GPシリーズ記者会見に出席した(左から)三原舞依、渡辺倫果、吉田陽菜、千葉百音、坂本花織 Photo by KYODO NEWS

【女性勢は百花繚乱】

「今シーズンは、(2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ)オリンピックに向けたプレシーズンで、まだチャレンジができると思うので。オリンピックシーズンへの(構成など)選択肢を増やしたいですね」

 世界女王、坂本花織(24歳/シスメックス)は2024―25シーズンに向けた意気込みをそう口にしている。少なくとも、過去3シーズンは絶対的な女王。全日本選手権3連覇だけでなく、世界選手権も3連覇中だ。

「CHANGE」

 その女王が今シーズンに向けて選んだ言葉は「変化」だった。さらなるフィギュアスケートの高みへ、深みに達するために。

「(会見で見せたボードには) CHANGEとだけ書いたんですけど、自分自身、『つなげる』という目標もあって。オリンピックシーズンにもつながるシーズンにしたいと思っています。いろんな経験をして、何ができて、できなかったか、自分のことを知って」
 
 坂本は囲み取材でそう言い足したが、その意図はトライ&エラーを重ねる覚悟だろう。ジャンプも、フリップ、トーループを2本ずつ入れてきたが、フリップ、ルッツとより難易度の高いジャンプに取り組む。「コンビネーションの可能性を増やせるし、ミスした場合のリカバリーをしやすいので」と説明し、女王の驕りは微塵も見られない。
 
 はたして、圧倒的な強さを誇る坂本に対抗する選手は現れるのか?
 
 百花繚乱。

 実は坂本以外にも、今の日本女子フィギュア界は人材に恵まれている。

 千葉百音(19歳/木下アカデミー)は、昨シーズンの全日本で坂本に次ぐ2位に入り、四大陸選手権で優勝を飾るなど台頭著しい。シニア挑戦2年目だが、落ち着いた演技を見せる。世界選手権ではフリーの追い上げで7位に入り、日本の出場枠を坂本と確保。正念場で力を発揮できる肝の据わったところがある選手だ。

「弾ける」

 それが今シーズンの千葉のテーマだという。表現の幅をさらに広げ、明るく弾けることができたら...。

 吉田陽菜(19歳/木下アカデミー)も、シニア2年目で期待がかかる。昨シーズン、グランプリファイナル出場を果たし、表彰台にまで上がっている(3位)。「鶴」を題材にしたプログラムなど独創的な曲を再現するセンスとトリプルアクセルにも挑戦するジャンプの才能で、ポテンシャルの高さを感じさせる。

「自分は挑戦する立場」
 
 昨シーズン、吉田はそう言って戦い、すばらしい結果を叩き出した。今シーズンは「ホップ、ステップ、ジャンプ」のホップと位置付け。すでに参戦した近畿選手権では、フリーで逆転優勝し、昨シーズンからの勝負強さを変わらず示している。

【スター性のある若手も台頭】

 そして同門の坂本に次ぐ競技キャリアを誇る三原舞依(25歳/シスメックス)は、巻き返しを期す。一昨年の全日本は2位だったが、昨年は調整の遅れで5位だった。もっとも、リンクに立った時の存在感は際立つ。プログラムを表現するスケーティング技術には定評があり、「集中力の天才」と称賛される"場を制する"輝きは唯一無二。観客の熱を演技に還元できる稀有な選手だ。
 
「まずは自分に勝たないと。選手として、まだ上に行きたいので」

 三原は言う。誰よりも自らに厳しいスケーターと言えるだけに、己を乗り越えたら、氷上で喝采を浴びることになるだろう。フリーは「レッド・バイオリン」で自らが楽器のようになって、運命の調べを奏でられるか。

 また、渡辺倫果(22歳/三和建装・法政大学)も虎視眈々(こしたんたん)と言ったところか。独特な色気のあるスケーターだが、ジャンプへの思いも強く「ショート&フリーで3本のトリプルアクセル」と目標を掲げる。

「孤独の美しさ、をテーマに滑りたいです。マイナスなイメージの言葉かもしれませんが、孤独のなかの美しさというのはあって。例えば月光はスポットライトのように一人ひとりを照らすので、個人スポーツであるフィギュアで自分を見つめて歩んでいけるように」

 そう語る渡辺は今シーズン、東京選手権でトリプルアクセルを入れた戦いをスタートさせている。

 ほかにも、青木祐奈、住吉りをん、河辺愛菜、松生理乃、山下真瑚など十分に世界で渡り合える実力者たちが控える。なかでも樋口新葉は今シーズン、東京選手権で優勝し、復活の狼煙(のろし)を上げている。北京五輪でトリプルアクセルを成功し、団体の銀メダルに貢献した実力は伊達ではない。
 
 そして次のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪は年齢制限で出られないが、15歳の島田麻央、14歳の上薗恋奈は、「日本女子フィギュアの希望」と言える。昨年の全日本でそれぞれ3位、4位だ。
 
「試合の時、緊張はあります。けど、みなさんに見られているから緊張するというのはなくて、逆に見てもらっているほうがうれしい。応援してくださっている方々のためにも頑張れるって思うので、むしろ見てほしいです」

 そうインタビューで語っていた上薗は、スター性も十分だ。

 氷上で、彼女たちは咲き誇るだろう。その切磋琢磨の中、爆発的な輝きを見せられるか。

「失敗を恐れず」

 そう語った女王、坂本が中心のシーズンになることは間違いない。