【安心マニュアル】保育園・幼稚園の入園説明会で見るべきは「教育方針」ではない

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 保育園、幼稚園の入園説明会シーズンの到来に際して、ウラ事情を探るのに参考にしたいのが「求人サイト」だ。筆者は乳幼児や児童の保健指導をしているが、経営者や幹部、職員、保護者に何かしら問題がある園は、常に求人募集をかけている。

 求人募集の条件は、時給1100円から2800円までピンキリ。時給が安すぎる園は経営サイドに問題があるのはわかるが、時給の高い保育園も要注意だ。「時給を上げないと業務に支障が出る」ほど、園運営が切迫した状況にあるからだ。

 少子化対策、待機児童解消と言いながら国の方針は逆行しており、昨年度から常勤職員の代わりに6時間、ひと月に20日以上働いている非常勤職員が「常勤職員」とみなされるようになった。

 ところが「みなし常勤職員」は常勤職員と同じ社会保険制度、待遇を得られるわけではなく、経営者に保育加算が入るだけ。保育標準時間は8時間、親がフルタイム勤務の場合10時間から11時間なので、常勤職員のいない保育園ではフルタイム勤務の親が子供を預けている保育時間の半分は、職員数が絶対的に足りない。

 さらに岸田内閣が導入し、今年度から試行事業として始まった「こども誰でも通園制度」で、職員数不足に拍車がかかったという。同制度を導入した保育園の職員が嘆く。

「経営者が自治体からの助成金ほしさに『こども誰でも通園制度』を始めましたが、子供にとっては拷問です。慣れない場所で初対面の大人といきなり長時間を過ごさねばならず、半狂乱になって一日中泣いている子もいます。保育園や幼稚園では年度はじめから徐々に園生活に慣らしていきますが、そうした慣らし期間がないため『こども誰でも通園制度』で預けられた子供は毎日入れ替わり、毎日泣き続ける。担当の常勤職員が精神的に参ってしまいました。時給を上げてパートや派遣をかき集めないと、保育園が回らない」

 常勤職員が燃え尽き、毎日登園する子供が辛い思いをするなら本末転倒。自治体からの助成金でぱっと見は設備と人員が揃っているように見えても、綱渡り状態の園があるのだ。

 食物アレルギーのある子供や0歳児を預ける予定があるなら、管理栄養士、調理師が常勤職員であるかも確認することだ。管理栄養士と調理師が「派遣職員」だと申し送り漏れで、禁止食材、月齢に合わない危険な食材が提供されるおそれがある。

 古くから続く保育園や幼稚園なら安心できるかいうと、そうでもない。今春、世田谷区の名門保育園で、教諭が全員退職する騒動が起きた。伝統ある保育園、幼稚園ほど「子供の持ち物は親が手作り」「教材も教諭が手作り」などの非効率的な慣習が残っていて、教諭や保育士が教材作りのためにサービス残業し、子供を預かる保育時間中は疲労困憊…ということも。

 人員不足と非効率が蔓延する保育園、幼稚園では子供が減っているのに、保育園と幼稚園、放課後児童クラブの年間事故件数、園児の死亡数は増加傾向にある。令和4年だけでも報告事故件数は2772で、9人の幼い命が失われた。

 この中には昨年5月、愛媛県の新居浜社会福祉事業協会「新居浜上部のぞみ保育園」で起きた、0歳児には禁止されている生のリンゴ(長さ7ミリ)を生後7カ月の男児に食べさせ、重度の脳障害を負わせた悲惨な事故や性的虐待などは含まれていない。

 実のところ、保育園や幼稚園の説明会で経営者が語る「教育方針」には、あまり意味はない。見るべきは安全対策と効率化だ。

(那須優子)