大谷はメッツとのシリーズで復調するのか? photo by AP/AFLO

いよいよワールドシリーズ進出をかけたメジャーリーグのポストシーズン・リーグチャンピオンシップシリーズが開幕。ナ・リーグはロサンゼルス・ドジャースとニューヨーク・メッツの対戦となったが、サンディエゴ・パドレスとの地区シリーズで苦しんだ大谷翔平の復調はあるのか? 威力を発揮したブルペン勢はメッツにも通用するのか。

今年のMLBポストシーズンのデータを踏まえながら占う。

【ふたりの投手に完敗を喫したパドレス戦の大谷】

 サンディエゴ・パドレス相手の地区シリーズ、大谷翔平のバットが振るわなかった。第1戦でディラン・シースから本塁打をかっ飛ばして以来、目立った活躍はなし。5試合で長打は1本だけ。20打数4安打2四球、打率は2割で出塁率も273、10個も三振を奪われた。このため、『ロサンゼルスタイムズ』紙は「7億ドルの契約に見合わない結果」と辛口。1番打者としても、走者なしの状況で14回打席に立ったが、出塁することは一度もなかった。公式戦で59盗塁を達成したスピードも活かせなかった。

 浮き彫りになっているのは、ふたりの投手に抑え込まれたということ。対ダルビッシュ有が6打数0安打、3三振。リリーフ左腕タナー・スコットに4打数4三振である。ふたりとの対戦を除くと10打数4安打で、必ずしも不調だったわけではない。

 スコットはパドレスのAJ・プレラー編成本部長が、大谷用の刺客としてトレードデッドラインで獲った選手。公式戦中の対戦成績も9打数1安打だった。角度のついた平均97マイル(155km)の直球と、空振り率38.8%のスライダー、これを今回打てなかったのは仕方がない。ダルビッシュについては8つの球種を駆使し、そのうち空振り率40%を超える変化球がひとつ、30%がふたつ、25%が3つもある。第5戦でダルビッシュから先制本塁打を放ったキケ・ヘルナンデスは「球種が多く、コントロールもいい上に、投球フォームでタイミングを狂わせることもできる。足を上げるタイミングがわかりにくいし、ジョニー・クエト(変則フォームが代名詞の今年38歳のベテラン)からヒントを得たように、途中で2度モーションを止めたりする」と攻略の難しさについて解説した。

 ダルビッシュは「試合が始まってからいろいろ考えていくのが自分のやり方、それがうまく出せてよかった。球種だけじゃなく、反応やスイングを見ながら、セット(ポジション)に入ってから長くボールを持ったりとか、足の上げている時間を変えたり、足を上げてからゆっくり出ていったりとか、工夫しました」と説明する。

 大谷のバットに当たった3打席も打球速度90.2マイル(144km)、46.9マイル(75km)のゴロ、94.4マイル(151km)のポップフライ。シーズン中95マイル(152km)以上のハードヒットを、メジャー最多の288本も記録した大谷らしさがまったく出せなかった。

 デーブ・ロバーツ監督は大谷がダルビッシュを打てなかったことについて、シリーズ勝利を収めたことによる安堵も踏まえて、こう表現した。

「子供の頃のヒーローと対戦するのがどんな感じなのかはわからない。彼の感情に関しては、本人に聞いたほうがいい。ただ今回は今まで以上にボール球を追いかけていた。それがダルビッシュの影響かどうかはわからない。ただダルビッシュともう対戦せず、前に進めるのは喜ばしいことだ」

 ポストシーズンゲームが公式戦と違うのは、休みの日が多く、ゆえに相性がいいと思えば、同じ投手を集中して当てられることだ。パドレスのマイク・シルト監督はそこを利用し、公式戦で対大谷5打数3安打の松井裕樹はいっさい起用せず、打つのが難しい投手を大谷に当て続けたのである。

【大谷が苦手とする投手はメッツにいない】

 さて、それではリーグチャンピオンシップシリーズの相手となるニューヨーク・メッツはどうかというと、大谷が特に苦手にしている投手はいない。

 第1戦先発の千賀滉大は日本時代に2本塁打でOPS(出塁率+長打率)は.936だし、第2戦先発のショーン・マナイアも左腕だが、メジャーで通算7打数2安打2四球、出塁率.444と相性は悪くない。第3戦先発が予想されるルイス・セベリーノも1本塁打を含む6打数3安打だ。ブルペンにもスコットのような癖のある左腕はいない。

 左腕で起用法が気になるのは、元々先発のデービッド・ピーターソンだ。メッツのカルロス・メンドーサ監督は、ワイルドカードシリーズのブルワーズ戦では試合の終盤にピーターソンを使いセーブを挙げさせ、フィラデルフィア・フィリーズとの地区シリーズでは、第1戦では千賀の後に2番手で登板、第4戦では6回途中から出てきて7つのアウトを奪い、クローザーにバトンを渡した。シンカーやスライダーを駆使しゴロを打たせるタイプで、ここまでポストシーズン3試合、6.1イニングで無失点だ。メッツの投手陣でカギを握る存在になるのかもしれない。大谷との過去の対戦成績は7打数2安打である。

