(※写真はイメージです/PIXTA)

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税務調査というと、「企業や個人事業主に対して行われるもの」と思っている人も多いのではないでしょうか? しかし、そんな「私には無関係」と思っている主婦や会社員の人こそ要注意です。48歳のAさんは、専業主婦にもかかわらず、多額の追徴税を課される事態に……。多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が、その理由と税務調査の注意点について解説します。

女性の税務調査官が放った「まさかのひと言」

48歳のAさんは、都内の企業に勤める会社員Bさんを夫にもつ専業主婦です。Bさんの収入は、月に45万円ほど。贅沢ばかりというわけにはいきませんが、日々の生活に不自由はありません。

Aさんは、2年前に母親を亡くしています。当時は悲しみからしばらく憔悴していましたが、だんだん立ち直ってきたところでした。

そんなある日のことです。Aさんは夫のBさんに、次のように話しました。

「お父さんから電話があってね。お母さんの相続税のことで、今度実家に税務調査に入ることになったらしいの……。なんだかよくわからないけど、お父さん1人で心細そうだったから、私も立ち会うことにしたわ」。

そんなに相続財産も多くないはずなのに、どうして税務調査なんか来ることになったんだろう……。Bさんは不思議に思いましたが、妻が調査に立ち会うことには賛成しました。

Aさんの母親は、親から引き継いだ賃貸物件を持っており、一定の家賃収入がありました。しかし、体調を崩し大病を患ったために、入院費用や介護施設の費用はこの家賃収入から捻出。

支出が大きかったことから、その後母が亡くなって相続が発生した際、母の財産は、賃貸不動産と約2,000万円の預金のみで、他の財産はありませんでした。

現在、その賃貸物件は父親が相続しており、Aさんが相続で得たものは預金の300万円だけです。

税務調査当日、和やかなムードでスタートしたが…

そして、税務調査当日。父親とAさんが緊張した面持ちで待っていると、男性と女性2名の調査官が、Aさんの実家にやってきました。初めての経験で落ち着きがない様子の父親とAさんでしたが、意外にも調査は和やかな雑談から始まりました。

しだいに緊張がほどけ、Aさんはおしゃべりになっていきます。聞かれるがまま、母親の経歴や生前の趣味について話すうち、話題はAさんが身に着けていた「指輪」へと移っていきました。

調査官「素敵な指輪ですね。とても品があって、よくお似合いです。お高いのではないですか?」

Aさん「いえいえ、これは私が買ったものではなく、母親の形見なんですよ。あまり趣味のない母だったんですが、こういう指輪だったりネックレスだったり、アクセサリーや宝石は大好きで。それぞれ思い出も詰まっているものですから、形見分けとして私がすべてもらったんです」

調査官「そうなんですね。ぜひ他のアクセサリーや宝石も拝見したいです。見せていただくことはできますか?」

Aさん「ええ、構いませんが……」。

(これは調査と関係あるのだろうか? 調査官自身の趣味だったりして……)内心疑わしい気持ちで、渋々母の宝石を見せたAさん。

しかし、調査官はしっかりこの宝石を鑑定していたのです。結果的に、Aさんが大事にしていた宝石には1,000万円ほどの価値があることがわかりました。

これらは相続税の申告に含まれていなかったことから、相続税や加算税などを含め400万円もの追徴課税が発生。この追徴税を支払うため、Aさんは泣く泣く大事な形見の一部を売却するはめになってしまいました。

「宝石」や「アクセサリー」も、相続財産の対象

相続税の課税対象となる財産は、お金に換算できものすべてです。このため、Aさんが身に着けていた指輪やも相続税の課税対象となります。

こうした財産は、それほど高価なものがない場合には「家財一式」としてまとめて10〜30万円程度で計上することが多いのですが、1つ5万円を超える家財については個別に評価する必要があります。

「宝石などの動産なら、申告しなければ税務署に見つからないのではないか?」と思う方もなかにはいらっしゃるかもしれませんが、Aさんの母のように購入回数が多い人のような場合、百貨店や宝石店の購入履歴や預金口座の動きから判明するケースが少なくありません。

