攝津正インタビュー 前編

CSに向けたソフトバンクの状態

 4年ぶり20度目のパ・リーグ優勝を果たしたソフトバンク。10月16日から始まるクライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージで、ファーストステージの勝者を迎え撃つことになる。

 しかしチームは、ここにきて投打で故障者が続出。2012年の沢村賞など多くのタイトルを獲得したOBの攝津正氏に、現状の戦力分析、短期決戦で戦ううえで大切なことなどを聞いた。


一軍に復帰した柳田悠岐 photo by Sankei Visual

【短期決戦で重要なこと】

――攝津さんは現役時代、CSや日本シリーズで数多く登板しましたが、短期決戦で勝つために大切なことは?

攝津正(以下:攝津) ピッチャーの観点から大切なことは、データに頼りすぎないことです。相手のバッターとはシーズンで何度も対戦してデータが蓄積されていますが、短期決戦ではデータとは違うことがけっこうあるので。もちろん、データもある程度は必要なのですが、試合に入ってからの感覚のほうが大事なのかなと。

 それと、(首脳陣は)状態のいい選手をどんどん使っていくことですね。レギュラーシーズンでいい結果を残していても、CSが始まってから状態が上がらない選手も出てくると思うので。結果を残した選手に固執しすぎるとやられてしまいます。逆に、短期決戦で急に状態がよくなる選手が出てきたりもするので、選手の状態を素早く見極めることが重要です。

――ファイナルステージは最大で6日間の試合が予定されていますが、ソフトバンクの先発ローテーションはどうなると予想しますか?

攝津 先発陣を引っ張った13勝7敗の有原航平と、11勝5敗のリバン・モイネロが軸になると思います(成績は9月30日時点。以下同)。仮に日本ハムが勝ち上がってきた場合は、両ピッチャーとも相性が悪い(有原の対日本ハム防御率は4.11、モイネロは同4.80)のですが、それでも2人は動かさずにいくんじゃないでしょうか。さすがに先発の3番手以降のピッチャーをCSの1戦目には出さないと思います。

【柳田と近藤がいる・いない場合の打順はどうなる?】

――野手では、右太もも裏の肉離れで長期離脱中の柳田悠岐選手が9月30日のオリックス戦で一軍復帰(2番・DH)しましたが、近藤健介選手は右足の負傷で離脱中です。

攝津 ファームの試合では外野守備も無難にこなしていましたし、ファイナルステージまで時間もあるので、柳田に関しては問題ないと思います。気がかりなのは近藤健介です。リーグ優勝を決めた日に松葉づえをついていましたし、正直どうなのかなと。あくまで個人的な意見ですが、あまり状態がよくないのかなと思いますし、近藤が戻れない可能性もあるんじゃないかと。小久保裕紀監督も復帰を焦らせることはしないと思いますし、出られない場合の戦略も考えているはずです。

――近藤選手がいるといないとでは、だいぶ戦略が変わりそうですが......。

攝津 近藤が離脱して以降、明らかに得点力が落ちましたからね。ただ、中村晃が5番に入った時にはけっこう機能している。打って走者を還すことも期待できるのですが、もともとバントもうまくてしっかり決められるんです。近藤とはタイプが違う5番ですが、つなぐことができる選手なので面白いと思います。つなげられたら、6番にはチャンスに強い正木智也(得点圏打率.351)や柳町達(同.425 )がいますから。

 それと、途中加入のジーター・ダウンズがいいですね。(9月29日の日本ハム戦で)来日初本塁打も出ましたが、バッティングがコンパクトです。日本のピッチャーのボールに柔軟に対応している印象があります。

――柳田選手が故障で離脱して以降、ほとんどの試合で栗原陵矢選手が3番を任されてきました。柳田選手が戦列に完全復帰した場合、栗原選手は何番が適任だと思いますか?

攝津 近藤が戻れないと想定した場合、3番に柳田を入れ、栗原は5番がいいのかなと。それで6番に中村を入れるのか、正木なのか柳町なのかは相手ピッチャーにもよると思います。

 逆に近藤が戻れるのであれば、打線はどうにでも組めます。3〜6番は、開幕当初の柳田、山川穂高、近藤、栗原の並びになると思いますし、打線の厚みがかなり増しますね。肝心なのは柳田の状態。ファームでホームランが出たりしているとはいえ、一軍の試合から遠ざかっていますから。

――柳田選手は守らせるのか、DHで起用かという点は?

攝津 難しいところです。近藤が戻るのであれば柳田は守らせると思いますが、足のケガの影響による不安は多少あると思いますし、近藤が復帰できない場合は柳田はDHじゃないでしょうか。やはりブランクがありますし、CSの試合で守らせるのはちょっと怖いでしょうから。

【ベテランの和田はリリーフ起用か】

――リリーフ陣についてもお聞きしますが、9月中旬に復帰したロベルト・オスナ投手の状態はどう見ていますか?

攝津 復帰直後の状態は全然よくなかったです。ただ、直近の試合ではけっこう力を入れて投げられていますし、真っすぐもいい。球速も150km台中盤をマークしていたので、まずまずだと思います。今後どこまで状態を上げていけるかですね。

――松本裕樹投手や藤井皓哉投手ら、勝ちパターンで起用されていた中継ぎが離脱するなか、ベテランの和田毅投手をリリーフで登板させる可能性も示唆されています。

攝津 そうでね。和田は、「今が今季で一番いい状態」と聞いています。ショートリリーフなのか、第2先発のような形なのかはわかりませんが、リリーフでの登板は考えているはずです。

 リリーフ陣のなかだと、津森宥紀の状態もあまりよくない。今季は尾形崇斗や岩井俊介など若手ピッチャーの起用も多いので、CSでも状態がよければ若いピッチャーもどんどん投げさせるかもしれません。ただ、シーズンとは違うプレッシャーがかかってくるので、普段どおりに投げられるかどうかがポイントです。

――先発ローテーションの一角として8勝を挙げている大関友久投手は、9月18日の日本ハム戦で緊急降板。左大円筋損傷と診断されて離脱しました。

攝津 ファイナルステージまで時間があるとはいえ、戻って来られるのか......。不安材料ではありますね。また、(9月28日の)日本ハム戦では周東佑京が(左ひざの違和感で)途中で交代していましたし......。とにかくピッチャー陣もバッター陣も、CSまで主力がコンディションを上げられるかどうかがカギになりそうです。

(後編:CSファイナルにきたら困るチームは? 攝津正が対戦成績など相性から予想した>>)

【プロフィール】
攝津正(せっつ・ただし)

1982年6月1日、秋田県秋田市出身。秋田経法大付高(現ノースアジア大明桜高)3年時に春のセンバツに出場。卒業後に入社したJR東日本東北では、7度(補強選手含む)の都市対抗野球大会に出場した。2008年にソフトバンクからドラフト5位指名を受け入団。抜群の制球力を武器に先発・中継ぎとして活躍し、沢村賞をはじめ、多数のタイトルを受賞した。2018年に現役引退後、解説者や子どもたちへ野球教室をするなどして活動。通算282試合に登板し、79勝49敗1セーブ73ホールド、防御率2.98。