今永昇太はボール球を巧みに振らせ、登板したら90%の確率で勝つチャンスをもたらした
今シーズン、メジャーリーグの試合に出場した日本人選手は「12人」を数えた。彼らが在籍する8チーム中5チームは、地区優勝あるいはワイルドカードとして、ポストシーズンに進んだ。
あとの3チームは、83勝79敗のシカゴ・カブスとセントルイス・カージナルス(ともにナ・リーグ中地区2位タイ)と81勝81敗のボストン・レッドソックス(ア・リーグ東地区3位)だ。
カブスでは今永昇太と鈴木誠也、カージナルスではラーズ・ヌートバー、レッドソックスでは吉田正尚と上沢直之がプレーした。
今永昇太のルーキーイヤーの活躍はすごかった photo by AFLO
今永は昨オフにポスティング・システムを利用し、カブスと4年5300万ドル(約77億円)の契約を交わした。スプリングトレーニングの4登板は12.2イニングで防御率5.68ながら、開幕後は29登板で173.1イニングを投げ、リーグ3位の防御率2.91を記録した。奪三振率9.03は11位、与四球率1.45は2位に位置する。WHIP1.02は3位、K/BB6.21は1位だ。
制球のよさを示しているのは、与四球率だけではない。スタットキャストによると、今永と対戦した打者は、ストライクゾーン外の投球の34.8%を振っている。この数値が今永より高い先発投手は、36.4%のクリストファー・サンチェス(フィラデルフィア・フィリーズ)しかいない。見逃せばボールになる球でも、その多くをゾーン付近に投げ込み、打者に手を出させていることがうかがえる。
また、自責点4以上の登板は3度しかなく、登板のほぼ90%でカブスに勝つチャンスをもたらした、という見方ができる。9月4日には7イニングを投げてヒットを1本も打たれず、ネイト・ピアソンとポーター・ホッジとともに継投ノーヒッターを達成した。これ以外にも、6回2死までノーヒッターが2度あった。
【今永と大谷の対戦成績は5打数0安打】今永が投げた29試合で、カブスは23勝6敗・勝率.793を記録した(今永自身は15勝3敗)。それ以外の133試合は、60勝73敗・勝率.455だ。今永がいなければ、カブスはナ・リーグ中地区の2位タイではなく、最下位に沈んでいたかもしれない。最下位のピッツバーグ・パイレーツは76勝86敗・勝率.469だった。
ほかのシーズンなら、今永は新人王に選ばれてもまったくおかしくない。ただ、今シーズンのナ・リーグには、今永以外にも活躍したルーキーが少なくなかった。
ポール・スキーンズ(パイレーツ)は23登板の133.0イニングで奪三振率11.50と与四球率2.17、防御率1.96を記録した。5月にメジャーデビューしたために登板とイニングは今永より少ないものの、防御率は約1点も低い。奪三振は今永が174、スキーンズは170だ。
打者では外野手のルーキーふたり、ジャクソン・メリル(サンディエゴ・パドレス)とジャクソン・チューリオ(ミルウォーキー・ブルワーズ)も秀でた成績を残している。今永は新人王の投票でトップ3に入れるかどうか、といったところだろう。
来シーズン、カブスは日本で開幕を迎える。相手はロサンゼルス・ドジャースだ。来シーズンのメジャーリーグは今永と大谷翔平の対戦から始まる可能性もある。
今シーズン、彼らは2試合で対戦した。計5打席の結果は、空振り三振、三塁ファウルフライ、遊撃フライ、一塁ゴロ(併殺打)、ライトフライ。5打数0安打だ。
今永とチームメイトの鈴木は、昨シーズンに勝るとも劣らない成績を残し、5年8500万ドル(約101億円・当時)の契約3年目を終えた。2年続けて規定打席に達し、打率は.285→.283、ホームランは20本→21本、出塁率は.357→.366、OPSは.842→.848。盗塁は6→16と大幅に増えた。
打率は両シーズンともリーグ9位に位置し、今シーズンは出塁率とOPSもトップ10入り。どちらも8位にランクインしている。
【吉田は宿敵ヤンキース戦で大爆発】難を言えば、2シーズンとも序盤はケガによって離脱した期間があった。前半と後半のOPSは、昨シーズンが.748→.938、今シーズンは.813→.889と推移している。打率と出塁率も同様だ。開幕から健康を維持すれば、今永に先を越されたオールスターゲーム初選出も見えてきそうだ。
守備においては、平凡なフライを落球することもあったが、8月中旬からDHにほぼ専念したのは、好守の外野手が3人揃ったことが主な理由だと思われる。守備イニングは昨シーズンの半分近くまで減ったにもかかわらず、補殺は2→5と増加した。
5年9000万ドル(約123億円・当時)の契約2年目だった吉田は、序盤に1カ月以上の離脱があり、出場は108試合にとどまった。昨シーズンから32試合減り、規定打席に届かなかった。
とはいえ、打率.280と出塁率.349、OPS.764は昨シーズンと同水準。10本塁打は5本減だが、1本当たりの打数は35.80→37.80なので、こちらもあまり違わない。守備には1イニングしかつかず、DHとしては物足りなさが残るスタッツながら、7月と8月は2カ月続けてOPS.895以上を記録した。
なかでも宿敵ニューヨーク・ヤンキース戦では、7月5日の9回表に打った同点2ラン本塁打をはじめ、12試合で12打点を挙げた。ヤンキース戦の出場は全体の11.1%(108試合中12試合)、打点は全体の21.4%(56打点中12打点)だ。
ボストン・ヘラルド紙のマック・セルーロ記者らによると、吉田はシーズンを通して右肩の具合がよくなく、オフに手術を受ける可能性もあるという。
上沢は、ポスティングシステムを利用してタンパベイ・レイズとマイナーリーグ契約を交わし、開幕直前にレッドソックスへ移籍。メジャーリーグでは5月2日〜3日に2イニングずつを投げ、初登板は6人ともアウトに仕留めたが、2登板目は2点を取られた(自責点は1)。その前後の3Aでは、リリーフ14登板と先発6登板の計59.0イニングで防御率7.63を記録した。9月上旬に右ひじを痛め、そのまま復帰せずにシーズンを終えた。
【ヌートバーは9月になって本領発揮】なお、昨年のWBCで今永や吉田とチームメイトだったヌートバーも、ポストシーズンには進めなかった。セントルイス・カージナルスはナ・リーグ中地区2位でカブスと並んでシーズンを終えた。
ヌートバー自身は109試合で打率.244と出塁率.342、OPS.758。いずれも昨シーズンから少し下がった。ホームランは14本→12本(30.43打数/本→29.00打数/本)だ。
ブレイクしきれていない要因は、ケガの多さだろう。昨シーズンは故障者リストに3度入り、今シーズンも2度離脱した。
しかし、9月は打率.290と出塁率.421、OPS.986を記録した。二塁打5本、三塁打1本、ホームラン4本を打ち、20安打の半数を長打が占めた。27歳の年齢からすると、来シーズンはここから羽ばたく可能性も十分にある。