福田正博 フットボール原論

■サッカー日本代表の、10月のW杯アジア最終予選2試合のメンバー発表が今週行なわれる。9月の2試合では両ウイングバックにアタッカーを配する攻撃的な3バックシステムを機能させた森保一監督。その事情、狙い、今後の展望を福田正博氏に解説してもらった。

【高さ対策とサイドバックの人材難】

 サッカー日本代表のワールドカップ・アジア最終予選は、10月10日にアウェーでサウジアラビア戦、10月15日にホームでオーストラリア戦が行なわれる。この2試合でも注目したいのが3バックだ。


サッカー日本代表は両ウイングバックにアタッカーを配した3バックシステムでW杯アジア最終予選を戦っている photo by Sano Miki

 森保一監督は長年慣れ親しんできた4バックのフォーメーションを、9月シリーズから3バックを基軸の3−4−2−1に変更した。この変化にやや驚きもあったが、森保監督がサンフレッチェ広島を率いた時代は3バックでJ リーグを何度も制し、2022年カタールW杯でもスペイン、ドイツ、クロアチアという強豪相手に5バック気味の3バックで臨んだことを思えば、不思議はなかった。

 それでも森保監督が2018年に日本代表監督になってから、3バックをメイン布陣に据えるまでに6年近い日々を要したのには理由がある。それは日本代表の各ポジションにおける選手のクオリティーとの兼ね合いがあったからだ。

 そもそも森保監督にとって、フォーメーションは「攻守において数的優位をつくるための方法」にすぎない。監督のなかには志向するフォーメーションに選手を当てはめるタイプもいるが、森保監督は真逆だ。手駒の選手の力量や選手層などを踏まえ、攻守において優位をつくれるフォーメーションはどれかを考える。その結果がカタールW杯までは4バックとなり、今回は3バックになったというだけのことだろう。

 この3バックには「高さ対策」というメリットもある。ボランチの遠藤航と守田英正の身長はそれぞれ178cm、177cmと、とりわけ低いわけではないが高さに強みがあるわけでもない。サイドバック(SB)も、長く日本代表の右SBを務めた185cmの酒井宏樹や、9月シリーズで日本代表に初招集された192cmの望月ヘンリー海輝のような大型SBもいるとはいえ、基本的には高さのない選手が多い。

 そうしたなかでセンターバック(CB)を3枚にすると、ピッチ上にはGK鈴木艶彩と1トップの上田綺世を含めて、5人が高さで勝負できるようになる。

 なにより現状を見渡した時に、日本代表が4バックを敷くには左SBの人材に心もとなさがあるのが大きいのではないか。ほかのポジションには世界でバリバリ働いている選手がいる。そこを天秤にかけた時に4バックではなく、3バックという戦い方になるのは必然だろう。

【選手層が厚い、センターバックと2列目】

 9月シリーズでは3バックの中央に谷口彰悟(185cm)が入り、右CBを板倉滉(188cm)、左CBを町田浩樹(190cm)がつとめた。ただ、CBには故障のため招集外だった冨安健洋(187cm)と伊藤洋輝(188cm)がいる。9月シリーズで日本代表デビューを飾った高井幸大(192cm)という次代を担う逸材も控えている。

 冨安、伊藤が日本代表に復帰したら、レベルが高く、選手層の厚いCB陣になるのは間違いない。左CBには左利きの伊藤、右CBには冨安を入れ、クラブでは3バックの中央もつとめる板倉を据え、経験豊富な谷口をベンチに置いて有事に備えることもできる。

 また、伊藤は4バックの左SBでもプレーでき、冨安にいたってはアーセナルで左右のSBとしての経験が豊富にある。相手の力量、戦い方に合わせて、選手を入れ替えることなく3バックから4バックへと変化できるのも魅力だ。

 このCB陣に加え、日本代表は2列目の人材が豊富にいる点も、森保監督が3バックへ変更する後押しになったはずだ。シャドーのポジションには久保建英、南野拓実、鎌田大地、旗手怜央がいて、アウトサイドには右に伊東純也、堂安律、左には三笘薫、中村敬斗がいる。さらに、前線ならどこでも使える前田大然と浅野拓磨もいて、ほかにも日本代表にいつ呼ばれても不思議はない選手たちが控えている。

