判断能力が低下した人の財産の管理や身上監護を代理する任意後見人を、定期的に監督するのが任意後見監督人の役割です (c)Getty Images

高齢化に伴い、判断能力が低下した高齢者のサポートに大きく役立っているのが成年後見制度です。成年後見制度には法定後見と任意後見があります。任意後見では、本人の財産管理や身上監護を行う任意後見人のほかに、その任意後見人に目を配る任意後見監督人の存在も不可欠です。任意後見制度で重要な役割を担う任意後見監督人の仕事内容や報酬、選任手続きについて、司法書士がわかりやすく解説します。

1. 任意後見制度とは

任意後見制度は、将来、認知症や障害によって判断能力が低下した場合に備えて、自分の財産管理や身上監護を任せたい人を任意後見の受任者として定めておく制度です。

預金口座の管理や介護サービスの手続きなど、将来支援してもらいたいことを決めて、任意後見の受任者との間で任意後見契約を結びます。あらかじめ信頼できる人に任せたいことを頼んでおける点において、柔軟な選択ができる制度と言えます。

ただし、任意後見契約が締結されても、任意後見人の業務がすぐにスタートするわけではありません。任意後見契約の締結後、本人の判断能力が低下してきたときに、本人や任意後見人の受任者、つまり任意後見人となる人が家庭裁判所に申し立てをして、任意後見監督人を選任してもらいます。

任意後見監督人が選任されることにより、任意後見契約で取り決めた内容が発動し、任意後見人の業務がスタートします。それまでは、任意後見人は任意後見業務を行うことができないため、任意後見契約とセットで「見守り契約」を締結して、将来任意後見人となる人が本人と定期的に面談するなどして、見守りを行うケースが多いです。

【関連】 任意後見制度とは 活用すべき人、法定後見との比較、手続きなどを解説

2. 任意後見監督人とは

任意後見制度において、本人の判断能力が低下したあとに家庭裁判所で選任されるのが任意後見監督人です。

2-1. 任意後見人を監督する

任意後見監督人は、家庭裁判所に代わって任意後見人の業務を監督する役目を担います。任意後見人から任意後見業務の内容に関する報告を受けることにより、不正がないかを確認し、財産管理などが適正に行われているかをチェックします。

2-2. 任意後見人との違い

任意後見人には、自分の信頼できる人を選ぶことができます。一方、任意後見監督人の選任は家庭裁判所の判断に委ねられます。任意後見監督人の選任を申し立てる際に任意後見監督人の候補者を立てることはできるものの、家庭裁判所が必ずしもその人物を選任してくれるとは限りません。

2-3. 任意後見監督人になれる人、なれない人

任意後見監督人には、弁護士や司法書士といった法律専門職が選任されるケースが多いものの、法律上は法律専門職でなければなれないという規定はありません。

一方、任意後見監督人になれない人は以下のとおりです。

①任意後見人(任意後見の受任者)
監督される人とする人が同一人物であると、監督する意味がありません。

②任意後見人(任意後見の受任者)の配偶者、直系血族、兄弟姉妹
任意後見人と近い関係の人物では、客観的な視点で監督できない可能性があります。

③本人に対して訴訟を起こしたことがある人、その配偶者、直系血族

④未成年者

⑤破産者で復権していない人

⑥行方不明の人

③~⑥は、本人の利益を保護する任意後見の目的にふさわしくない人をあらかじめ欠格事由として規定しています。

任意後見監督人の立場と業務を図解。家庭裁判所に代わって任意後見人を監督する

3. 任意後見監督人の仕事内容

任意後見監督人の監督業務は主に以下の4つです。

3-1. 任意後見人からの定期報告を受ける

任意後見監督人は、任意後見人から定期的に財産管理等の報告を受けて、任意後見業務に問題がないかを確認します。3カ月に1回という間隔で報告期間を決めているケースが一般的です。

3-2. 家庭裁判所に定期報告する

任意後見監督人は、任意後見人から定期的に報告を受けた内容を年に1回まとめて、管轄の家庭裁判所に報告をします。任意後見監督人が任意後見人を監督し、家庭裁判所が任意後見監督人を監督することで、任意後見業務が適正に遂行されているかをチェックする構図です。

