カズ・三浦知良は57歳の肉体をどう管理しているのか JFL鈴鹿で増え続ける出場時間
彼が挑んでいるのは、誰も踏み入れたことのない戦いである。
ほかでもない彼自身にとっても、未知の戦いである。
元日本代表FWのカズこと三浦知良が、JFLのアトレチコ鈴鹿への期限付き移籍を発表したのは6月25日だった。7月2日にチームへ合流すると、最短で出場できる7月14日のヴェルスパ大分戦に途中出場する。62分からピッチに立った。
三浦知良(右)と激励に訪れた兄の三浦泰年(左) ©️ヤナガワゴーッ!
JFLはここからインターバル期間に入る。各チームは8月31日〜9月1日に第18節を消化するはずだったが、台風10号の影響で数試合が中止になり、鈴鹿の試合も順延となった。
チームは9月7日のヴィアティン三重戦で再開初戦を迎え、2-0の勝利を飾る。カズは65分から出場し、自身のチーム合流後初となる勝ち点3奪取に貢献した。
鈴鹿は16日に第20節を、23日に第21節を消化していき、カズはいずれの試合も60分過ぎからピッチに立った。第21節から中5日で開催された29日の高知ユナイテッドSC戦も、32分から交代出場すると、3-4-2-1の右シャドーのポジションに立ち、2-0からの逃げ切りに力を注いでいく。
ここまで首位の高知が攻撃の圧力を強めてくるなかで、カズは守備時に5-4-1となる「4の右」でブロックを形成した。さらなる選手交代が行なわれた最終盤は1トップへポジションを上げ、前線から精力的にチェイシングをしていった。自身が相手ゴール前へ迫る場面は少なかったものの、鈴鹿は2-0のまま終了の笛を聞いた。
「チームが勝つためにどんなことでもやるつもりでいますし、やらなきゃいけないので。監督からの指示も含めて、入った時にチームの状況を考えながら右サイドに入って、うしろの選手と連係を取りながらしっかりゼロで抑えるっていうのが第一だったと思うので、その役割は果たせたかなと思います。
それも僕がひとりで果たしたわけじゃなく、チーム全体がそういう意識でしっかりやれたと思います」
【2017年以来となる出場機会の多さ】チームは5戦負けなしの8勝5分8敗で、16チーム中10位につけている。カズの合流後は2勝3分1敗と勝ち点積み上げのペースをあげているが、試合運びには改善の余地がある。
「今日の試合も、2-0で迎えた最後の10分の過ごし方ですね。もうちょっと賢くボールを持って回せるはずなんですけど、やっぱり焦ってしまって、自ら取ったボールをすぐに相手に渡しちゃうということも繰り返していた。
そういうところで自分たちがもっと成長しないと、これからの試合にもそれがやっぱり響いてきます。最後の終わらせ方というところに、もっとこだわってやらなきゃいけないですよね」
大分との鈴鹿デビュー戦から高知戦まで、6試合連続で途中出場している。ラスト30分から攻撃のギアを挙げるインパクトプレーヤーとして、試合を締めるクローザーとして、カズは朴康造監督の構想にしっかりと組み込まれている。
前所属のオリヴェイレンセ(ポルトガル)では、出場機会がかなり限られていた。移籍1年目の2022-23シーズンは、4試合出場でプレータイムが57分だった。2023-24シーズンは5試合出場で37分である。
横浜FCからポルトガルへ新天地を求める以前も、チームを外から見つめる時間が長かった。2021年はリーグ戦出場が1試合で、プレータイムは1分。2020年は4試合で68分、2019年は3試合で109分、2018年は9試合で59分である。相応の稼働を記録したのは、12試合出場で452分のプレータイムを残した2017年までさかのぼらなければならない。
それがどうだろう。
今シーズンはすでに6試合に出場し、165分のプレータイムを刻んでいる。アディショナルタイムを含めれば、ピッチに立っている時間はさらに長いはずだ。しかも、9月は4週連続で出場している。
1試合で30分前後プレーするのも、30分前後の出場が連続するのも、2017年以来である。
【フィジカルバトルでも見劣りしない】連戦を消化していく57歳の肉体は、どのような反応をするのか。それに対して、どのようなケアが適切なのか。
試合に出続けることによる肉体の変化について、「55歳の時はこうだった、56歳の時はこうだった」というデータが、カズの手もとには揃っていない。前人未踏の領域で戦ってきた彼でも、コンディション維持は簡単ではない。とても、とても、難しいと言っていい。
「それはホントに大変ですね」と、カズは笑いながらうなずく。
「毎日トレーニングが午前中にあって、午後もジムで調整してとか、そういうことをしながらほぼ毎日トレーナーに治療してもらい、身体を休めて、寝る前は必ず交代浴。コンディショニングと言えば、もうその生活だけですね」
「もっとうまくなりたい」というフットボーラーの本能に根ざした欲求をひたむきに追いかけるカズは、自らのプロフェッショナリズムを積極的に口にしない。ここでも「これを言うとあれですけど」と遠慮がちに切り出し、栄養管理について明かしてくれた。
「4人の調理師についてもらって、4人が交代で料理を作ってくれています。それは管理栄養士が作ったメニューを全部そのとおりに作って、取ってはいけないものは取らないように全部調整してくれて。そんな感じで生活しています」
何を食べるのかだけでなく、「いつ」食べるのかも徹底している。睡眠にもついても同様だ。「1試合でも多く、1分でも長く試合に出たい」という思いを実現するためなら、カズはどんな労力も、犠牲も、決して惜しまない。
ピッチ外での確かな裏づけがあるからなのだろう、お馴染みの背番号11を着けたピッチ上でのパフォーマンスは軽快だ。高知戦では守備でハードワークをしながら、ハイスピードで前線へスプリントしていった。フィジカルバトルで見劣りすることもない。数年ぶりの連続出場を続けながら、それにふさわしいコンディションを維持しているのだ。
【カズを周囲が生かせていない場面も】カズ自身は、周囲のサポートへの感謝を口にする。
「練習がしっかりできていますし、栄養管理の方から身体の治療のトレーナー、そういうメンバーがみんなホントに全力でやってくれています。本当にみんなのおかげだと思います。チームメイトも練習でガチできてくれていますからね。そういうのも、すごくいいと思います」
期待されているゴールは、まだ挙げていない。とはいえ、鈴鹿のゲームをスタジアムで観戦すると、カズの動き出しを周囲が生かせていない場面があることに気づかされる。動き出しに気づいているけれどパスを出せない、パスを出したけれど通らなかった、タイミングが微妙にズレた、といった場面があるのだ。
今季のJFLは11月24日まで行なわれる。体調管理のために休養を取るタイミングがあるかもしれないが、30分前後のプレーに耐えうるコンディションをこのまま維持していけば、ゴールチャンスは訪れるに違いない。
高知戦を終えたカズは取材対応を終えると、ファンのもとへ足を運んだ。集まった全員にサインをしてから、会場を去る。アウェーゲームでも、時間が許すかぎりペンを走らせる。
ピッチの外でもファンを魅せるキング・カズは、今なお日本サッカー界において唯一無二の存在である。