では、故人がのこした宝石や指輪などの価値がわからない場合、相続税の申告時、どのように評価すればよいのでしょうか? 具体的には、下記の3つの方法があります。

1.買取業者に聞く

宝石の取引を行っている業者や質屋に査定を依頼します。査定は業者によってばらつきがあるため、複数の業者に依頼するとよいでしょう。宝石鑑定士が所属している業者ですと、なおおすすめです。

2.宝石を買ったお店に聞く

宝石を買った店がわかっていれば、そのお店に価格を問いあわせてみるのもよいでしょう。

3.実際の売却価格を使う

相続した宝石を売却した場合は、その価格を相続税評価額とします。

税務調査の件数は、年々増えている

最新の令和4事務年度の資料によると、相続税の実地調査率は5.4%となっています。

新型コロナウイルスの流行により一時減少したものの、コロナ禍が落ち着いたことで税務調査件数は増加傾向にあります。しかし、コロナ前は約12%だったことから、今後さらに税務調査は増えていく見込みです。

国税庁は、税務調査をする前に、しっかりと下調べをしてきているため、実際に調査に入られた場合には約9割が申告漏れを指摘されています。

ただし、税務調査は、相続税を申告したあとすぐに来るというわけではありません。内部で税務調査の対象者を選別したあと、申告から1〜2年経って調査が入るのが一般的です。

また、税務署の人事異動が7月にある都合上、税務調査は8月以降に本格的に稼働します。したがって、毎年秋ごろが税務調査が増えるシーズンといえます。

“雑談”に要注意!税務調査官の「3つ」の重視ポイント

税務調査において、調査官はどのような点に目を光らせているのでしょうか。考えられるのは、下記の3点です。

1.「和やかな雑談」で故人と相続人の暮らしぶりをチェック

「税務調査」といっても、強制調査ではない一般的な任意調査の場合、おおむね2名の調査官が朝の10時ぐらいに調査場所にやってきます。午前中は雑談のようにフレンドリーなムードで、亡くなった方の生い立ちや家族構成、仕事内容、相続人や孫たちの仕事や通っている学校などを聞かれることが多いです。

調査官はこの雑談のなかで、亡くなった人の暮らしぶりはどのようなものであったか、過去に勤務していた会社や趣味や相続人の暮らしぶりなどをさりげなくチェックしていきます。

午後になると、徐々に資料を確認しながら疑惑の相続税について質問をしていきますが、その回答内容が午前中の雑談でヒアリングした内容と一致しているかどうか、調査官は確認しながら質問を進めています。

したがって、午前中の雑談から税務調査は始まっているということは意識しておいたほうがよいでしょう。

2.故人と相続人の預金通帳

ほとんどの税務調査において、調査官は事前に亡くなった方(被相続人)と相続人の銀行口座を調べ、取引履歴をチェックしています。

したがって、預金通帳に100万円単位の大きなお金の動きがある場合は、あらかじめきちんと説明できるようにしておきましょう。

3.故人がいつまで自分で通帳を管理していたか

高齢になるにつれ、病気やケガの確率が高まり、自身で銀行口座を管理している人は減っていきます。入院されたタイミングなどで配偶者や子どもが通帳を管理することになるケースが多いです。

故人が生前認知症を患っていた場合など、通帳を管理していた相続人が私的に資金を使っていないかなど、調査官は相続人に対し説明を求めることとなります。

親の預金を管理することになった場合、ノートにメモを残すなどして、預金の流れをしっかり説明できるようにしましょう。また、税務調査対策だけでなく、相続トラブルなどで他の相続人から説明を求められることもあるため、メモは効果的といえます。

◆まとめ

相続の際、今回の事例のように形見分けとして動産を受け取ることも多いでしょう。金銭的に価値があるものの場合、相続税の申告に必ず含めなければいけません。

税務調査で財産隠しが見つかった場合、不足した相続税に加え重加算税という重いペナルティを課せられることもあるため、注意が必要です。

宮路 幸人

多賀谷会計事務所

税理士/CFP