「職場」のような厳しい圧力はない代わりに、じつは「精神の健康を害する危険性」を秘めている「プライベートな人間関係」

写真拡大 (全3枚)

日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。人生には、さまざまな困難が待ち受けています。

『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)では、各ライフステージに潜む悩みを年代ごとに解説しています。ふつうは時系列に沿って、生まれたときからスタートしますが、本書では逆に高齢者の側からたどっています。

本記事では、せっかくの人生を気分よく過ごすためにはどうすればよいのか、『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)の内容を抜粋、編集して紹介します。

人付き合いの圧力

成人期前期では、職場のフォーマルな関係だけでなく、家族や同僚、友人たちとのインフォーマルな関係も複雑になってきます。

学生時代までなら、気にくわない相手とは距離を取ればすみますが、いったん家族になったり、職場や地域との関係があったりすると、簡単に離れられません。

フォーマルな組織では義務や責任がベースとなっていますが、インフォーマルな付き合いでは、好き嫌いなどの感情がベースとなります。いわば気楽な付き合いで、共感や楽しさ、共通の価値観、親和性などが重視されます。

そこで必要になってくるのが、コミュニケーション能力です。表現力や理解力、傾聴力、共感力、知識や情報の豊富さなどで、「場の空気を読む」ことも重要です。これが不十分だと、相手の感情を害したり、共感が得られなかったりして、付き合いの中で浮いてしまいます。

インフォーマルな付き合いでは、職場のような厳しさはない代わりに、暗黙の了解や抽象的なルールがあって、参加者はそれに従わなければなりません。一対一の付き合いから、気心の知れた数人の集まり、趣味や地域を通じた大人数の集まりまで、形態はいろいろですが、当然、関係が良好なときばかりではなく、もめたり敵対したり、嫉妬や陰口や仲間はずれなど、イジメのような状況が起こることもしばしばです。参加者も常に平等というわけではなく、上下関係やマウントの取り合い、何気ない一言で傷ついたり、根に持ったり、喧嘩になったりということもあり得ます。

そういう意味で、インフォーマルな人付き合いも、精神の健康を害しかねない危険性をはらんでいます。

しかし、関係が良好であれば、職場や家庭の悩みなどを吐き出すことができ、慰めや励まし、有用な情報や智恵を得ることもでき、精神の健康を保つのに大いに役立ちます。

私自身、学生時代は友だちなんかいらないと思っていましたが、小説家になって医療小説を書きだすと、医学部時代の同級生がそれぞれの分野の専門家になっており、取材すると親切に答えてくれて大いに助かっています。やっぱり友だちは大事にしなければと、遅ればせながら痛感した次第です。

人付き合いが苦手、あるいは嫌いで、家族以外の付き合いをしなかったり、職場以外ではまったくひとりの生活を選ぶ人もいます。この場合は付き合いのルールに従う必要がなく、常に自分のしたいようにすごせるというメリットがあります。

デメリットとしては、悩みがあるときや、孤独を感じたとき、病気や借金や事故などのときにも、支えてくれる人がいなかったり、幅広い情報が入らなかったりすることがあげられます。

さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6〜7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。

じつは「65歳以上高齢者」の「6〜7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」