大谷翔平の好調は初のプレーオフでも続くか? ロッキーズコーチがボンズとジャッジも直面した「難しさ」を指摘
大谷翔平はポストシーズンでどのようなプレーを見せるのか photo by AP/AFLO
メジャーリーグ史上初の50本塁打-50盗塁を達成したあとも、大谷翔平の打棒は止まらない。特に9月19日〜27日(現地時間、以下同)までは34打数24安打、打率.706、6本塁打、20打点と打ちまくった。
投手陣に故障者が続出のロサンゼルス・ドジャースを背負って立ち、3年連続のナ・リーグ西地区優勝に導いた活躍は「驚異的」のひと言だが、ドジャース移籍1年目の猛打は、その能力をすでに認めていた野球人たちをも改めて驚嘆させている。ニューヨーク・ヤンキースで活躍し、1995〜96年にはヤクルト・スワローズでプレー、現在はコロラド・ロッキーズの打撃コーチを務めるヘンスリー・ミューレンも大谷を絶賛するひとりだ。
日本通算77本塁打のミューレンは、2013年の第3回WBCからオランダ代表で監督を務めており、2016年に行なわれた強化試合の侍ジャパン戦では大谷に東京ドームの天井にまで届く二塁打を許したこともあった。大谷のポテンシャルを熟知していた57歳にとっても、今季の成長ぶりは印象的だったようである。
「最も印象的なのは弱点が見当たらず、フィールド全体にボールをハードヒットできるところだ。高め、低め、外角、内角とストライクゾーンのどの場所でも打てるから、大谷からアウトを取るのは難しい。外角は逆らわずに左翼に打ち、内角は思い切って引っ張る。そのすべてがハードヒットだ。
投手として登板しなかったおかげで盗塁も稼げるようになった。少なくとも今年に関しては、打者に専念したがゆえに攻撃面で幅が広がった印象がある。おかげで球史に残る50-50という記録も達成できた。すごい選手だよ」
もともと大谷はフィールド全体に長打が打てる選手ではあったが、実際に近年はより穴がなくなり、それゆえに打率が上昇した印象がある。コース別に見ると内角高めは打率.268、外角高めは同.237と数字が落ちるが、それでも苦手とまでいうイメージはない(ほかのコースはすべて打率.300以上)。
今シーズンの前半、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は「翔平にはストライクゾーンをコントロールしてほしい」と盛んに繰り返していた。特に"好機の場面で打ち気に逸(はや)りすぎる"という大谷の数少ない突っ込みどころを指摘したものだが、その点も解消されたのだろう。9月27日のロッキーズ戦まで、走者を得点圏に置いた直近の12打数で、11安打と異常な勝負強さを発揮。これに関し、ミューレン打撃コーチも、大谷がストライクゾーンの整備に成功している証拠と見ている。
「それは間違いない。100%だ。かつてはスイングしていた(ストライクかボールかの際どい)球を見逃すようになった。選球眼は向上したように思う。打席での集中力が増したことも、打者に専念したことに起因しているんじゃないかというのが私の見立てだ」
【誰が活躍するかはやってみないとわからない】2024年の大谷はフルタイムのDH(指名打者)であるがゆえ、圧倒的な打撃成績を残しながらも、ナ・リーグのMVP投票では他の選手に票が入るのではないかと目された時期もあった。それがシーズン終盤、最も大事な時期に大爆発したことで、"MVP論争"はもう、話題にも上がらなくなった。ミューレンも「今季は満票ではないかもしれない」と述べながらも、大谷MVPは当確と太鼓判を推した。
「メジャーの歴史でも、誰も見たことがないような実績を残したのだから、守備につかない選手がMVPに値しないという考え方には同意しない。1年に30〜40試合しか登板しない先発投手がMVPに選ばれることもあるだろ? 翔平はクレイジーな数字を残しているのだから、その貢献度は評価されて然るべきだ」
今後、残る注目ポイントは、大谷がプレーオフでどんなプレーをするかに絞られる。メジャーリーグ7年目にして自身初のポストシーズン。投手陣に故障者続出のドジャースがナ・リーグ内でも本命視されるかは微妙だが、上位進出には大谷の活躍は必須に違いない。去年のWBC、今季終盤の勝負強さを見る限り、このまま爆発し続けても、もう誰も驚くまい。
もっとも、大谷に関して絶賛を繰り返したミューレン打撃コーチは、ポストシーズンでの活躍については少し慎重な姿勢を見せる。実力そのものを疑っているのではない。背景に、"プレーオフは別物"という考えがある。
「私はニューヨーク・ヤンキースのマイナー組織で育ったが、当時のヤンキースのベストプレーヤーはデイブ・ウィンフィールドだった。ウィンフィールドは凄い打者だったが、ポストシーズンでは打てなかった。バリー・ボンズはキャリアの終盤までプレーオフで最高のプレーはできなかった。アーロン・ジャッジ(ヤンキース)も、まだポストシーズンでは大暴れしていない。つまりプレーオフはまったく別の舞台で、そこで誰が活躍できるかはやってみなければわからないということ。
翔平への期待度は大きく、初めてのポストシーズンが思い出深いものになることをみんなが望んでいる。そんななか、リラックスできるかどうかが鍵になるのだろう」
ウィンフィールドはプレーオフ通算打率.208、2本塁打に過ぎず、ヤンキースの主砲として臨んだ1981年のワールドシリーズでは22打数1安打でドジャースに敗れる一因となってしまった。ボンズは2002年のプレーオフでの打率.356、8本塁打という鬼神の働きが目立つが、それ以外の年は打率.198(合計106打数21安打)、1本塁打と確かに打てていない。現代の最強打者であるジャッジもポストシーズン通算打率は.211だ。
これらのスーパースターたちの苦戦は、必然的に投手レベルが上がり、緊張感が極限に高まるプレーオフの難しさを物語る。逆に言えば、ここで大谷がどんなプレーをしてくれるかは余計に興味深い。そこでの活躍を楽しみにしているのは、大谷の成長過程を目にし、日本球界との関係も深いミューレンも同じだ。
「日本人コミュニティをはじめ、多くの人たちが彼の成功を期待している。そのなかで、みんなの思いに応えようなどと考えすぎるべきではない。自身にプレッシャーをかけすぎず、普段通りのプレーをしてくれることを願っているよ」
"The Year of Ohtani"を締めくくるべく、最もエキサイティングな季節がもうすぐ幕を開ける。まるでフィクションのような大谷の大活躍は、継続するのか。"球界のユニコーン"は、もちろんリーグ全体でも最大の注目選手であり、背番号17の一挙一動に世界中からの視線が注がれ続けることは間違いない。