20代女性社員が愕然…あなたの隣にもいる「過大なノルマを部下に押しつける上司」の実態

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根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。5万部突破ベストセラー『職場を腐らせる人たち』では、これまで7000人以上診察してきた精神科医が豊富な臨床例から明かす。

保険会社の40代の男性上司は、部下を別室に呼びつけて「君の将来を思って言うんだが……」という枕詞を吐いた後、過大なノルマを押しつける。この上司は、現状を見れば達成できるとは到底思えない数字を示し、「これだけの契約を取ってくれば、上からの君の評価はうなぎ登りで、賞与にも反映されるし、今後も安泰。昇進できるし、給料も上がる。本当に君のためになるんだぞ」と熱っぽく言うそうだ。

ノルマを達成できないと実績報告書を提出

この上司が示すノルマは、まっとうな営業活動だけでは達成が無理そうな数字なので、部下の多くは家族や親戚、友人や知人などに保険への加入を懇願するらしい。とはいえ、どうしても限界がある。周囲の人に一通り保険に入ってもらったら、それ以上は頼みにくい。それでも、ノルマがあるからと、保険への加入をさらに懇願していたら、関係悪化につながりかねない。実際、周囲との関係が気まずくなったり、疎遠になったりした部下もいるようだ。

そういう事態を避けるためか、なかには保険料を肩代わりしている部下もいるらしく、経済的な自己犠牲を伴う営業、いわゆる「自爆」営業によって取れた契約がかなりの割合を占めているのが実態だという。

20代の女性社員もその一人で、家族や友人などに頼み込んで保険に入ってもらったものの、後が続かず、結局「自爆」営業に手を染めなければならなくなった。そのせいで、毎月かなりの額の保険料を自分で負担しなければならず、保険料を払うために働いているような感じさえして、この先やっていけるのかと不安を覚えずにはいられなかった。

そこまでやっても、ノルマ未達の状態が何ヵ月か続いた後、上司から「毎日午後5時に翌日やることをメールで報告し、それがどこまでできたかという進捗状況を当日退社する前にメールで報告しろ」と命じられた。この女性は、自分が一挙手一投足を監視されているみたいに感じた。しかも、進捗状況を見た上司から「あれもできてない。これもできてない」と責めるメールが毎日のように送りつけられてきて、出勤して上司と顔を合わせるたびに激しい動悸がするようになった。

それだけではない。あるとき、毎週月曜日の朝出勤したら、前の週の実績報告書を上司のデスクまで持ってくるよう指示された。最初の実績報告書を提出したところ、別室に呼び出され、「契約をなかなか取れない理由について話し合おう」と言われた。もっとも、実際には話し合いとはほど遠く、「なんでできないんだ」「毎日何をしているんだ」と1時間以上膝詰めで詰問された。

あげくの果てに、上司は「これまで契約が取れた顧客に別の保険への加入を勧めてはどうか。それくらいしか君がノルマを達成できる方法はないだろう。君のためにその候補リストを作っておいたから」と言って、保険の積み増しを依頼する顧客のリストを手渡した。

それを見て、この女性は愕然としたという。これ以上保険への加入を懇願しても、断られそうな相手ばかりだったからだ。それでも、実績をあげるために頼み込んで形だけでも保険に入ってもらうことができないわけではなかったが、この手段は必然的に彼女の経済的な自己犠牲を伴う。月々の保険料の負担がさらに増えるのかと思うと、暗澹たる気持ちになり、頭が痛くなった。そのせいで思考力も集中力も低下し、まともに営業活動をすることができず、実績報告書に記入できるような成果を一切あげられなかった。

翌週の月曜日の朝、この女性は一応出勤したものの、頭が真っ白になり、吐き気を覚えてトイレに駆け込んだ。とても勤務できる状態ではなかったので、実績報告書を提出できないまま早退した。

吐き気の原因を調べるために内科と産婦人科で検査を受けたものの、異常はとくに認められず、妊娠もしていなかった。そのため、紹介されて私の外来を受診し、「適応障害」の診断書を提出して休職することになった。

つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。

どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体