへの武器支援も検討している。…北朝鮮とロシアの軍事協力の兆候を見守りながら、段階的に対応策を講じていく」(聯合ニュース 10月20日付)とも報じられている。
韓国では、新型の玄武5型弾道ミサイルが量産に入っているが、射程は不明ながら「玄武5型の最大弾頭重量は8トンに達する。最近、北朝鮮が公開した『超大型通常弾頭(4.5トン)』を搭載したKN-23改良型のほぼ2倍で、地下100メートル以上深く隠れた北朝鮮の指揮部バンカーまで破壊できる威力」(韓国・東亜日報9月30日付)という。ウクライナに供与されるかどうかはともかく、韓国はこんな巨大ミサイルを生産しているのだ。
ロシアが北朝鮮軍をウクライナ軍との戦いに本格的に投入するなら、韓国はその“なりすまし”装備や部隊を調査し、入手したくなるだろう。さらに、韓国も精鋭装備をウクライナに投入するかもしれない。ウクライナ軍とにらみ合う戦場に大量に送り込まれた北朝鮮軍の将兵が捕虜となり、ミサイル等の装備等とともに消耗されれば、韓国が半島で対峙する北朝鮮戦力が減少することになるかもしれない。
言うまでもないが、事態の推移は、日本の安全保障にとっても無関係ではない。
(フジテレビ特別解説委員 能勢伸之)