3-3. 利益が相反する行為における本人の代理

法律上、本人と任意後見人の利益が相反する行為については、任意後見人が本人を代理することができないという規定があります。

本来、任意後見契約で、任意後見人の権限として遺産分割協議の代理が含まれている場合には、任意後見人が本人を代理して遺産分割協議に参加できます。

しかし、たとえば本人と任意後見人が親族である場合には、ほかの親族の相続手続きを行う場合に、ともに相続人になることもあり得ます。そうしたケースで遺産分割の話し合い(=遺産分割協議)を行う際に、任意後見人が本人の代理人として遺産分割協議をすれば、任意後見人は自分も相続人でありながら、本人の代理人でもあるという2つの地位をもつことになります。すると、任意後見人が自分の利益になるように、後見されている本人の地位を利用することができてしまいます。

利益相反にあたるケースでは、本人の不利益を避けるために別途代理人を立てなければならないとされています。任意後見監督人は、本人と任意後見人の利益が対立する場合に、本人の代理として法律行為を行うことができます。

3-4. 緊急の事情がある場合に必要な処理

任意後見人が病気や事故などで任意後見業務を行えない場合には、任意後見監督人が代わりに緊急の処理を担うことができます。

任意後見人の一般的な業務内容としては、主に財産管理や身上監護があります。財産管理とは、たとえば本人の預貯金を管理して、本人の日常生活に必要な金銭を引き出し、各種支払いに充てる行為を言います。身上監護とは、たとえば本人が適切な医療や介護サービスなどを受けられるように選択し、本人に代わって契約を交わす業務を指します。

4. 任意後見監督人の選任申立てから後見開始までの流れ

任意後見監督人の選任申立てから後見開始までの流れを5つの手順に分けて解説します。

4-1. 【STEP1】公正証書で任意後見契約を締結する

判断能力が確かなうちに信頼できる人と任意後見契約を締結します。任意後見契約は法的効力の強い公正証書で行います。公正証書とは、国家資格をもつ公証人が、その権限に基づいて作成する公文書のことです。公証人が任意後見契約公正証書を作成し、任意後見契約の内容を登記します。

任意後見人になってもらう人は、判断能力があれば特に制限はありません。身近に信頼できる人がいればその人にお願いしてもよいですし、弁護士や司法書士などの法律専門職のなかから信頼できる人を探すのもよいでしょう。

4-2. 【STEP2】意後見監督人の選任申立てに必要な書類を準備する

本人の判断能力が低下してきたときに、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てを行います。一般的には、任意後見契約の受任者(任意後見人となる人)が申立人となることが多いです。

任意後見監督人選任申立ての必要書類は以下のとおりです。

任意後見監督人選任申立書

本人の戸籍謄本

本人の住民票または戸籍附票

本人の診断書

本人情報シートの写し

本人の健康状態に関する資料

任意後見契約公正証書の写し

本人の登記事項証明書(任意後見契約)

本人の成年被後見人などの登記がされていないことの証明書

本人の財産に関する資料

本人が相続人となっている遺産分割未了の相続財産に関する資料

本人の趣旨に関する資料

任意後見受任者が本人との間で金銭の貸借などを行っている場合はその関係書類

申立ての様式は、裁判所指定の様式があるものについてはそれを使用します。申立書などは裁判所のホームページからもダウンロードできます。また、診断書は医師が裁判所所定の様式に本人の判断能力を診断するものですので、様式を入手して本人の主治医などに依頼しましょう。なお、診断書を依頼する医師は精神科医でなくてもかまいません。

4-3. 【STEP3】管轄の家庭裁判所に申し立てる

【申立てができる人】
本人、配偶者、4親等以内の親族、任意後見受任者

【申し立てる家庭裁判所】
本人の住所地を管轄する家庭裁判所

【申立てにかかる費用】
申立て手数料:800円
登記手数料:1400円
予納郵券
※家庭裁判所が通知などを行うために使用する郵便切手代、切手の金額の内訳は管轄裁判所に確認してください。

