【連載】有村智恵のCHIE TALK(第10回・前編) 

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有村智恵がヤマハとクラブ契約を結んだのは2017年。そこから長年に渡り、有村プロのクラブをフィッターとして支えているのが、ヤマハRMXブランドディレクターの梶山駿吾氏だ。実際に有村プロからはどのような要望があったかのか。有村プロとの対談で、トッププロを支えるフィッターの役割を深堀していく。

【「なんか重い」の女子プロと「あと2グラム軽くしてほしい」の男子プロ】

――有村プロと梶山さんはどのようにお仕事をされてきたのですか?

有村 2017年でしたよね、契約させていただいたのは。梶山さんもポジションがいろいろ変わってきていると思うのですが、最初はプロ担当として、ですよね?

梶山 有村プロがクラブ契約された時はプロ担当でした。ツアーの現場で有村プロが試合に出る時に、練習日などにクラブ調整をするのが主な仕事です。

有村 私のクラブを選んで、組んで持ってきていただいていて、その後、数年後には開発も担当されるようになりました。一からクラブを一緒に考えて作るっていうところもやっていただいていて、私たちのヤマハ契約の選手のクラブをすべてサポートされている感じですよね。

梶山 すごいように言おうとしすぎて、スケールが大きくなってる(笑)。

有村 私も梶山さんが異動になるまでわかってなかったのですが、プロ担当の人がクラブの全部をやってくださっていると思っていたら、開発の方もいて、ある程度のベースができた状態から、そのプロに合わせた"削り"があることを知らなくて。(プロ担当が)どちらも全部やっていると思っていたのですが、いろいろな部署の人たちがいるんだ、ということを梶山さんの異動で知って。でも、じゃあ梶山さんは最初から最後まで全部やってくれていたんだというのも、そこで初めて知りました。

――有村プロにとってのゴルフクラブとは?

有村 私は特に技を使うタイプのゴルファーなので、自分の感覚がクラブで体現できるかどうかはすごく大事です。ただ飛ぶ、とか、ただ直進性が高い、とかではなく、ちょっと微妙な動きで、こういう入り方をした時に、こういう球が出ないといけない。例えば、曲がり幅もそうなんですけど、ちょっとスライスをかけたい時に曲がりすぎないとか、逆に高く上げたり、低い球を打ったりっていうのも、微妙なニュアンスがすごく大事なので、思い通りにいくクラブをずっと追求していて。ヤマハさんに、「思い通りに打てて、なおかつ飛ぶクラブがいいです」みたいな無茶な要望をずっと出しているような人間です。なので、梶山さんもすごく大変だと思います(笑)。

――実際に有村プロからはクラブについてどのような要望がありました?

梶山 ざっくり分けてしまうと、"ゴルフクラブに対する要求"が男女プロで分けられるかなと思っていて。どちらかというと、男子プロは数値的な形で言う傾向が強いんです。逆に女子プロは感覚で物を言う選手が多いんですね。簡単に言うと、「なんか重い」と言う女子プロと、「あと2グラム軽くしたい」と言う男子プロ、という感じです。ですが、有村プロの場合は(要望が)両方あるんですよね。

【同じヘッドでもプロが見たらちょっと違う】

有村 そうなんだ。わかんない(笑)。

梶山 (有村プロは)かなり感覚も研ぎ澄まされているので、感覚で物を言うこともあります。「この辺で来ないんですよ」という抽象的な表現になる時と、「あと1グラムぐらいの鉛を貼ったら変わるかな」と表現をすることの両方があるので、男子プロと女子プロ、両方の感覚を持っているのが有村プロです。まあ、すごい面倒くさい(笑)。

有村 ちょっと!(笑)

梶山 ではなく、すごいトップアスリートだな、という印象ですね(笑)。

有村 確かに、他のツアープロ担当の方は「これはこういうクラブです。こういう動きをします」と言って渡してくださることが多いんですけど、梶山さんは私の反応を見るのが好きだから、「何も言わないからとりあえず打ってみて」と言って持ってくるんです。実際に打ってみて、「ちょっとこういう感じがします」と返したら、「正解!」とか言って、答え合わせをされて。

梶山 本当に(有村プロの)感覚にマッチしているのかをこっそり確認したいっていうのもありますし、有村プロは理解力が高いので、先に何かを言ってしまうと先入観が入るんですよ。例えば「これは右に行きにくいクラブだよ」と言ってしまうと、「右に行きにくいんだ」と思いながら打つので。そういう先入観を植え付けたくないのもあります。

有村 最初に「こういう動きをします」と言われたら、私もそういう動きをさせようとするんですよね、スイングのなかで。

 だから、梶山さんみたいに、とにかく何も聞かずに「いつも通りのスイングで打ってみて」と言ってもらって、打った時に「(このクラブは)こうかも?」と感じる方が自分には合っているかもしれません。結局、いつも通りのスイングでうまく打てないといけないじゃないですか。でも、やっぱりプロゴルファーだから、なんとなく「こういう動きをさせてみてください」と言われると、それに合わせられちゃうんですよね。

