9月5日に幕を開けた2026年ワールドカップのアジア最終予選。中国をホームに迎えた初戦を7-0で大勝すると、戦いの場を中東に移して4日後(9月10日)に行なわれたバーレーンとの第2戦も5-0で撃破。日本代表はこれ以上ない、幸先のいいスタートを切った。

 そして迎えた10月シリーズ。第3戦は10月10日にアウェーでサウジアラビアと戦い、その5日後にはホームに戻ってオーストラリアとの第4戦に臨む。

 今後の勢いに大きく影響を及ぼすサウジアラビアとのアウェーゲーム。日本代表は2-0という最高の形で開幕3連勝を果たした。勝利のカギとなった要因を、佐藤寿人氏が語ってくれた。

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サウジDFとの力勝負にも負けない上田綺世 photo by AFLO

 サウジアラビアとのアウェーゲームは過去に3戦全敗で、しかもひとつもゴールを奪えていないことから「鬼門」とされていました。僕も2006年にアジアカップ予選でサウジとのアウェーゲームを経験し、0-1で敗れています。その時もやはり独特の雰囲気がありましたね。

 とにかく暑かったですし、なんでもないプレーからピンチを招くこともありました。見えないプレッシャーがかかり、相手には大声援が後押しになっていたのでしょう。今回の試合は現地に行けず、画面越しで見ることになりましたが、それでもアウェーの圧力は伝わってきました。

 この10月シリーズは今回の予選の山場と言えるもので、特に初戦のサウジアラビア戦は、多少は苦戦するだろうと予想していました。

 日本は3バックを継続した一方、サウジアラビアは3バックから4バックに変えてきたことで、日本はそこにアジャストするのに立ち上がりは苦労していたようでした。

 これまでの2試合は、うしろの3枚が比較的自由にボールを前に運べていましたが、サウジアラビアがそこに対してプレッシャーをかけてきたことで、運ぶことが難しくなっていました。

【最適解を見つける守田のインテリジェンス】

 そこでカギを握ったのは、ボランチのふたりです。遠藤航が降りてきてプラスワンを作り、守田英正がアンカー気味に振る舞うことで、時間の経過とともにプレス回避はスムーズになっていきました。

 とりわけ、守田の位置取りは秀逸でした。試合後に本人も話していましたが、初期配置のところでうまくいかない時に、2次配置によってプレスをかわして前進させていこう、という狙いがあったようです。

 どういう立ち位置を取ったら、相手の守備がハマらなくなるか──。常に考えながらポジション取りし、しかもボールを受ければプレーを前に選択できる。スペースが空いていれば運べるし、前の味方がいい状態であればしっかりとつけることもできる。

 ピッチの上で最適解を見つけることのできる守田のインテリジェンスあふれるパフォーマンスが、サウジ攻略のポイントだったと思います。

 その守田が絡んだ先制点は、連続して攻撃のスイッチが入った、いい崩しのゴールでした。最終ラインからボールを引き出した守田の縦パスをきっかけに、南野拓実→堂安律とつながり、逆サイドの三笘薫に展開。三笘はダイレクトで折り返し、ゴール前まで駆け上がった守田の落としを、鎌田大地がうまく押し込みました。

 膠着した時間のなかで、縦に入れて幅を取りながら相手を揺さぶり、中央に侵入する形は9月シリーズでも見られましたが、今回も完璧に局面を打開した見事な得点だったと思います。サウジアラビアとのアウェーゲーム過去3戦では一度も攻略できなかったゴールを早い時間帯にこじ開けられたのは、本当に大きかったですね。

 両ウイングバックが得点に絡むシーンが多いのは、いわゆる攻撃的な3バックシステムが機能している証拠だと思います。一方でうしろを3枚にすることで、局面を打開されたり、背中を取られるシーンというものは、どうしても出てきてしまう。それは選手たち自身も覚悟していることでしょう。

 ただし、最終的にボックス内に侵入されても、身体を張ったり、しっかりと寄せて守りきれるのが、今の日本の強みだと思います。チーム全体の守備意識の高さは、森保一監督が最も求めているところでしょう。世界でトップを取るためには、全員が守備に関われないといけない。守備ができないと、ピッチに立つ資格がないくらいの感覚ではないでしょうか。