4-4. 【STEP4】家庭裁判所の審理により任意後見監督人が選任される

申立ての際に、申立人が任意後見監督人の候補者を推薦することもできますが、家庭裁判所がこれに縛られることはありません。別の人が任意後見監督人に選任される場合がある点は認識しておきましょう。

家庭裁判所は、本人の心身の状態、生活および財産の状況に加え、任意後見監督人となる人の職業、経歴、本人との利害関係の有無などを考慮して適任と判断した人を任意後見監督人に選任します。

また、各専門職によって構成された成年後見業務の関連団体から任意後見監督人が選任されるケースもあります。たとえば、司法書士であれば「公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート」という団体があります。適切な候補者がいない場合には、家庭裁判所が公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポートへ依頼して、会員のなかから推薦された候補者を任意後見監督人に選任する場合があります。

4-5. 【STEP5】任意後見が開始される

任意後見監督人が選任されると、任意後見の開始と監督人の情報が法務局で登記され、任意後見契約の効力が発生します。法務局で任意後見の登記事項証明書を入手し、各種手続き先の機関に提示することではじめて、任意後見人は任意後見契約で取り決めた代理業務を行えるようになります。同時に任意後見監督人の業務もスタートします。

5. 任意後見監督人の候補者を家庭裁判所に推薦する際のポイント

任意後見監督人に推薦した候補者が必ずしも家庭裁判所から選任されるとは限らないものの、希望が全く尊重されないわけではありません。家庭裁判所に候補者を推薦する際のポイントを2つ紹介します。

5-1. 公正証書に候補者の希望を書いておく

任意後見契約(公正証書)にあらかじめ本人が希望する任意後見監督人の候補者を書いておくことで、本人の希望を尊重してもらえる可能性があります。ただし、任意後見監督人は、家庭裁判所に代わって任意後見人の業務を細かくチェックする役目があるため、後見業務を取り扱う専門職以外の人を候補者としている場合には選任されにくいかもしれません。

5-2. 信頼できる弁護士や司法書士に依頼する

任意後見監督人には、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれるケースが多いです。そのため、あらかじめ信頼できる弁護士や司法書士がいれば、その人を任意後見監督人の候補者とすることで、選任される可能性は高くなると言えます。

6. 任意後見監督人の報酬|相場は月5000円~3万円

任意後見人の報酬は任意後見契約のなかで取り決めます。一方で、任意後見監督人の報酬は本人の財産のなかから家庭裁判所が決定した額が支払われます。年に1回、任意後見監督人が報酬付与の申立てを行うのが一般的です。

通常の監督業務に対する報酬としては、本人の財産が5000万円以下の場合には月額計算で5000円~2万円程度、5000万円を超える場合には2万5000円~3万円が一つの目安です。

また、特別な業務を行った場合には付加報酬が加算される場合もあります。付加報酬は、たとえば本人と任意後見人の間で利益が相反しているときに、任意後見監督人が本人を代理して遺産分割協議に参加したようなケースに発生します。

7. 任意後見監督人の解任には正当な理由が必要

任意後見監督人が適切な業務を行っているのであれば、「気に入らないから」「相性が悪いから」という理由だけで解任することはできません。

任意後見監督人に、不正な行為、著しい不行跡、その他任意後見監督の任務に適さない事由があれば、家庭裁判所への申立てもしくは家庭裁判所の職権により解任します。

8. まとめ|任意後見制度に関する悩みは司法書士や弁護士に相談を

任意後見監督人は家庭裁判所に代わって、任意後見人の業務を監督する役目を担います。任意後見人から任意後見業務に関わる報告を受け、不正がないかをチェックし、財産管理などが適切に実施されているかを確認します。

希望どおりの任意後見監督人を家庭裁判所に選出してもらうことは難しいものの、判断能力が低下した人の財産の管理や身上監護を代理する任意後見人を選び、任意後見契約の内容を決めることは可能です。将来を安心して任せるための契約ですので、まずは納得いくまで弁護士や司法書士に相談して専門家のサポートのもとで話を進めていくのがよいでしょう。

(記事は2024年8月1日時点の情報に基づいています)