10月25日、石川県とKDDIは、包括連携協定を締結し、石川県庁において、馳浩 石川県知事とKDDI 代表取締役社長CEO 髙橋誠氏による協定式が行なわれた。

 本協定は石川県内の地域活性化をはじめ、令和6年能登半島地震及び奥能登豪雨からの「創造的復興」の推進を目的としたもので、Starlinkやドローンといった先端の通信技術やデジタル技術を活用することで、石川県民向けのサービス向上に加え、強靱な地域作りを目指す。

石川県庁で行なわれた包括連携協定締結式には、馳浩 石川県知事(左)とKDDI株式会社 代表取締役社長CEO 髙橋誠氏(右)が出席した

KDDIを最強のタッグパートナーに

 今回の協定が結ばれた背景について、馳知事はKDDIが今年1月の能登半島地震に際し、600台ものStarlinkをすみやかに各地に配し、避難所でのWi-Fiサービスの提供やエリアの構築などにより、住民の命を守り、インフラとして道路に匹敵する重要な通信手段を確保するために、協力が得られたことを挙げ「これまで国における自然災害において、これほど信頼できる支援をいただいたことはまずなかったと思っています」と説明した。

包括連携協定を締結するに至った背景などを説明する馳知事

 また、馳知事は今回の包括協定によって実現を目指す行政のデジタル化は、行政のためではなく、住民の安全を守るために行なうものだとして、そのために今回の協定では、災害時だけでなく、平時からフェイズフリーで対応する内容になったという。「奥能登デジタルライフライン構想の軸は、KDDIさんの技術の活用にあります。引き続き、今後も力強い『最強のタッグパートナー』として、石川県の行政のデジタル化を推進していただくようにお願いします」と話した。

協定書に署名する馳知事と髙橋社長

署名した協定書を掲げる馳知事と髙橋社長

街の安心や安全を見守る「地域防災コンビニ」を展開

 KDDIは今回の協定締結に至る背景となった令和6年能登半島地震において、600台超のStarlinkを提供し、奥能登豪雨でも30台超を提供することで、石川県をサポートしたが、こうした活動が全国的にも注目を集めるきっかけとなり、その後、全国の各自治体からも問い合わせが来ているという。ドローンについても上空から被災地の状況を把握できるため、災害復旧時の橋梁点検や物資輸送、道路啓開支援などに役立てるとした。

能登半島地震と奥能登豪雨におけるKDDIの活動状況などを説明する髙橋社長

 また、髙橋社長は今回の協定で掲げられた「創造的復興」が非常にいい取り組みであることを強調した。「単純に元に戻すのではなく、創意工夫によって、より良いものを作り上げていくことが素晴らしい」とした。こうした創造的復興を推し進めることにより、今回の石川県との取り組みをひとつのモデルケースとして、今後、全国にも広めていきたいとした。

 さらに、地域の防災拠点にデジタル技術を導入したマルチハブを展開する計画を挙げ、石川県において、街の安心や安全を見守る「地域防災コンビニ」を開設する計画を明らかにした。KDDIが経営に参画したローソンに、Starlinkやドローンを配置し、災害時にはStarlinkで地域のネットワークをサポートしつつ、ドローンで河川や道路の状況把握など、さまざまな面で県民の暮らしを支える体制を整えるとしている。

被災したとき、住民がもっとも不安だったことは?

 協定式の終了後、馳知事と髙橋社長は揃って取材を受け、今回の協定についての思いや考えを説明した。

協定式後、取材に応じた馳知事は、KDDIに対し、「最強のタッグパートナー」として、石川県のDX化を推進して欲しいとアピール

 まず、今回の包括連携協定に対する期待を聞かれた馳知事は「道路など、形として見えるものについては、数千億円の復旧復興のための予算が付きます。しかし、住民のみなさんに『あのとき(災害時)、何が不安でしたか?』と聞くと、『何も情報が入らない、携帯電話がつながらない、何がどうなっているのか、自分たちがどういう状況なのかがわからないという恐怖感があった。そんな中にStarlinkを利用した通信サービスが提供されたことで、本当に生きる希望が見えてきた』というお声をたくさんいただきました」と説明した。こうした声を踏まえ、通信インフラについては数千億円の投資をしてでも住民の命を守ることが大切だと考えたという。

 また、能登が半島という地域であり、人口密度は高くないものの、山間地域や沿岸部に人々が住むことの意味合いを多くの国民にも理解して欲しいという。その理由として、自然環境に加え、国防という観点からも意味合いがあることを挙げた。大きな自然災害が想定されているなか「今回、能登半島で起きたことと災害を考えると、これまでの復旧復興と同じようなことをしていてはダメだ」として、KDDIとの包括連携協定によって、技術やインフラだけでなく、それらを活かすことで「住民を守り、行政の役割を補完するという、もっとも大きな部分を支えていただけることを本当に感謝しています」と述べた。

 一方、髙橋社長は今回の取り組みでStarlinkやドローンなどの技術に加え、コンビニエンスストアも組み合わせていることに触れ「こういう形の取り組みはなかなか日本全国にもなく、世界的にも例がない。新しい技術を使って、今回の石川県との取り組みのような事例は、日本だけでなく、世界に拡がっていくと思います」とした。

会場にはKDDIが運用するドローンとStarlinkの衛星アンテナが展示されていた

 また、今後に活かせる技術として、24日に発表したStarlink衛星とスマートフォンの間のダイレクト通信を挙げた。「実は、23日に実証実験を行ない、24日に発表したんですけど、衛星とスマートフォンの間でダイレクトに通信ができる時代がやってきます。最初はSMSだけですけど、何か災害があったときでも空が見えれば、どこでもつながるようになります。こういう新しい技術をどんどん知事さんにご提案して、包括的提携の中で実現させていきたいと考えています」と、今後の展望を語った。