【これまでと違う森保監督の起用法】

 どうしても攻撃のところがフォーカスされがちですけど、先日、森保監督にインタビューした時も、「いや、守備もいいんだよね」って話されていたんです。

 3枚にすることで厚みのある攻撃ができるけど、裏を返せばリスクも大きい。では、どうやってリスクを軽減するかは、個々の意識や対応力になります。この試合でも何度か危ないシーンもありましたが、最後のところはやられなかった。

 堂安と三笘のウイングバックは守備もサボらなかったですし、うしろの3枚も対人で負けなかった。彼らの能力であれば、このレベルの相手にはやられることはない。それくらいの落ち着きと安心感が感じられました。彼らは日常的に高いレベルでやっているわけですから、アジアでの戦いであれば、慌てるようなことはそれほどないんじゃないかと思います。

 森保監督の起用法にも、これまでとは違うポイントがありました。伊東純也と前田大然をウイングバックに入れ、堂安と三笘をシャドーに回した采配です。

 やはり今の形だと、ウイングバックの負担が大きいため、フレッシュな選手をそこに配置することで、守備の強度と縦への推進力を担保したのでしょう。特に前田はあの時間帯に入って、相手の右サイドの攻撃を完全に消していました。

 面白いオプションになり得るなと感じられましたし、最終予選のなかで結果を出しながら、同時に引き出しを増やす作業も継続していく。森保監督の大胆さと、それに応える選手の能力を感じられたという意味で、本当に"したたかな戦い"を見せたと思います。

 個人的にはストライカーとして、上田綺世のプレーに注目していました。

 上田はゴールこそなかったですが、背後へのアクションを何度も繰り返し、相手の最終ラインを押し下げる役割を担っていました。彼の動き出しと動き直しが、 最終的には攻撃の推進力を作り出したと思います。

 押し込まれる時間帯では孤立する場面も見られましたが、サポートがない状況でもロストはほとんどなく、むしろ相手のボールになりそうな局面でも身体を張ってファウルをもらったり、なんとか味方へとつなげるプレーも見せていました。

 あの身体の強さは特筆すべきで、今回のサウジ戦もそうですけど、中国戦でシュート0本に終わりながら、次のバーレーン戦にスタメン起用されたのを見ると、監督のなかでは、上田に対する信頼感はかなり大きいと感じられます。

【ストライカー不足が叫ばれていたが...】

 上田に代わって入った小川航基は限られた時間で、しっかりと結果を出しました。ここに今回はイングランドで好調を維持する大橋祐紀も初選出されています。かつてはストライカー不足が叫ばれていましたけど、切磋琢磨の関係性が生まれているこの9番のポジションは、今、すごくいい状況にあるなと感じています。

 中国、バーレーンとの過去2戦に比べれば、スコア的には派手さはなかったですが、アウェーでサウジ相手に隙を与えず勝ちきったところに、あらためて日本の強さが感じられました。システムも含め、相手がいろんな対策をしてきたなかでも、それを上回るクオリティを発揮した。以前であれば浮足立っていたかもしれないですが、動じることなく大人のサッカーをしたという印象です。

 これで3連勝を達成し、しかも14得点・無失点という圧倒的な戦いを見せています。次はホームでオーストラリアと対戦しますが、相手は監督が代わったばかりなので、情報があまりないという意味では、日本にとって難しさはあると思います。

 オーストラリアは、先日の中国戦では3-1と逆転勝利を収めていますが、おそらくその試合でも採用された3バックでくるのではないでしょうか。日本からすると、同じシステムで見る選手を特定されたほうが、もしかしたら嫌かもしれません。ただそれでも、サウジ戦と同様に対策を講じられても、それを上回る戦いを見せてくれるのではないでしょうか。

 森保監督は当然、少しの隙も与えずに勝つことしか考えていないでしょうけど、そのなかでもまたいろんな変化を見せてくれるんじゃないかという期待感もあります。

 一方で、アタッキングサードのところでは誰が出ても高い質を見せてくれているんですけど、中盤でゲームを作っていく部分では、現状では遠藤と守田の2人の負担が大きいと感じています。

 不安要素と言えば大げさかもしれないですが、彼ら以外の選択肢も生まれてくると、今後の戦いに向けて大きいのではないでしょうか。結果はもちろん、新たなタレントの台頭も楽しみにしたいところです。


【profile】
佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。