 ですが、いざ試合で自分の思い通りに振ろうと思ったら感覚が違った、ということが多々あって、そのたびにクラブを作り直してきていました。何も先入観なく打つことが大事なのに、そこに発想が行き着かなかったんですよね。

 それと、プロゴルファーはみんなそうだと思うんですけど、クラブを試す時は練習日が多いので、リラックスもしている分、うまく打てることの方が多いんです。

 試合にはすごく細かい微調整をしてから臨むので、その微調整がクラブに伝わらなかったり、リラックスして打った時はあんなにうまく打てたのに、シビアな状況だとクラブが思い通りに動かない、と感じることが本当に多々あって。特にドライバーだと、ヘッドの形もそうですし、バランス、つまり重さをどこに置くか、加えて何のシャフトを選ぶかでも、組み合わせは数えられないぐらい、何万通りどころじゃないですよね。

梶山 そうですね。

有村 ツアー担当の方が、この選手はたぶんこういうのが好きで、こういうのが合うっていうのをある程度わかってくれていないと、選手もクラブ選びだけで練習が終わっちゃうんですよ。

 メーカーさんは同じように作っているんだけど、(個体差で)ちょっとずつ顔が違ったりするんです。普通の人が見たらわからないと思うんですけど、プロが見たら、同じヘッドだけどちょっと違う、ということが出てくるので。そのなかから、このプロはこのヘッドが好きだな、という感覚は、ツアー担当の方のセンスやフィーリングによりますよね。

梶山 クラブは各社、ウチもそうですけど、やっぱり物は全部いいはずなんですよ。そのなかから、プロに合わせる担当者やクラブを作る人間が、どれぐらいプロを理解できているかはすごく重要になってくると思います。

【ヤマハならではの"音"へのこだわり】

有村 フィーリングが合う人だと、持ってきてもらった物でヘッドはもうOKで、すぐにバランスをどうする、シャフトをどうする、みたいな話に移れる。ツアー担当さんは大きな使命を抱えていらっしゃいますよね。

(ツアー担当に)契約選手が何人もいると、その時々でやっていることや悩みがみんな違うので、そこに合わせたクラブも作ってないといけない。ゴルフの知識もないといけないし。あ、梶山さんはゴルフ上手いんですか?

梶山 ゴルフはやっていましたけど、別に上手くはないです(笑)。

有村 やってらっしゃることは知っていましたけどね(笑)。やっぱり経験者は多いんですか?

梶山 経験者は多いですが、必ずしも、ではないです。ただ、プロと話すには、ある程度ゴルフのフィーリングやスイングのことまで考慮できた方が有利ではあるかもしれません。

有村 ヤマハならではの音楽事業があるじゃないですか。私は決め手が"音"だったんですよ。打音というか、打感とも紙一重なんですけど、この感じの音がいいな、が合っているんだったら、微調整すれば絶対いいクラブに出会えるっていう感覚があって。それを伝えたら、やっぱり音楽の会社だから、音にはこだわりがあると感じて。工場に音を測る部屋がありますよね。

梶山 無響室のことかな。まったく音が響かなくて、単純にどういう音が出ているかを測る部屋で。

――打音でクラブを選ぶ選手は多いんですか?

梶山 もちろん、最低ラインというか、ドライバーだったら飛ばなきゃいけないとかはあるんですけど、その中で最終的に何をプラスアルファとして選ぶか。ウチを選んでいる選手は、たまたまかもしれませんが、打音、つまり打感で選んでくれています。打音と打感はイコールなので。

有村 ほぼ一緒ですね。

梶山 ヘッドホンをして球を打つと、打感ってほぼわからない。

有村 そうなんですか? 

梶山 プロゴルファーだと素材で(打感が)わかるかもしれない。ですが、耳から入ってくる情報は打感に直結するので。打音で選んでいる、という人はそんなに多くはないかもしれないけど、大事な要素だと思うんですね。

(つづく)

【Profile】有村智恵(ありむら・ちえ)
1987年11月22日生まれ。プロゴルファー。熊本県出身。
10歳からゴルフを始め、九州学院中2年時に日本ジュニア12〜14歳の部優勝。3年時に全国中学校選手権を制した。宮城・東北高で東北女子アマ選手権や東北ジュニア選手権、全国高校選手権団体戦などで優勝。2006年のプロテストでトップ合格。2007年は賞金ランク13位で初シードを獲得した。2008年6月のプロミスレディスでツアー初優勝。2013年からは米女子ツアーに主戦場を移した。2016年4月の熊本地震を機に日本ツアーへ復帰。2018年7月のサマンサタバサレディースで6年ぶりの優勝を果たすなど、JLPGAツアー通算14勝(公式戦1勝)をあげる。
2022年に30歳以上の女子プロのためのツアー外競技「LADY GO CUP」も発足させた。
2022年11月に、妊活に専念するためツアー出場の一時休養を表明。2024年4月に双子の男の子を出産した。