 メッツのクローザーは直球とスライダーが武器のエドウィン・ディアス。今季は制球が不安定で防御率3.52といまひとつ。メッツの救援投手はディアスを含め、今季ナ・リーグで最も高い四球率(10.8%)で、ポストシーズンではさらに四球率が悪化(12.4%)している。いくら球が速くても制球難の投手なら大谷は打つだろう。手こずる可能性があるのは第2戦先発の左腕マネイア。スリークォーターの角度から投げていたが、8月から腕の角度をさらに下げ、横手投げに近づき、アトランタ・ブレーブスのクリス・セールのようなフォームになった。左打者にはシンカーとスイーパーで攻める。ボールの出どころが見にくいのは確かだろう。

【データに裏付けされたブルペンデーの威力】

 リーグチャンピオンシップシリーズでドジャースがメッツを倒すには、地区シリーズのようにブルペンが大活躍することである。ご存じのように、ドジャースには信頼できる先発投手がいない。山本由伸は地区シリーズ第5戦で5回無失点の好投を見せ勝ち投手となったが、ゆえに優勝決定シリーズは早くても第4戦の先発になる。第3戦だと、メジャーに来てから1度も経験していない中4日登板になるからだ。

 そして第4戦からなら、シリーズが第7戦までもつれた場合でも、1度しか登板できない。となると第1戦先発のジャック・フラーティと第2戦先発が見込まれるウォーカー・ビューラーが2試合ずつ先発し、さらに2試合はブルペンデーになると思われる。ドジャースのブルペンはいい。5月と6月の防御率は2点台で、7月は5点台と調子を落としたが、シーズン終盤には安定した。ブレーク・トライネン、アンソニー・バンダ、マイケル・コペック、アレックス・ベシア、エバン・フィリップス、ダニエル・ハドソンの6人はレギュラーシーズンで合計302回1/3を投げ、防御率2.53。ポストシーズンでも好調を維持している。

 パドレスとの地区シリーズ、パドレスが挙げた21得点のうち、15点はドジャースの先発投手(山本、フラーティ、ビューラー)から奪ったもの。ドジャースのブルペンが許したのは6点。6点のうち4点は、10対2で敗れた第2戦で、信頼度の低い(勝ちパターンでは使わない)マイケル・グローブとエドガルド・エンリケスが献上した。第4戦はご存じのようにブルペンデーで8投手の継投で8対0と快勝、シリーズの流れを変えた。公式戦でもドジャースがブルペンデーとして戦った8試合は、5勝3敗、防御率2.92の好成績である。

 ブルペンデーの有効性は、セイバーメトリクス(データを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を分析する手法)の世界ではすでに証明されている。今の野球ではトップクラスのリリーフ投手は、トップレベルの先発投手が打線の1巡目に投げる時よりも長打率、OPSを低く抑えている。そして2番手クラスのリリーフでも、トップレベルの先発投手が2巡目の打者に、また2番手レベルの先発投手が1巡目の打者に投げる時よりも打者を抑えている。さらに言えば、3番手クラスのリリーフは、2番手レベルの先発投手が2巡目、3番手レベルの先発投手が1巡目に投げる時よりも打者を抑えられるといった具合だ。これらはすべてデータに出ている。

 ちなみに50年前は違った。トップレベルの先発投手は打線の1巡目でも2巡目でも、そして2番手レベルの先発投手は1巡目に対して、トップクラスのリリーバーよりもしっかり抑えていた。しかし今はリリーフ投手のレベルが飛躍的に上がり、立場が逆転した。

 メジャーの試合を見ていると、まずまずのピッチングをしていた先発投手が5イニングを投げきらせてもらえず、勝ち投手の権利を得る前に交代させられることがよくある。それは監督が非情ということではなく、先発投手を3巡目の打者に当てるより、リリーフに代えたほうが結果がいいとデータではっきり示されているからだ。とりわけポストシーズンについては、首脳陣は勝つためにいかに27個のアウトを取るかを論理的に考え、プランを立てる。先発投手に少しでも長いイニングを投げてほしいとダグアウトから祈るような視線を送るのではなく、どんどんブルペンに代えていく。とりわけポストシーズンは移動日の休みがあるから、パドレスがスコットを5試合中4試合で大谷に当てたような起用が可能になる。

 とはいえ、首脳陣が気をつけなければならないのは、ブルペンを使いすぎて疲弊させてしまうことだ。第1戦のフラーティ、第2戦のビューラーの降板後、ブルペンは4イニング前後を投げるだろう。そして移動日を挟んで第3戦はおそらくブルペンデーである。疲弊させないためには、この試合は勝てないと判断すれば、4番手の先発と目されていたブランドン・ナックをロングリリーフで敗戦処理に回すなど、状況の見極めが重要だろう。

 順番どおりに事が進めば、第7戦もブルペンデーになる。7試合、189個のアウトのうち、ブルペンが半分以上を取らねばならないが、トライネン、バンダ、コペック、ベシア、フィリップス、ハドソンをいいコンディションに保ち、彼らの取ったアウトが確実に勝ちにつながるようにしたいのである。