髙橋社長が語る包括的提携への思い

協定式終了後、個別インタビューに対応した髙橋社長は、石川県との取り組みをモデルケースに、全国に展開していきたいと語った

 協定式の取材後、今回の石川県とKDDIの包括的連携協定について、髙橋社長に個別にお話を聞くことができた。

――今回の石川県との包括的提携は、能登半島地震が起きたことがきっかけという話ですけど、どういうやり取りがあったんでしょうか。

髙橋氏
 能登半島地震のとき、Starlinkを持ち込んで、県や自衛隊にお貸し出しをして、その後、石川県にご挨拶をしたのがきっかけです。ただ、震災のときはドローンが入れなかったんですよ。ヘリコプターとの干渉があるということで、制限されたんですけど、JALさんに出向している者が居て、そこのサポートを受けることで、豪雨のときは自衛隊と同じタイミングで入ることができたんです。

 実は、豪雨や大雨などのとき、これまでは河川の水位上昇って、現地調査をされていたそうですが、ドローンを飛ばすことで、リモートからも把握できたんですよ。今日、『創造的復興』というお話がありましたけど、災害が起きる前の段階、平時から新しい技術を活用すると、よりいい形になるんじゃないかというアイデアをいただいて、今回の話が進んだわけです。ちょうどローソンの話もあったので、ローソンの屋上にドローンポートを設けて、平時でも何か問題が起きたときは対応できるし、もちろん、有事にも活用できようになります。

 それから、23日に久米島で「D2C(Direct to Cell)」の実証実験がありましたけど、先般、フロリダでハリケーンの被害があったときも米T-MobileさんがD2Cを開放したところ、12万通のメッセージが送受信されたそうです。そういった事例も踏まえて、ご提案していこうと考えています。

――KDDIはローソンを経営する立場になり、今回もそれを軸とした展開ができるようになりましたが、石川県の方では具体的にどれくらいの規模で、今日お話があった「地域防災コンビニ」を展開されるのでしょうか。

髙橋氏
 まずは1店舗からスタートですね。能登半島にそんなにたくさんローソンを出店しているわけではないので、最初の店舗をモデルに社会的なひとつの形にして、横展開できればいいかなと考えています。

――今日のお話ではStarlinkとドローンの話題がありましたが、災害時はともかく、平時にはどのように活用されるんでしょうか?

髙橋氏
 Starlinkは平時の活用というより、災害時などに住民のみなさんにWi-Fiサービスを提供する形になると思います。

 ドローンについてですが、先日、Skydio(米国のドローンのメーカー)に行き、お話をうかがってきたんですが、ニューヨークやラスベガスでは911(日本の110番に相当する緊急通報)にコールがあったとき、すぐに現場へドローンが飛んでいき、現場の状況を把握し、それを警察官が確認できるという取り組みがニューヨークですでにはじまっていて、ラスベガスでもまもなくはじまるそうです。同じような取り組みを能登でもできるようにならないかと考えています。

――そういった取り組みは警察との連携も必要になりますね。

髙橋氏
 そういう意味では今回の提携が包括的なものになっているので、「防災」だけでなく、「防犯」にも対応できるようにしていこうということで、石川県にもご提案をして、話をしていくことになると思います。

――ドローンやStarlink以外に活かせそうな新しい技術はありますか?

髙橋氏
 先日、清水建設さんとの取り組みを北海道で取材していただきましたけど、北海道新幹線のトンネル工事では四足歩行ロボットがトンネル坑内を歩き、3D点群データをスキャンし、そのデータをStarlink経由で清水建設さんのオフィスにリアルタイムで伝送して、設計に活かすという取り組みをしています。

 トンネルの外でもドローンを飛ばして、同じようにスキャンした3D点群データをStarlink経由でリアルタイム伝送したんですけど、こういういろいろな技術を組み合わせて使うという手法って、実はStarlinkの人もビックリするんですよ。「こういう使い方があるのか」ってね。もしかすると、日本人って、こういうテクノロジーを組み合わせて使うのが上手なのかなって思っています。

 ですから、今後も新しい技術が出てくると思いますけど、単にそれを使うだけでなく、他の技術も組み合わせて、有効に活かしていきたいと思います。

――さまざまなITを活用していくとなると、人材が必要になりますが、地方での人材確保はどのように取り組まれるのでしょうか。

髙橋氏
 そうですね。昔に比べて、リモートでの対応がやりやすくなっているので、リモート対応ができることはリモートということになると思います。その一方で、いろいろな自治体さんから「人を派遣してほしい」というオーダーをいただくことが増えています。社内でもそういった人材の要望に答えるため、公募をかけていて、今年度も数件、増やしていくことになっています。

――今回は石川県と協定でしたけど、今後、こうした協定はどの程度まで拡げて行く考えでしょうか。

髙橋氏
 ご要望があれば、どんどん拡げて行けばいいと思いますよ。やっぱり、有事があったとき、対応できる地域が多くあった方がいいですから、今回の協定をモデルに、いろいろな自治体さんなどから、ご相談があるんじゃないかと思っています。

 先日、ローソンの「未来のコンビニ」を発表しましたけど、あれを見て、地方自治体からは「話を聞かせてくれ」というご依頼はいただいています。ですから、我々が稼働できる範囲で、拡げて行く形でいいと思いますよ。今日はありがとうございました。