過半数割れでどうなる

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 第50回衆院選は、メディア各社の開票速報によると、有権者は自公政権に対し、厳しい審判を下したようだ。

 「自民党派閥のパーティー収入不記載事件」を受け、選挙戦では「政治とカネ」の問題に関心が高まった。与党が勝敗ライン「自公で過半数(233議席)」を下回る見通しとなったことで、永田町は今後、波乱含みの政局に突入しそうな気配である。

石破氏の去就は?

 まず注目されるのは、石破茂首相(自民党総裁)が引責辞任するかどうかだ。

 1980年代以降の短命政権は、1994年に非自民連立で首相となった羽田孜(つとむ)政権の64日、1989年にリクルート問題で退陣した竹下政権の後を継いだ宇野宗佑(そうすけ)政権の69日がある。石破退陣となれば、これを上回る、たった1か月の超短命政権となる。

 もっとも、石破氏が即座に辞任するかどうかは微妙だ。

 そもそも自民党への逆風は、前の岸田政権から続くもので、さらに言えば「不記載事件」は、旧安倍派が震源地だった。自分一人にその責任を押しつけられるのは石破氏としては不本意だろう。

 党内に「石破おろし」の動きが起きるかもしれないが、首相指名選挙を行う特別国会は11月7日召集の見通しである。それまでの短期間に「石破おろし」の動きが自民党内でうねりをあげそうにはない。本来、「反石破」の旗振り役になる可能性があった旧安倍派の「裏金議員」の多くは落選の見込みが濃厚だ。

追加公認、「一本釣り」

 そうなると「当面、石破退陣がない」との前提で政局は動く。

 自民党内でいくつか手順が想定されている。

 特別国会に向け、まず自民・森山執行部が取りかかるのは当選者の「追加公認」だ。非公認だった当選者を追加で公認する。追加公認は手っ取り早い当選者の「かさ上げ」である。公示直後に党執行部が非公認議員が代表を務める支部に「2000万円」を給付したのも「追加公認」のための下慣らしだ。

 次は「保守系無所属」の当選者を囲い込み。自民入党を迫る。そのあとは、野党議員の「一本釣り」ではないか。

 「一本釣り」は90年代後半、自民党がしばしば使った手法だ。

 96年10月の衆院選で自民党は過半数に届かなかった。このため、当時の野中広務幹事長代理らが野党・新進党議員らの引き抜き工作を進め、単独過半数を回復した実績がある。当時、野中氏は自身のことを「釣り堀屋のオヤジ」と自嘲していた。

森山氏「連立枠組みの拡大」に言及

 これまでは小手先的な手段だが、少数与党のままだと政権基盤が危うい。

 そのため自民は「連立枠組みの拡大」に打って出る可能性がある。キーマンは森山裕自民党幹事長だ。

 選挙期間中、森山氏は、テレビ番組で意味深な発言をしている。

 「(与党が)過半数割れをしようとしまいと、同じ政策を持って、国の発展を図ろうという政党とは、協議は前向きにしていくべきだ」

 「政策的に一致することができれば、拒むことはあってはならない」

 森山氏の念頭には日本維新の会や国民民主党があるのはいうまでもない。

 ただ、衆院選で激しく角を突き合わせた直後だけに、両党が即座に連立入りする、というわけではない。実際、国民の玉木雄一郎代表や維新の馬場伸幸代表は記者団の質問に対し、連立入りを否定している。

 とりあえずは、来年通常国会の会期中、2025度予算案の衆院採決時あたりが「連立枠組み拡大」の一つの目安ではないか。これまで政府予算案に国民や維新は賛成した経緯がある。

 ここで一つ指摘しておきたい。自民にとって「国民の連立参画」は大きな意味がある。国民は立憲民主党とともに連合が有力支持基盤である。国民が連立に加われば、連合票を切り崩すことになる。連合を支持基盤とする国民、立憲両党は「また裂き」状態になる。

 連立の枠組み拡大とまではいかないが、与野党が政策ごとの部分連合(パーシャル連合)で連携するという選択肢もある。

 このほか永田町では、立憲民主党を加えた「与野党大連立」を指摘する向きもあるが、その可能性は極めて低いと見たほうがいい。政治を活性化させる「政権交代」の意味がなくなるからだ。

自民1強時代の終焉

 ただ、永田町は「一寸先は闇」だ。何が起こるかわからない。「55年体制」で敵対してきた自民党と社会党が手を結び「自社さ政権」(1994〜98年)を発足させたケースもある。

 第2次安倍政権(2012年)以降、「自民1強・野党多弱」の時代が長く続いた。今回の衆院選でその構図に変化が出てきたことは間違いない。それが政権交代につながるのかは今の時点では不透明だ。来年夏の参院選に向けて政局はさらに流動化しそうだ。(編集委員・吉田清久)