 そのなかで3バックシステムのポイントになるのが、左右のウイングバックだ。9月シリーズでは左に三笘、右に堂安がスタメンで起用されたが、このポジションの選手が相手陣のサイドを縦に崩せるかが攻撃の生命線になる。なぜならウイングバックの選手がボールを持って縦を突くことで、相手DFラインを押し下げることができるからだ。

【ウイングバックで重要なのは縦突破】

 この点で言えば、左サイドは何の心配もない。三笘は縦を突いたり、中央に切れ込んだりのバランスが実にいい。また、ボールを受けてもそのすべてで勝負に行くわけではなく、すぐに後ろの味方に戻したりもする。対峙するDFにとっては狙いが絞れずに、つねに後手を踏まされている感じを覚えるはずだ。

 これまでなら三笘薫が不在の時に、独力でサイドを突破できる代役がいない点に不安があった。前田大然はスピードがあって守備への貢献度も高いが、独力でサイドを崩すタイプではないからだ。それが9月シリーズの中村敬斗のプレーを見て、不安は払拭された。以前までの中村敬斗は中央に切れ込んでシュートに持ち込むプレーがほとんどだったが、バーレーン戦では見違えるように何度も縦を突いたからだ。

 サイドの選手にとって重要なのは、プレーのファーストチョイスで縦への突破を意識することにある。縦方向への突破で相手DFラインが下がり、ゴール前にいる味方が使えるスペースが生まれるからだ。そうして相手に縦をケアする意識を植えつけたところで、中央にも切れ込む。すると、相手の対応が後手を踏み、結果的に中村敬斗のようなカットインからのシュート力が生きるのだ。

 もう一方の右サイドは、縦への突破力が抜群の伊東純也の日本代表復帰は大きい反面、堂安のプレーには不安が残った。

 堂安は9月シリーズで2試合ともスタメン出場し、中国戦では2シャドーの一角の久保とポジションチェンジすることで存在感を発揮した。久保が右サイドに流れて縦突破を仕掛けたことで、堂安は得意なゴール前でのプレーができた。

 だが、2シャドーが南野と鎌田だったバーレーン戦では、ゲームから消えてしまっていた。縦突破を相手DFに意識づけできず、中央に切り込んでばかりだったため、相手DFは対応しやすくなり、結果的に右サイドからの攻撃は機能しなかった。

 中央に切れ込むプレーをファーストチョイスにしても、4バックなら右SBがオーバーラップを仕掛けられれば相手のDFラインを押し下げることができる。しかし、3バックではオーバーラップする右SBはいない。そのためウイングバックには縦への意識が強く求められるのだ。それだけに今後堂安が右のウイングバックで、その役割をしっかり発揮してくれることを期待している。

【3バックなら根幹を大きく変えることなく強化できる】

 これまで日本代表は、アジア予選とW杯本大会で戦い方を大きく変えなければならない問題があった。2022年カタールW杯の予選は4−2−3−1や4−3−3で戦ったが、本大会では5バック的な3バックに変更した。ダブルスタンダードの問題はいまもあるものの、なるべくならW杯での強豪国との対戦を見据えてアジアを勝ち上がるほうが、一貫性のある代表強化につながる。

 3バックなら日本代表の根幹を大きく変えることなく、対戦相手の力量と選手の特徴に応じて選手を入れ替えられるメリットがある。たとえば、カタールW杯で長友佑都を左ウイングバックにスタメンに起用して守備的に臨み、途中からそこに三笘薫を投入して勝負に出るといったような采配だ。

 さらに、いまの日本代表選手たちのレベルやクオリティーを考えれば、3バックで臨んだけれど試合状況に応じて、選手交代をせずに4バックに変更するといったことも可能になるはずだ。

 そのバリエーションと精度を高めていくためには、実戦のなかでさまざまな戦い方を試してもらいたい。そうした状況を早くつくるためにも、日本代表には12得点0失点という圧倒的な強さを発揮した9月シリーズのような結果を、10月シリーズの2試合でも期待している。